第31話
論文を胸に抱えた涼香が僕に向けて言ったんだ。
「私は陸を信じているわ」
隣に座って僕は涼香と手を繋いだ。
風がそよぐたび、スカートの裾がひらりと揺れて、僕はそのスカートの裾が膝に触れるたびにとても緊張したんだった。
「僕は信じてくれる君が、涼香が好きだよ」
僕が言うと、涼香は金髪の艶やかな髪の毛をくるくるといじって、照れた表情を見せて言った。
「私も好き」
涼香が僕の手を強く握った。
僕は左手で艶やかな髪を優しく撫でる。柔らかい髪質だったのを今でも思い出せる。
見つめあう僕たちは、きっと、その短くて長い沈黙さえも愛おしく思えていたはずだ。
僕の顔に接近した涼香。その時、ほのかにシャンプーの良い香りがしたんだ。
ほんの一瞬だったけど、涼香は「んっ」と頬を赤らめて目を閉じた。
僕はそれが重なり合っていいという合図だと思い、僕たちはその瞬間、優しい接吻を交わした。
僕はこれからも涼香といたい、と思った。
「陸とずっと一緒にいられたら、幸せなんだけどね」
思えば涼香はその時少し寂し気な素振りを見せていたかもしれない。
「ずっと一緒にいようよ」
僕はそれでも当たり前のように答えたんだ。
「私はずっと、陸との思い出は忘れないし、いつまでも陸を想い続けるよ」
そう言い、涼香は僕にもう一度接吻した。
僕はその口づけを思い出した。
これは夢ではない。夢では……ない、はずだ。
記憶に残る、触れたスカートの裾、柔らかな髪の毛、恥じらい、シャンプーの香り、そして、優しかった涼香の唇。
僕は自分自身の記憶の中の確かな感触を確信に変えたかったが、昔の記憶だ。幻想と間違えてしまいそうで怖くなり、これ以上は思い出すことができなかった。
そんな夢を見ていた。
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