第40話

 部屋にはまだ俯いているティファがいた。


 ベッドに座って俯くティファに、「今日は先に寝るから、おやすみ」と言って、僕はベッドの中に潜り込んだ。


「私はまだ起きていても良いですか」


 ティファが僕を伺うように言った。


 眠気が凄かったのもあったが僕は何となく、「好きにしたら?」と言って目を瞑った。


 疲れていたのもあり、僕は直ぐに眠りについた。 


 僕は涼香の夢を見た。


 その夢は全体的に視野がビネット(周囲の暗くなる部分が多い)のようで、鮮明に見えるというわけではなく、ぼんやりとしか見えなかったが、そこには涼香がいた。


 どうやら僕は夢の中でも眠っていたようでベッドの中にいた。


 そして、僕の隣には静かに寝息を立てる涼香の姿があった。


 全て夢の中の景色だ。涼香が僕の隣で眠っているのもまた一つ、夢という空想に過ぎない。


「涼香?」


 僕はベッドから上半身を起こし上げた。


「ん…………陸、おはよう」


 僕の声で目を覚ました涼香は、ぐーっと体を伸ばして、ふわあっと大きい欠伸を漏らした。


「よく寝てたね、コーヒーは?」


「飲みたいなぁ」


「おっけー、今淹れてくる」


 僕はなんで当たり前の日常のように話をしているのだろう。


 どうして見つかっていないはずの涼香を受け入れることができているのだろう。


 僕はベッドに座っている涼香に淹れたコーヒーを渡した。


「朝のコーヒーはすっきりするね。美味しかったら尚良い。でも自分で美味しいコーヒーを淹れるのは面倒くさいし、結局、朝は直ぐに汲める水道水とかを飲んで過ごすことが多いんだよね。だからこうしてコーヒーを淹れてくれるのは凄く嬉しいの」


 涼香は優しい笑みを見せながら、両手で大切そうにカップを持ってコーヒーを飲んだ。


 僕もコーヒーを一口飲んだ。だが、僕の味覚がバカになったのか、飲んだコーヒーは一切味がしなかった。


 どうして? と考え込む必要はなかった。これは現実ではなく夢であると、直ぐに思い出して僕は正気に戻った。夢の中じゃコーヒーは無味でもおかしくなんてない。


 さっきまで、自分でも不思議なくらい当たり前のように涼香と話をしていたが、それは夢の中の錯覚マジックだった。


 夢であることを受け入れた瞬間、目の前にいる涼香が飲みかけのコーヒーを置いて消えた。


 シーツには皺ができていた。撫でると太陽の暖かさなのか、涼香がいたぬくもりなのかわからないが、まだ仄かに涼香がいたということが確認できた。


 だが、これも夢なんだよな。


 さっきまで見えていた涼香も、淹れたコーヒーも、シーツの皺も、太陽に照らされて暖かくなっている布団の上も、全て夢なんだ。


 涼香の姿を夢で見たところで、僕は涼香がまだ見つかってないという現実を突きつけられるのがオチだとわかっている。だから、本当は苦しくて仕方がないんだ。


 ビネット感が徐々に強くなっていき、次第に僕は真っ暗闇に取り残されてしまった。


 涼香、涼香、涼香……。何度も涼香を呼びながら探した。


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