勇者は魔王に敗北しました

雙海(双海)

プロローグ

「ふふふ……。勇者よ、よくぞここまで来たな……。しかし、ここまでだ……」


「ここまでなのは魔王自身だ! 世界の人々のために、お前を倒す!」


「身の程知らずな人間なことだ。お前が今まで倒した四天王など我にとってはただの小間使いにすぎぬ……。勇者の卑小さをここで思い知らせてくれよう……」


「勇者は魔王などに負けない! お前を倒す! うおおおお!」


「笑止!」


「うぎゃあああああ……!」


「くはははは……! その程度だったか、勇者よ……!」


「う……。そ、そんな……」


「トドメだ! 死ぬがよい……!」


「ぎゃああああああ……!」


 ——勇者、敗北す。


 その知らせはまたたく間に世界中へと広がり、人々の心は絶望に支配された。




 世界に残された4つの大国は協議を行い、魔王の封印を人類最後の対抗手段として採用することに決めたらしい。


 何でも封魔の大魔法使いなる人がいるらしく、その人の大がかりな術式を持って一時的に魔王を封印するという話だった。


 しかし、その封印の術式には何日もかかるそうだ。


 まあ、世界中が魔王を討ち取ってくると信じて疑わなかった勇者を持ってしても勝てなかったのだから、それぐらいの長丁場は当然だろう。


 よくわからないのは、その封魔の魔法使いの護衛として選ばれたのが僕だということだ。


 僕の名前はハル。先日成人したばかりで、国の正式な兵士になったのもつい最近となる新兵だ。


 これまでに何か取り立ててすごいことはしていないし、出身の家も平凡な、まったく面白みのない人間である。


 大魔法使い護衛の命を受けた時、僕はてっきり部隊の内のひとりなのかと思った。


 ところが、僕ひとりだけで行けという話だった。


 ちょっと待ってほしい。今この時、世界の存亡がかかっているのではないのだろうか?


 何故、実戦経験のひとつもない僕が……?


 しかし、新兵なりたての僕に疑問を呈することはできず、言われるがまま、大魔法使いの所へ単身向かうのであった。

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