第15話
僕は国崎れれみの熱狂的なファンである一ノ瀬さんとコンタクトをとることに成功した。
一ノ瀬さんは国崎れれみのことについて話してくれるようでなんとか時間を設けてくれた。
僕とティファは待ち合わせ場所のカフェに先に到着して、一ノ瀬さんを待った。
「ああ、待たせましたね。初めまして一ノ瀬です」
一ノ瀬さんが来るのに僕たちはそんなに待たなかった。
「いいえ、僕たちもちょうど来たところなんで」
僕は名前を名乗り、ティファを紹介して挨拶をした。
「それで、俺は、れれみちゃんのどんな話をすればいいんですか?」
「一ノ瀬さんは、国崎さんのファンである前に、個人的な関係があったといううわさがあるのですが、どうなんでしょう」
「俺とれれみちゃんは工場夜景を撮影するという共通の趣味があったんです。それは、れれみちゃんのCDのジャケットが工場夜景の写真だったっていうのがきっかけで、俺は何となくれれみちゃんに工場夜景の撮影を一緒に行かないかって誘ったんっすよ」
「カナガワだから、カワサキの工場夜景ですか?」
「そうですそうです。カワサキのチドリチョウとか、ヤコウチョウとか綺麗でまるでSFゲームの世界観に入り込んだような気がして堪んないんすよ。それでそれで俺たちは朝方まで撮影をしていたんすよ」
そうして、一ノ瀬さんは工場撮影に行った時のことを語りだした。
国崎れれみは一ノ瀬さんに向けて不思議なことを言ったのだ。
「この無機質な鉄の集合体が、この世界の一部に溶け込んでいるというのが不思議だよね。今度のライブのテーマができたかも」
一ノ瀬はカメラのピントを合わせながら訊いた。
「またライブ? れれみちゃん、ずっとライブしているけど金は大丈夫なんかよ」
国崎れれみも自分のカメラを覗き込んで何気なく話す。
「まあ、一発当てちゃったからねぇ、フフフ」
「当てたって何だよ」
国崎れれみはカメラじゃなくて一ノ瀬を見て大事そうに話した。
「それはー、た・か・ら・く・じ」
「え、いくら?」
一ノ瀬は何となく聞いてみた。
「教えないよ~、でも大金だよ。だからライブのことは安心しておけーだよ」
国崎れれみはそう言ってカメラを覗き込んでシャッターを一つ。
「うん、ここ一番うまく撮れたかも」
国崎れれみはそう言ったんだ。そして続けて、
「故郷に似ているね」
と言った。
「そう、れれみちゃんは宝くじで大金を当てたからライブの資金は心配しなくていいよって言ってたんすよ。それでも俺は心配してたんすけどね」
「大金と言うと、どのくらいなんでしょうね。百万とか?」
僕は気になった。
「いや、もっとだと思いますよ。れれみちゃんはマネージャーとか雇っていなかったんで、CD作成も全部一人でやってライブもほぼ毎日やっていたって考えると相当な金額が必要だったと思いますよ」
「国崎さんは宝くじで高額を当てたから、奪われないよう周りから姿を消した、となんて考えることもできますね」
「確かに! その線はあり得るかもっすね。でも、いなくなるには急すぎな気もするんすよね。実際僕もそのオフ会にいたんですけど、れれみちゃんは本当に急にいなくなったんすよ。周りは騒然でしたけど、みんな酔っていて深く考えていなかったようで、わかったのは後日になってからでした」
「良かったら、れれみちゃんの曲聴いてみてください。ネットで国崎れれみって検索すれば出てきますんで」
「わかりました」
僕たちはその後、国崎れれみについて少々話をして、別れることになった。
「貴重な話、ありがとうございます」
僕は一ノ瀬さんに礼をして席を立つことにした。
「いいえ、こっちも話せてスッキリしましたわ、そんじゃ」
一ノ瀬さんは気前よく帰っていった。
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