第17話 お嬢様の遊戯
高い高いうな重を美味しくいただいた後、俺たちは再び街に繰り出していた。午前がノープランなら、当然午後もノープランである。はてさて、どうしたものか。
「あの、真司さん」
「ん、どうした?」
「ここ、行ってみたいです」
「ここって――」
雪美が指差していたのはゲームセンターだった。意外だな、こんなところに興味があるなんて。てっきりお嬢様はゲーセンなんか行かないと思っていたけど。
「ゲーセン、行ったことあるのか?」
「いえ、ないです。気になってはいたんですけど……」
「いいんじゃない? どうせ午後の予定も決めてないんでしょ?」
どうやら志保も前向きのようだ。よし、行ってみるか。雪美に合わないようなら出ればいいだけだしな。
「じゃあ行こうか」
「はい……!」
俺たちは三人でゲーセンの自動ドアをくぐり、中に入った。冷房がガンガン効いてて気持ちがいいな。それに、この筐体から流れる音声がやかましい感じもゲーセンらしい。
「うわあ……!」
雪美はまるで新世界を見るような目つきをしていた。いくらお嬢様といってもまだ中学生、こういうものには興味があるに決まっている。最初はどうかなと思ったけど、案外ここに連れてきて正解だったかもしれないな。
「何で遊ぼうか」
「目移りします……!」
「まずはあれじゃない?」
志保の視線の先にはメダルゲームのエリアがあった。いかにもゲーセンらしいな、あれがいいかもしれん。俺たちはメダル貸出機で50枚ずつメダルを手に入れた。
「よし、せっかくなら勝負しようぜ! 30分で一番メダルを増やした奴が優勝で、残りの二人がそいつに奢るってことで」
「いいわね、負けないわよ!」
「よく分かりませんが、精一杯頑張ります……!」
こうして、俺たちはそれぞれ散らばっていった。俺は早速スロットのコーナーに向かう。二人には悪いが、昔は友達とよく競ったもんでな。へっへっへ、軽く一儲けしてやるぜ――
***
「負けたー!!」
開始15分というところで、俺はあっさり全てのメダルを失ってしまった。くそう、昔はこんなんじゃなかったのに。やっぱ何事も勘を忘れると駄目だな。
「他の二人はどうしてるかな……」
俺は店内をうろつきながら、志保と雪美の姿を探した。二人は何のゲームで遊んでるのかな。おっ、ここは競馬ゲームのエリアか。
「差せーっ! 差せーっ!」
おやまあ、大声張り上げるまで熱中しちゃって。一体どんな奴が遊んでるのか――
「奢らせる気かーっ! 走れーっ!」
「えっ……志保?」
「し、真司……!?」
そこにいたのは――まるで全財産を差し馬に突っ込んだギャンブラーのような顔をした志保だった。画面の中では、志保が賭けたであろう馬がみるみる追い上げている。
「おい、勝ちそうだぞ」
「あっ、そうだった! 差せーっ!!」
志保にこんな一面があったとは知らず、若干引いている俺であった。おお、もう少しでゴールだ。差し切るのか、それとも――
「うわああああーっ!!」
惜しくも二着に終わり、志保はその場で頭を抱えていた。どうやら単勝で全メダルを突っ込んでいたらしい。それにしても、こんなギャンブラーだったとは知らなかったなあ……。
「……その、元気出せよ」
「同情するならメダルくれ!」
「俺もねえんだわ」
とにかく、これで雪美の優勝は確定したわけだ。俺と志保は二人で雪美を探し回ってみる。おっ、あの黒のワンピースは雪美だな。どうやらメダル落としゲームをやっているらしい。
「雪美、調子はどうだ?」
「やり方がよく分からなかったのですが、慣れてきました。なかなか面白いです」
「ほう、そうか。……って、なんだこれ」
よく見ると、雪美の足元に何か大量に積まれている。中身は……大量のメダル? いや、ドル箱じゃねえか!! 何箱あるんだこれ!?
「な、何枚稼いだんだ!?」
「途中から数えておりません。あ、また当たりました」
「うえっ!?」
雪美の前の画面を見ると、なんだかやたらと虹色に光っている。これ、ジャックポットじゃねえか! すげえな! 金持ちには金が集まるんだな! これが資本主義か!!
「あの子、なんでも出来るのね……」
「ああ、全くだな……」
俺と志保は、ただただ大量に吐き出されるメダルを眺めていた。周囲の客もびっくりして目を見開いている。これで初めてメダルゲームをやったというのだから、末恐ろしいというか……。
***
雪美は大量に獲得したメダルを店に預け、メダルの通帳を見て満足そうにしていた。また遊びに来る気だろうか? まあ、新しい趣味ができたなら悪いことじゃないしな。
俺たちは再び店内をぷらぷらと歩く。すると見えてきたのは、プリクラが立ち並ぶエリアだった。へえ、最近はいろいろな機種があっていいなあ。
「ねえ真司、せっかくなら撮ろうよ」
「え、三人で?」
「当たり前でしょ! 雪美はどう?」
「よく分かりませんが、ぜひ」
女子高生の集団が多くいて恥ずかしいが、ここは仕方ない。俺は志保に背中を押されるままプリクラの中に入った。そのまま、雪美と志保の二人に挟まれるようなポジションになる。三人だとちょっと狭いな。
「おい、狭いって」
「いいから、撮るわよ!」
「あの、カメラはどちらですか?」
「ほらほら、そこにあるでしょ!」
「ちょ、お前ら押すなって」
「ほら、真司も雪美も笑って!」
「いえ~い」
「いえーい……?」
そのうち陽気な音声アナウンスが流れ始め、それに従って次々にシャッターが切られていく。雪美は頬を赤くして、やや照れ臭そうにしている。一方の志保は撮りなれているのか、ニッコリ笑顔で写っていた。俺は……二人に押されてよく分からん顔になっていたと思う。
「さっ、ここからが楽しいんだから!」
「これは……どうなさるんですか?」
「あんま変なこと描くなよ」
撮り終わった後は写真に落書きというわけだ。志保と雪美は二人で画面の前にぎゅうぎゅう詰めになり、あーでもないこーでもないとペンを走らせている。それにしても、雪美と志保がこんなに仲良くなるとは思わなかったな。
「出来たわよ!」
「その、真司さん……怒らないでくださいね?」
「?」
不思議に思っていると、間もなく筐体から写真がプリントアウトされてきた。おお、こんな感じか。二人が可愛く彩られて――って、うん? 俺の頭上に何か文字が――
「何が『バカ真司』だよ!?」
「私たちの総意だから。ねっ」
「は、はいっ……!」
「雪美……!?」
志保のやつ、雪美に変なこと吹き込みやがったな!? おいおい、こんな写真どうしろってんだよ。プリントアウトされた写真を眺めながら、俺はため息をついたのだった。
いろいろと遊びつくしたところで、俺たちはゲームセンターを出た。そういや、俺と志保で雪美に奢らないといけないんだったな。流石に「五千円」じゃなくてもいいだろうし、適当な喫茶店にでも行こうかね。
「雪美、甘い物でも食べないか?」
「というと?」
「いや、俺と志保で奢るからさ。なんでも言ってみな」
「じゃあ、またパフェが食べたいです……!」
「おう、分かっ――」
「『また』って何!?」
志保は戸惑ったような顔で俺たちのことを見ていた。そうか、コイツは俺たちのお見合いについて詳しく知らないんだもんな。
「いやあ、雪美とお見合いしたときに喫茶店に連れて行ったんだよ」
「はい。美味しいいちごパフェでございました」
「ふ~ん、そう……」
なんだか志保が急に拗ねてしまった。コイツは小学生かよ、全く仕方ないなあ。
「なんなら、その店に行こうか?」
「えっ、よろしいのですか!?」
「本当!?」
志保と雪美は二人して笑顔になっていた。息ぴったりだなあ、本当に姉妹みたいだ。どうなることかと思ったけど、三人で出かけて正解だったかもしれないな。
俺は二人を引き連れ、例の喫茶店へと向かっていた。そう、再び志保との関係が断絶されることも知らずに――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます