第2章 砂漠の姫No.6

「そんなに警戒しなくてもいいですよ。で、今日は何の用事で来たのですか?」


アレスは友好的な顔をしていた。しかし、こんなアレスでも“悪魔”なのだ。警戒したところでバチが当たらないのだろう。


「父様はそんなことを言わなかった…まぁ、良い。月の魔神アレス!年に一回の更新に来たのじゃ。今年もどうか、宜しくお願いします」


チャンドラは深々と頭下げた。そして、それに倣ってガルシア一同は頭を下げた。


「いやですよ」


チャンドラはその言葉を聞いて凍りつく、と同時にガルシア一同は構える。


「そんなに構えないで下さい。アナタたちと攻撃するつもりはありません…もし、攻撃したいというのであれば攻撃しましょうか?」


アレスは一瞬“キラッ”と目が光った。そして月の魔神は圧倒的なオーラを醸し出した。さすが悪魔である。チャンドラも“ぐぬぬぬ…”と苦虫を噛み潰したよう顔になってしまった。


「では、サシル共和国に対して破棄ということで……と思ったのですが、アナタと一度話をしてみたいです。さぁ、こちらへ来て下さい」


アレスは一瞬、凍りついたような顔になった感じがしたが、すぐに笑顔に変わった。そしてアレスの腕の先にはガルシアの方へ向いていた。


「あぁ、いいぜ」


ガルシアもアレスのことに同意して歩き出す。


「ちょっと待った!いくら悪魔でも、それはないだろう!!」


サリムは槍を構えながらアレスに対して睨みつけた。


「おやおや、なんですか?」


アレスはゆっくりとサリムに近づいてきた。

“コツン、コツン……”

サリムはアレスに対してまるでヘビで睨まれたかのようにサリムの足が“ブルブル”震えた。


「もういい!サリム!謝らんか!!」


チャンドラはサリムに近づき、焦ってサリムを小突く。


「アレス様、申し訳ございません。このサリムという男、新人でして右にも左にも知りません。どうかお許し下さい」


チャンドラは深々と頭を下げてた。


「よろしい」


アレスはサリムに近づき、


「新人だったら仕方ないですね。今は気分良いい。もし次、同じことをすれば殺しますよ」


サリムは“ペタン”と尻餅をつく。

その状況を見て、気分を良くしたのかガルシアとアレスは向き合う。そして、アレスは片手を挙げて詠唱し黒い塊が出現した。


「聞こえたら恥ずかしいので隠しますね」

「……」


チャンドラも無言で立ち止まってしまった。いや、そうせざる負えないのだ。それぐらい悪魔と人間は圧倒的な差があるのだ。

やがて、大きな結界が完成した。結界はどんな防具でも破壊することはなく、そして、どんなに聞き耳を立てても外に漏れることはない。ガルシアは信じて待つことしか出来ないのだ。チャンドラは人間の不甲斐ないなさに怒りが覚えてしまったのだ……。


「あの……本当に申し訳ございません。俺がしゃしゃり出たばっかりに姫様の危険に晒されてしまって」


サリムは“シュン”となって謝りにきた。


「ん?……あぁ、いいんじゃ。全然気にすることないぞ。これは別の事を考えておるのじゃ」


チャンドラはサリムが気を使うのが申し訳ないと思って明るく接した。


「そんなんですね!……じゃあ、アレスへの対策ですか?短いですけど、対戦したことありますし、生で見る体験は貴重ですよ」


サリムは“な〜んだ!怒ってないんだ!”と思って明るく接する。


「まだ、分からんのか!!人間と悪魔は圧倒的な差があるのじゃ!どんな卑怯でも、寝込み襲っても絶対勝てんのじゃ。この部隊なら分かって欲しいものじゃ」


チャンドラはサリムに対してキレ気味に睨んでいた。


「申し訳ございません!」


サリムもすぐに土下座をしてしまった。


「もう良い。頭を上げぇ」


チャンドラは“フーッ”とため息をついた。

“そうなのだ。どんな卑怯なことをしても絶対負ける…それぐらい人間にとって悪魔はアリみたいな存在なのだ。しかし、トップである自分が軽はずみな行動してしまったとして間違いなく全力でついてしまうだろう…だから、墓場まで持っていかなければならないのだ”


「仕方がない。ここで待つとしょう」


10数後ーーー


突然、結界が割れて始めた。

“バリバリバリ…”

やがて黒い男二人が姿を現し、ゆっくり近づくと男は吹っ飛ばられた。


「うぉ!」


よく見ると“ガルシア”だ!

吹っ飛ばられたガルシアは、地面に倒れてしまった。そして状態をゆっくり起こす。


「大丈夫か?」


アゼルは焦ってガルシアの元に駆け寄る。


「大丈夫!大丈夫!ったく、油断も隙もない」


ガルシアは口の血を拭った。


「これは申し訳ございませんでしたね。ちょっとムカついたもんで……まぁ、いいでしょう!

サシル共和国とは継続しましょう」


チャンドラはなんだか分からないが“ホッ”と安堵した。


「あぁ、それと敵が仕向けるようにクーデターを起こしました。これはどうすることも出来ません。しっかり鎮圧して下さい」


ガルシア一同は“サーーッ”と血の気が引いた。


「あともう一つ、なんか馬鹿でかい魔法を唱えたらしく洞穴の強度が宜しくありません。気をつけて行って下さい。では、来年更新の時に」


アレスはみるみる内に姿を消した。そして、チャンドラも”プルプル“震えた。


「ったく、誰じゃ!馬鹿でかい魔法を放り込んだのは?」


“いや、アンタだよ!!”


チャンドラ以外、ガルシア一同の全員は心の中でツッコミを入れた。

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