偽物英雄は今日も嘘をつく
阿黒あぐり
一章
1 偽物英雄
「ふぅーーーー」
大きく息を吐く。
鏡に映る自分を見る。イケメンである。
キリっとした目つき、スッと伸びた鼻筋、口角を上げれば人を安心させる笑みが浮かぶ。何より目を引くのはその頭髪――日本人が持つ黒髪とは真逆の色彩である白銀色の髪。服装はフォーマルなスーツ。襟や裾がヨレていないことも確認する。ボタンの閉め忘れなど持っての他。ネクタイの位置も整え、完璧な姿を作り出す。
「はい。はい。いいえ。いいえ。そうですね。そうですね。大丈夫です。大丈夫です。任せてください。任せてください。」
それぞれの単語を二回復唱しながら集中を高める。
繰り返した言葉は、使うことが多いであろう単語である。
この後にある恒例の記者会見に備えて、集中を高める。
人の前に立つ――それは英雄と呼ばれることを課した自分にとって最も注意すべき事柄である。
そうやって意識を高めていた耳に扉をノックする音が聞こえる。
「失礼します。
聞こえてきた声はタイムリミットを告げる。
「わかりました。向かいます」
改めて鏡に映る自分を確認し、最後にそばに立てかけてあったモノを手に取る。
それは、数年前までは見慣れるはずなどなかったもの。見たことはあっても、多くはコミックやアニメなど中で――。
手に取ったものは武器。自身の髪と似た色合いを持つ白銀の刀剣。それをベルトとは別に取り付けられた剣帯に差す。
「よし!」
気合は入れた。覚悟なんてものはとうの昔に済ませた。見た目は完璧。答えるべき内容は頭に叩き込んである。何も問題はない。
自身にそう言い聞かせながら廊下を歩く。
今更おじけづくことはない。
自身の歩む道と、その歩み方はすでに決めたのだから――。
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「ただいまより、
進行役の女性によって記者会見は始まる。
壇上に登り、記者たちに向かって正面を向くとパシャパシャとフラッシュがたかれる。
向ける顔は笑顔だ。鏡の前でやった人を安心させる笑顔。多くの人にとって希望となるべき存在であることをアピールするためにこの笑顔は絶やさない。
顔が良くて本当に良かった。
「改めまして、伏野白斗です。皆様お集まりいただき誠にありがとうございます」
しばらくして、シャッター音が止み場が整えられていく。
記者達も質問のために準備を切り替えてく。
そうして記者会見という名の戦場が始まる。この前までいた本当の戦場とは違う――されど、戦う場であるという認識は、同じく持って。
進行役の女性に従って次々と質問が飛んでくる。
内容は予想通りに、この前までの遠征で行ってきた戦場——迷宮についてである。
「迷宮内部での新素材について公表できることがありましたら、ぜひお聞かせください」
「そうですね。原則として今回の迷宮での新素材の獲得物につきましては、一部を除いて、取り扱いの権利について後日オークションが行われることが予定されております。そのため今この場での発表はできません」
権利関係は怖いので当然口にはしない。
「今回の探索では、スポンサーである
「はい。まず、胴体部分に新たに取り付けられるようになった煙幕展開の拡張パーツについてですが、かなり使い勝手が良かったですね。充填式でしたが、一回の充填量が多いため、使える場面が多かったです。あと、特によかった部分では足装備ですね。従来の製品と比べて拡張性は変わりませんでしたが、グリップ力がかなり上がっていて、高速での戦闘に対応できるものでした。」
装備についての質問は来ることが予想されていたのであらかじめ考えてあったものをそのまま答える。
「今回の探索の自分なりの手ごたえを点数で表すなら何点ですか?」
「70点といったところですね」
内心では70点どころか30点であったとしても、それはおくびにも出さない。
「今後の予定について何かお決まりですか?」
「とりあえず帰って寝ようかなと思います。そのあとのことはまだ決めてません」
笑みをたたえながらの受け答え。探索の予定について聞きたかったのだろうが、わざと少しずらした回答をすることで小粋な感じを挟む。
「今後探索予定の迷宮についてはお決まりですか?」
「いいえ、まだです」
真面目に答えておく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「何かメッセージをお願いします」
「力あるものとして責務を果たします。任せてください」
これは決意だ。実際に任せれるだけの力があるわけではない。しかしながられっきとした自信をのぞかせる面持ちで答える。答えなければいけない。
質問は飛び続け、予定していた時間を押し始めたため無理やり切り上げたことによって記者会見は終わりを迎えた。
———————————————
記者会見を終えて、控室に戻らず、関係者に軽い挨拶だけをして、そのまま会場を出る。
出てすぐのところに止まっていた車に速攻で乗り込み完全にドアを閉じる。
「お疲れ様です」
「
ドアを閉じ切ったのを確認し、運転手を除いた人の気配を探る。車の中も外も人がいないことを確認する。それでもまだ気は抜かない。否——抜けない。
たとえこの車が特注の品であっても、その性能が防弾どころか防爆まで可能で、装甲車と差し支えない性能をしていて、さらには内部の音や光を漏らさないとしても気は抜けない。
数年前、世界は変わった。のちに
発展したのは科学だけでない。人もまた変わった。一部の人間がスキルと呼ばれる不思議な力を使えるようになった。これまでの人間の規格を逸脱する力を持った人間が現れた。
そのような世界において絶対に他者に干渉されていない空間というものは、それまでの世界より範囲を狭めた。
いつどこで誰が見て、誰が聞いてるかわからない。
メアリーはいつでも見てるし、いつでも聞いている。
そんな冗談はさておき……
そんな世界で嘘をついている人間――とりわけ、ばれるわけにはいかない嘘で固まってしまっている人間は本当の隙を見せるわけにはいかない。
本当は今すぐにでも溜息を吐いて、吐いて吐いて吐きまくりたいが、そんなことはしない。自身が英雄としてあり続ける。
それが彼の選んだ道なのだから――
――――――――――――――――――――――――――――――
主人公の特性:イケメン
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