ミッドナイトタウン LowB

W4Zem4

シ発点

「…ー。五匹目」



割れた煉瓦の上に座り、タバコを吹かす。

残弾数の確認と共に地図を確認する。それにしても残火が熱い、少し移動しよう。



「最近は妙に多いな」



足元には血溜まりができている。

しかし、そんなこと気にもせず、血の足跡を残し行く先もなく歩き出す。



「ッチ、またか」



耳元の受信機から電子音が響く。

受信機…公認の狩人のみが所持し、魔力の変質を感知し発芽種の出現と数を知らせるものだ。



「一応私の本業研究者なんだけどな…」



溜息交じりにタバコを吐き、煙に消えた。

彼女は”独特な移動方”をよく使う。煙に変化し、目的地で自身の体を再現する。


発芽種…これもまた未解明の物だ。

膨大な魔力と身体能力を手に入れ、脳が焼き切れ知能のない獣と化す。

無尽蔵に人を殺し、食いつくす為生かしてはおけない

そして、発芽種はカルア独特の物であり、永夜と何かしらの関係があるという点だ。


――四時間後――



「…終わった…」



立っているだけでやっとだ、幸い家まで近い。

おぼつかない足で細い路地へ進む。

装備に血が染み、戦いの壮絶さを物語っていた。

ただ、そこに一滴たりとも自分の血は混じっていない。


路地の少し先に屋敷が佇む。

この街並みにはあまりにも場違いで、あまりにも荘厳ソウゴンだった。



「…ただ…い…ま」



小さく呟く。

扉を開けると同時に玄関に倒れ込む。

屋敷の外観、内装共に一切装飾品はない。

必要最低限の物のみが揃い、主張は一切しない慎ましさを感じる。



「…おかえりなさい、師匠」



「…」



「また魔力切れですか?。まったく」



手慣れた手つきで仰向けに直し、心臓部に手を当てる。

従者だろうか?

真っ白のエプロンドレスを纏い整えられた白い髪、

人形のように整った容姿と身体は人気のない無機質な屋敷によく似合う。



「おぇ…あ、ありがとう…」



少し顔を上げるが、重力には逆らえなかったようだ。

そのまま地面に突っ伏す。静かな屋敷に寝息が響く



「おやすみなさい、師匠」



呼吸が静まったことを確認すると、抱きかかえて彼女の部屋まで運ぶ。

手慣れている様子から見て日常茶飯事らしい。


この屋敷は妙に美麗だ。

埃一つなく天井から床まで全てに磨きがかかったかのように艶めいている。

見たところ、従者は先程の少女にしかいないようだが…。



「ちゃんとした休息も大事ですよ、師匠」



ベットに寝かせ、毛布を掛ける。

心なしかさっきより表情が緩んでいる。


静かにドアを閉め、部屋を後にする。



「私もそろそろ寝なければ」



小さく欠伸をしながら、玄関口に向かう。



「制御盤、開示」



玄関口の中央部に石柱が現れる。

平らな上面に文字が刻まれている。解読はできない。



「保管庫に厳戒体制を設定」



従者に応えるように石柱が怪しく青い光を発する。



「対発芽種用設備を起動…制御盤、戻れ」



石柱が消え、屋敷の入り口が消失する。

隠蔽か、はたまた本当に消えているのか。



「…」



足早に階段を上り、自分の部屋に向かう。

無駄に部屋だけは多いようで、そのほとんどは使われていない。



「リアスさんの部屋はまた明日掃除しましょうか」



ベットに横たわり、目を瞑る。

机と本棚とベッドだけのシンプルな部屋だ。

綺麗かつ見栄えもいいが、彼女の姿と相まってドールハウスのようにも見える。



「おやすみなさい」

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