第6章 旅立ちNo.1

「そうじゃないって、いっておろうが!!」


“バッシーーーン”

大きな音が城中に響きる。ここ、御前広場はアゼル王代理とチャンドラ女王、その側近クバード、遠征から帰ってきたザビ元王。そして、練習中のガルシアの5人だ。


「えぇっい!本当に分かっておるのか?見本を見せるから、よ〜く見とれ!ほれ、クバード!見本を見せい!」


チャンドラ女王も我慢の限界まで来たのか、声を荒げた。ガルシアも“そんなに怒らなくても…”と思いつつ黙って見守る。

その張本人であるクバードは“たまったもんじゃない!”

本番より怖いチャンドラ女王である。クバードは“ガチガチ”になりつつ歩き出す。


「はい!よ〜いスタート!」


チャンドラは“パチンッ”と両手を鳴らした。


「初お目にかかります。トゥリオ2世王。友好関係を結びたいと聞いて嬉しく思います。これはつまらない物ですが、どうかお納め下さい」


クバードは両手にお盆の金を挙げて差し出した。それを見た王は立ち上がり、降りようとした。


「ちがーーーう!!!」


チャンドラ女王は思いっきりツッコミを入れた。なんだか、おでこに青筋が出てきそうだ。


「やーーい!これだからシロートはダメなんだよ!一層のこと、王との夫婦生活は解消して、どっかの王と再婚してみんか?」


ザビ元王は“満面の笑み”でチャンドラ女王の方に向いた。しかし、チャンドラ女王もそれどころじゃない!

ザビ元王はチャンドラ女王に睨み返し、こう発言した。


「先代王!アンタは黙って!」

「……はい」


チャンドラ女王はそんな余裕はないのだ。


「ほれ!ガルシア!しっかり見とくじゃぞ!お前が行うからな!」

「イエッサー!」


ガルシアは“バシッ”と軍隊式の挨拶で答える。


「……なんか、違うがまぁ良い。時間がないからのう、ビジバシいくぞよ!」


本当にそうだった。

かれこれ4時間。簡単な作業を繰り返して練習を終えた。まぁ、途中からザビ元王のチャチャを入れては“ビシッ”と返り討ちする場面もあったが…。


「まぁ、良かろう。くれぐれも友好関係を壊さないように。お主の行動で友好関係が強固になるか、破綻して戦争になるかがこの手に掛かってくるからのう!」


チャンドラ女王はプレッシャーをかけるように圧をかけてみた。

しかし、ガルシアはどこ吹く風の如く“のほほん”としていた。


「…本当に分かっておるのかのう」


チャンドラ女王は“ガクッ”と肩を落としていた。“まぁ、吉と出るか凶と出てるか、誰にも分からんからのう”目を細めてガルシアを眺めていた。

それに先代王である“ザビ元王”が虎視眈々と面白い半分でちょっかいを出してきた。最初のザビ元王は本気で反対していた、なんなら本気でクーデターを目論んでいたには違いない。だが、悲しいかなザビ元王とチャンドラ女王の違いは人気度合いである。だから、圧倒的に返り咲くことはなかった。

それと、ザビ元王は“アゼル王代理を男して認めている。むしろ、誇りに思っていた”とある筋から情報として耳に入った。だから、おもしろい半分、本気半分なのだ。


「おっ、これで失敗すれば王に返り咲きじゃな?」


チャンドラ女王もザビ元王に対して“ギロリッ”と睨み返した。

それを見たザビ元王も御前広場を後にした。


「フーーーッ」


王の運営は思ったより難航しそうだ。



ーーー当日、出向前。


「おーい、それとってくれ!」

「違う!そうじゃない!」


大きな船は慌ただしく荷物を載せていた。


「本当に大事でしょうか…?」


船長室は副船長と最後の打ち合わせで不安そうな表情を口にした。


「分からんが、クラーケンが出没する確率が高いのは確実だ」


船長は覚悟を決めた顔で副船長を見上げた。


ーーーー


その前日、船長と副船長、ガルシア、そのダマスア王国の使者、ガストン・マッツァーリはどう航路を決めるのかをテーブルの上で決めていた。

すると、ガストンはおもむろに立ち上がり頭を下げた。


「本当に申し訳ない!」


ガルシアも何が起きたのか、ビックリして聞き直した。


「いきなりなんだよ!なんか訳を話せよ」


ガルシアは諭すように促した。


「本当に申し訳ない!今から言うことは、ムチャしかない。それを踏まえた上で聞いて欲しい。それは…」


話はこうである。

ダマスア王国の使者に任命されて、往復で3週間の猶予がある。急いで歩いても2週間。つまり1週間である。では、何故海で直接の1週間のルートを行かなかったというと、巨大なクラーケンがいたからである。クラーケンが現れると実質生存者0%。つまり、ほぼ確実に海のもずくになるのだ。

だから、大回りをして確実にクラーケンがいない2週間をとるのか、歩いて2週間をとるのかを選択のを選ばなければならない。

よって、ガストンは歩くのを選択して選んだのである。


「そっかぁ、つまり亡命するのか?リスクを犯して帰るのか?どっちかだな?」

「あぁ、けどダマスア王国の町は支えてくれる人々がいる、それに応えたい!だから、お願いするんだ!どうかお願いします!」


今度はガストンが床に正座し、頭を下げて懇願した。


「頭を下げて下さい!今、どうすれば良い行動が出来るのか、考えている所です。

みんなで頭を出し合えば、きっと上手くいくはず!さぁ、話し合いを再開しましょう!」


ガルシアはガストンの肩を叩いて励ました。

“ダマスア王国の王様は聞けば聞くほど、クソだなぁ…けど、それに屈すのはそれまた違う。なんか無いかなぁ”

ダマスア王国へ向けて話し合いは行われていった。

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