転校生は時空けいさつ
水鳴諒
第1話 交通事故
学校からの帰り道。
今日は朝、お母さんが、おやつはドーナツを作っておくからねって言っていた。
わたしのおとうさんとおかあさんはお仕事が忙しいから、わたしは帰ってから一人で過ごす時間が長い。正直、ちょっとだけ寂しい。でも、猫のふーがいるから、いつも二人で待っている。
「おやつ、楽しみだなぁ」
自然とほほが持ち上がる。お口の中には、想像するだけで甘い味が広がる気がする。
そう考えながら歩いていると――キキキっと高い音が聞こえた。
驚いて顔を上げると、トラックが私の方につっこんでくるところだった。
逃げないと。
そう思うのに、体が動かない。運転席を見ると、運転手さんの頭の上に、小さな鬼みたいなのが見えた。なに、あれ?
「危ない!」
直後、わたしは道の端に突き飛ばされた。突き飛ばした子は、わたしを抱きしめるようにしていたから、転びかけたけど、すり傷もない。ぎゅっと、わたしは両腕で抱きしめられている。見ればそこには、目の形が綺麗な男の子がいた。
「だいじょうぶか?」
「う、うん……ありがとう」
腕の中におさまったままで、わたしはおそるおそるトラックの方を見る。近くの歩道に乗り上げていた。まだぼうぜんとしたままで、わたしはそちらを見る。近くを歩いていた人が、スマホでけいさつやきゅうきゅうしゃを呼んでいるみたいだった。おとなが、わたしと助けてくれた男の子の方へも歩いてくる。すると男の子は、私から腕を放した。
「気をつけろ」
男の子はそういうと、おとなの人達が集まってくる前に、歩いていなくなってしまった。そちらを呆然とみていると、けがはないかとみんなに聞かれた。まだげんじつかんがなかったから、わたしは何度も頷いた。
それからは、一人で帰った。
けがも無いし、わたしはふわふわとこわいゆめを見ていた気分で、家へともどった。
そしてげんかんまで出てきたふーをだき上げたところで、急にこわくなって、その場に座り込んだ。目をぎゅっと閉じると、なみだが出てきた。
「こわかったよぉ」
ふーの体に頭を押しつけて、わたしはぽろぽろと泣いてしまった。
――その次の日。
結局きのうの話は、おとうさんにもおかあさんにもしなかった。しんぱいをかけると思ったから。
「今日は気をつけて帰ろう」
そう考えながら歩いていたときだった。
キキキっと、きのう聞いたのと同じタイヤがすべる音が聞こえた。
見れば、今日も頭の上に子鬼が乗っている運転手さん、昨日とは別の日とだけど同じ子鬼がのっている人が、慌てたようにハンドルをきっている。
「あ……」
また、わたしはたちすくんでしまい、体が動かなくなる。
「危ない!」
すると、きのうと同じ声がかかって、私はまたつき飛ばされた。そして道の端で抱きしめられるようにされた。そこには、きのうと同じ男の子が立っていた。
「あ、ありがとう……」
自分のみのきけんもかえりみずに助けてくれた男の子に、私は震えながらきく。
「この辺りに住んでいるの?」
二日も続けてこんな事故にあうのもへんだと思ったけど、その二回とも助けてくれた男の子が同じだなんてぐうぜん、あるのかなってわたしは思った。
「そうかもしれないな。俺は今日こそは子鬼の処理をしてくる。そこを動くな」
男の子はそう言うと、トラックの方へと向かった。
そして円の中に金色の五芒星が描かれた紙を、トラックのしゃたいにはりつけた。わたしがぼうぜんとそれを見ていると、すぅっとうんてんせきにいた子鬼の体が消えていった。
なに、あれ?
おどろいていると、男の子がもどってきた。
「ひなた」
「っ、どうしてわたしの名前を知っているの?」
「――おれは、さがらあおいという。理由は、おれがおまえを守りにきたからだ」
「え? それってどういうこと?」
わたしはきょとんとした。じっさい、昨日と今日、二回も助けてもらった。
「おれは、タイムパトロールをしている。今回は、こどものお前を守りやすいように、子どものすがたでここにきた。ひなたは、未来でいぎょうをなす。だから、かこにもどって、今のうちにお前にがいをなそうとするものたちがいるんだ。おれはそれらからお前を守りにきた。仕事だ」
「タイムパトロール?」
「ああ。時空けいさつの仕事なんだ。れきしをゆがませないように、未来かられきしをかえようとかんしょうさせないように、おれはお前をたすける」
あおいくんはそういうと、まじまじとわたしを見た。
「いま、子鬼を見ただろ?」
「うん」
「おまえをねらってるやつらは、この時代では都市伝説といわれる怪異をはなって、おまえの未来を変えようとしているんだ。でも、おれが必ず守るから、おまえはしんぱいしなくていい」
あおいくんは、わたしの体をささえていた腕をはなすと、周囲を見わたす。今日はだれもおとなの人はいない。トラックから、よろよろと運転手さんが下りてきて、わたしの方へと歩いてくる。
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい!」
わたしはそちらに返事をし、それからあらためてあおいくんを見ようとしたら――さっきまであおいくんがいた場所には、もう誰もいなかった。
この日は運転手さんが自分でけいさつときゅうきゅうしゃに連絡をした。
わたしは平気だったけど、きゅうきゅうしゃにのせられた。そしてあわてたようにおとうさんとおかあさんが病院にきてくれたとき、急にこわくなって、ぽろぽろと泣いてしまった。
これが、わたしの不思議なたいけんのはじまりだった。
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