第10話 友でありライバル、好敵手
試験が近づくにつれてつつがなく勉強が捗った一週間の終盤、土曜日に俺は家を出て歩いていた。
そろそろ試験二週間前に迫っている今日は、気分転換を兼ねて自宅ではない別の場所で勉強をすることになった。
その提案を出してきたのは、学校での数少ない友達の秋人だ。
平日はひたすら部活に取り組んでいる秋人には、土日くらいしか長時間勉強できるタイミングがない。
図書館の前まで来たところで秋人を見つけ、合流して二人して館内へ入っていく。
「悪りぃな、呼び出して」
「別にいいよ。ずっと家でっていうのも退屈してたから」
「そう言ってもらえると助かるわ」
ヒソヒソと小さな声で会話しながら席を探しに読書兼自習スペースがある二階に繋がる階段を上っていく。
「いつもは土曜も部活あったよな?」
一度用事があって土曜に学校へ訪れた際にサッカー部が練習をしているのをこの目で見た。
「さすがに試験が近いからって監督が休みにしてくれたんだよ」
「そういうことか」
そこらへん理解のある監督かそうでないかでだいぶ変わってくるだろう。
休日といっても土曜だからなのかそれほど混み合ってはいなく、難なく二席空いている所を見つけることができた。
無駄話もなしに早速各々で勉強を始めていく。
ここで突然だが、秋人はとても頭が良い。
いわゆる地頭が良い。
本人曰く、『授業を聞いていれば大抵のことはわかるだろ』ということらしい。
確かに授業で習ったことと先生が言ったことを全て聞いて記憶していればそう言えるかもしれないが、一度で理解して覚えていられないから皆苦労しているのだ。
普段部活を終えて家に帰ってからは疲れてほとんど勉強しないまま寝ていると本人は言う。
試験前の与えられた部活休みを利用して勉強し、以前の試験では全科目90点近くを取っていた。
一部の科目に至っては凡ミスによって満点を逃していた。
時間をかけて勉強している俺にとっては、まさに天敵とも言える。
だから今は、この男よりも高得点を取ることだけを目的に勉強しているくらいには俺の中での秋人の存在は大きい。
高校以前、もっと前から秋人と出会っていればよかったと思う時がたまにある。
ライバルと言っても、時折秋人から分からない問題について聞かれるときは嬉しくも思ってしまう。
この男が分からないと聞いてくる問題は、そのどれもが難易度の高い応用問題なため、たまに俺も教えられない時がある。
その時は二人で協力して正解を導いたりしている。
今回の試験では、これまでうちの高校ではなかった新しいシステムが導入される。
それもあってか普段不真面目な生徒すらも必死に勉強している姿をよくみる。
昨日金曜日の放課後ホームルームで担任から聞かされた新システム。
それは、試験による成績開示をするというもの。
その学年の生徒数を母数として試験成績順位が公開される。
全科目合計点数を基準に順位をつけられる。
このシステムの背景には、生徒同士で互いに高め合い好成績を出すことを目的として学校長含めた教師、さらには保護者会でも多数決により取り入れられたのだそう。
我が子の成績の悪さを加味して同意した保護者がいる一方で、子どもが可哀想と反対した保護者も多くいたそうだ。
まぁ俺としては大歓迎というか、秋人との差を認識できるからより一層頑張れる。
週明けには試験二週間前となり、決定した具体的な試験範囲を伝えられる。
気を引き締めていかなければいけない。
──────────
俺には友でありライバルと呼べる人が一人いる。
榎本楽
高校の入学式で一度話してからは、他クラスでありながら一番仲のいい友達になった。
普段から眠そうな目をして、面倒臭いといつも言っているからおそらく口癖なのだろう。
気だるそうな見た目をしていて覇気なんて微塵も感じられないが、俺は楽をとても尊敬している。
部活に入っていないはずなのに引き締まった身体は鍛えていないと納得できない。
勉強に関しては言わずもがな、楽は人一倍努力をしている。
俺はそんな楽の努力を間近で感じることで刺激を受けている。
楽に負けたくない、こいつよりも努力してやる。
それは負かしたいとか嫉妬などではなく、純粋に楽の隣に立ちたいという想いが強い。
楽がいるから部活でも手を抜くことなく死ぬ気で頑張っているし、勉強でも一切手を抜いていない。
だから、俺はお前から褒められても何も嬉しくはない。
なぜなら俺なんかよりもお前の方が全然すごいからだ。
今回の試験でも、楽と戦えるってだけでいくらでもやる気が湧いてくる。
けれど俺が本当に楽しみなのは、この試験が終わった後に控えている、体育祭だ。
そこで楽とどんな勝負ができるか楽しみでならない。
「…………」
だが、どうにも邪魔が入りそうな予感がする。
………安藤、あいつは必ず楽に接触してくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます