7 山育ち、ダンジョンに慣れる

 あれから、しばらくの時が過ぎた。

 俺はもう少ししたら学校とやらに通うこととなるのだが、それまでは自由の身だ。

 ダンジョンに潜って、食い扶持を稼ぎ続ける。

 二日目に潜った際は結構な額をもらえたが、その何割かはハイアルミラージの角が理由だった。

 ハイアルミラージはそうそう第二階層では出ないらしく、アレ以来稼ぎは思ったより少ない。

 第三階層が見つかればそれも解決するのだろうが、未だに第三階層が見つかる様子はなかった。


「……今日は、何やら人が多いな」


 その日は、普段と少し様子が違った。

 なんというか、第二階層を行き交う人が多い。

 普段なら第二階層を行き交う人の数はそこまでだ。

 大抵の場合は、途中ですれ違って少し挨拶をする程度。

 同じ顔ぶれともそう出くわさないから、特に関係性も発展するわけではない。

 一人は一人で気楽なので、それでも構わないのだが。

 ソラ殿は俺に、周囲の人ともっと関わってほしいそうで。

 俺自身、それは間違っていないと思う。

 なので、可能なら周囲の探索者と親しくなりたかったものの。

 今のところ上手く行っていない。


 話を戻そう。

 そんな第二階層の探索者事情が、今日は普段と変わっていた。

 明らかに、行き交う回数が多い。

 どころか戦闘中に出くわすこともある。

 こちらがアルミラージを素手で吹き飛ばしているところを見られて、引きつった顔で向こうが逃げ出すなんてこともあった。

 怖がらせてしまったようで、申し訳ない。


「何か、人が集まる理由があるなら、目立たないようにせねば」


 目立ちたくないわけではないが、仮に人が集まる理由があってもそれは俺と関係ないだろう。

 変に目立って迷惑をかけるよりは、隅っこで静かにしている方がずっといい。

 狩りもあまり捗らないし、今日は探索に集中してみるのもいいかもしれないな。

 そんなことを考えている時に、俺はその集団と出くわした。


 一人の女子おなごを、複数の男性が囲んでいるのだ。

 よもや、何か危ないことでもあったか? と思って少し近づいてみる。

 万が一のことがあったら、助けに入る必要があるだろう。

 爺ちゃんの教えだ、困っている人は絶対に見捨てるな。

 実践の時が来たかも知れない。


 と、思ったのだが。

 近づいてみたら何ら問題はなさそうだ。


「……囲んでいる男全員より、中心にいる女子の方が強いな」


 どう考えても、女子の方が男たちより強かった。

 装備も豪華で、なんというか良くも悪くも場違いである。

 端的に言って彼女は、第二階層に似つかわしくないほど強かった。


「はーい、それじゃあ配信始めるから、ちょっと下がっててねー」


 快活な声、見た目通りだ。

 赤みがかった髪色を横で小さく二つに結びツインテールにして、丸い帽子と可愛らしい装飾のドレス。

 なんというのだろう、ソラ殿が言っていた……そうだ。

 魔法少女、という感じの衣装である。


 女子の言葉に、男たちは素直に従った。

 アレは……鼻の下を伸ばしているなぁ。



「はい、というわけで。今日もソーサラー・シオリの、初めて行くよ!」



 女子――シオリと名乗った彼女は、眼の前に浮かぶ光の玊へ向かってそう宣言した。

 なるほど、アレがダンジョン配信というやつか。


 先日、ソラ殿から教えてもらった。

 ダンジョンの中で配信というやつをやるのが、最近流行っているらしい。

 配信者と呼ばれる探索者が、動画サイトを利用して全国に探索の様子を配信するのだとか。

 なるほど、それは見ごたえがあるだろうなと思う。

 眼の前で強い戦士が強大なモンスターと切った貼ったするのだ。

 なかなか盛り上がることは、素人の俺でも解る。


 というか、見せて持って以来俺はそのダンジョン配信にハマっていた。

 何せ、配信の中で探索者がそれはもう、凄まじい激戦を繰り広げているのである。

 ダンジョンの最深部で、心躍るような闘争が行われていると知ってしまったら。

 もう、辛坊たまらんとしか言いようがない。

 早く俺も、第二階層を突破して強力な魔物と戦いたい。

 配信を見ながら、強くそう思ったものだ。


「今回はここ、東地区中央ダンジョンで、初心者向け配信を行っていきます。宜しくね!」


 ――とはいえ、眼の前で行われている配信は、俺の求めるものとはまた違う種類のもののようだが。

 初心者向け配信、言葉の意味は理解できる。

 ダンジョンにあまり潜ったことの内容な人向けに、色々と講義を行うのだろう。

 であれば俺がその配信を眺める必要はあるまい。

 何より目立って、彼女に迷惑をかけるわけにもいかない。

 ここは早々に距離を取って、自分の探索に戻るとしよう。


 それにしても、今日はやたら人が多かったのは、もしかしてシオリ殿がここに来ているからか?

 なるほど、シオリ殿はどうやら人気者のようだ。

 こうして出会えたことを、光栄に思うとしよう。


 そう思って背を向けた一瞬。

 俺は視線を感じた。

 思わず振り返る、気のせいか?

 振り返った先には、配信を行うシオリという探索者とその取り巻きしかいない。

 俺が振り返ったか、視線を反らしたのだろう。


 しかし、なんというか変な感じだ。

 俺の直感に従えば、視線の主はあのシオリ殿である。

 彼女が俺に用があるとでも?

 疑問に思うものの、答えは出そうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る