ちくちく言葉浄化係
水鳴諒
第1話 見知らぬ洋館
今日は学校でいやなことがあった。
ちくちく言葉を話す子がいて、わたしはよくないよって言ったんだけど、そうしたら愛ちゃんが『空気読めない』『そういういい子なの嫌い』って私にもちくちく言葉を言ったの。そうなのかな? って、なんだか心の中に曇り空が広がるみたいに感じて、わたしは悲しいなって思った。
わたしは、別にいい子じゃない。
ただ、みんなが嫌な思いをしたら、それは悲しいなって思っただけなの。でも、私の言葉が愛ちゃんにとっては、ちくちく言葉に聞こえたのかもしれない。
言葉って、難しい。
「あれ?」
ゆううつな気持ちで帰り道を歩いていたら、近道の裏道を通ったところで、私は見たことのないおうちを見つけた。朝まで、そこは駐車場だったと思う。だけど今は、この前読んだ児童書のさし絵に出てきたみたいな、洋館っていうようなたてものが建っている。
「なんだろう?」
家は半日で建ったりするのかな?
不思議に思って、わたしはその家の前で立ち止まった。すると茶色い扉が開いて、中からひょいっと、小学校六年生のわたしと同じくらいのとしの男の子が顔を出した。金色のかみに、緑色の目をしている。外国の人だと思って、ちょっとだけわたしは緊張した。会ったことがないからだ。
「なにか?」
すると男の子は日本語でわたしに聞いた。それにほっとして、わたしは一度視線を下にさげてから、顔を上げて笑顔をうかべた。
「朝はここにおうちが無かったから、びっくりしちゃって」
「ふぅん。あんじがかかっていないんだ」
「うん?」
「ああ、なんでもないよ。よかったら、少し紅茶でも飲んでいく?」
にこりと笑った男の子を見て、わたしは少しの間考えた。知らない人のおうちに行ってはいけないから。だけど、わたしと同じくらいのとしなんだし、いいのかなぁ。なにより、紅茶っていう言葉にこころが明るくなった。わたしは人生でほとんど紅茶を飲んだことがないから。
「ぼくはルイ・サンジェルマンというんだ。サンジェルマン伯爵と呼ばれているよ。きみは?」
「わ、わたしは花野咲香です」
「咲香か。よろしく」
ルイくんは、そう言うと家の中へと入っていった。ドアを開けたままにしてくれている。
まだ、空は明るいし、今日は学校から早めに帰ってきたから、ちょっとした非日常、ぼうけんをしてみたいとわたしは思った。
「おじゃまします!」
こうして私は、ルイくんのおうちらしい洋館へと、足を踏み入れた。
ちくちく言葉浄化係 水鳴諒 @mizunariryou
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