奇譚0009 カシ

 ある漫画を無性に読みたくなって家中を探したけど見つけられない。あれ〜どうしたんだっけ?と考える。そうだ!あいつに貸したんだ!同じ中学の近所に住む友達に貸した事を思い出して歩いて1分もかからないそいつの家に行くと母親が出てくる。「あら、アキラくんこんにちは」「こんちは!タカシいますか?」「いないわよ?」「どっか遊びに行ったんですか?それとも部活?タカシに漫画貸しててちょっと返してもらいたくて」「何を言ってるの?タカシなんて人このうちにいないわよ?」

はぁ?何言ってんだ?

「それってどういう意味ですか?」「どういう意味もなにもそのままの意味よ?」「タカシはどっかに引っ越しちゃったんですか?」「だからタカシなんて人はそもそもいないわよ?あんた頭大丈夫?もうわたし忙しいからじゃあね」と言ってドアを閉められてしまった。どういう事だよ?タカシがそもそも存在しないって?それじゃあどうしておばさんは俺の事をアキラって知ってんだよ?タカシがいないなら俺と話す機会なんてないじゃん。タカシはあの母親に虐待でもされてるんだろうか?俺一人では解決できないと思ってタカシと共通の友達のテツオの家に行く。

「おい!なんかタカシが大変なことになってるかも!」テツオの顔を見るなり俺は勢い込んで今あった事を捲し立てた。テツオはポカンとしている。「なんかよくわからんけど、そのタカシってのは誰なんだよ?」「お前なに言ってんだよ!友達のことは忘れたのかよ!」何を言ってもテツオはタカシなんてやつは知らないと言う。とにかく証拠を見せようと思いタカシが写っている写真を探したが全然見つからない。学校で撮ったクラス全員の写真にすら写っていない。学校に行って同じクラスのやつに聞いても先生に聞いても誰もタカシなんて知らないという。変なのは俺の頭の方なんだろうか?何も信じられないような気分で俺はそれから鬱になって学校も休むようになり高校にも行かずカウンセリングを受けたおかげで少しずつ回復して大検をとって大学に行けるようになって友達も彼女もできてそれなりに楽しいキャンパスライフを送っている。学食に行くと大抵友達の誰かはいるけど今日は誰もいないので一人で昼飯を食べていると「よう」と言って隣に見覚えのない奴が座った。「おう」と適当な返事をしたけどこいつ誰だっけ?新歓コンパとか飲み会とかで話したやつか?誰かも聞けずにいると「そういえばこれ借りっぱだったな」と言ってそいつは漫画本を渡してきた。表紙がちょっとボロボロになっているが確かにこの本を持っていた事は思い出した。「あれ?俺貸してたっけ?」「なんだよ忘れてたのかよ?昔っからそういうとこあるよな〜wまぁいいわ。それじゃな」と言ってそいつは学食から出ていった。昔からの知り合いってこと?なんで思い出せないんだ?俺は唐揚げ定食を食べながら漫画を読んでいると懐かしさを感じた。

「おっす」という声で振り返ると彼女だった。「何読んでるの?」「昔貸してた漫画だよ。ずっと読みたいって思ってたんだよね」「そうなんだ?誰に貸してたの?」「タカシだよ」「タカシって誰?」「あれ、誰だっけ?」

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