罰ゲーム転じて恋となす

九戸政景

本文

 高校の中庭、そこに僕は立っていた。目の前にいるのは三年生の先輩で恋川こいかわ夕貴ゆきさんがおり、僕はとても緊張していた。だが、それは仕方ない。何故なら、夕貴さんは学園のマドンナと呼ばれる程に綺麗でスタイルのいい女性であり、同じ部活動に所属する僕からしても高嶺の花的な存在だからだ。



「ゆ、夕貴さん……!」

「ふふ、そんなに緊張しなくて良いよ。鏡花きょうか君。それでお話って何かな?」

「ぼ、僕と……付き合ってくださひ!」



 緊張のあまり噛んでしまった。相手が相手というのもあるが、緊張しているのには二つ理由がある。一つは僕が夕貴さんの事が好きだという事、そしてもう一つはこれが罰ゲームによる“ウソ”の告白という事だから。


 事の発端は部活仲間とのゲームの勝敗だった。罰ゲームをかけた勝負で僕はぼろ負けし、何をさせられるのかと思っていたら言われたのが夕貴さんへの告白、そして程よく時間が経ったらネタバラシをして振るというものだったのだ。


 好きな人へのウソの告白。みんなに夕貴さんが言っていなかったからこそ起きてしまったこの悲劇。もちろんOKしてもらえるとは思っていないけれど、これは本当に悲しかった。


 そして待っていた時、夕貴さんは優しく微笑んだ。やはりダメかと思いながら断りの言葉を待っていた時、夕貴さんは僕の手を優しく握ってきた。



「もちろん、良いよ」

「え? い、良いんですか!?」

「うん。それに……その告白って罰ゲームか何かでしょ?」

「え……」

「その反応、やっぱりそうなんだね」

「そ、そうですけど……! 僕は! 夕貴さんのこ──」



 夕貴さんは人差し指を僕の唇につけ、もう片方の手の人差し指を自分の口の前に持っていき、いたずらっ子のような笑顔を浮かべた。



「大丈夫、君が私の事を好きみたいなのはわかってた事だから」

「そ、そうなんですか?」

「だって、いっつも私の事を見てくるし、友達からはすぐにでも告白されるよなんて言われてたの。だからこそ、この私の罰ゲームはかなり悪趣味なんだけど」

「夕貴さんも罰ゲームを?」

「うん。君に告白して、二週間程度でネタバラシをして振るっていう罰ゲーム。ね、悪趣味でしょ?」

「たしかに……」



 僕と同じ罰ゲームをしていたのかと思っていると、夕貴さんは微笑みながら僕の耳に口を近づけた。



「だから、私達付き合わない?」

「え?」

「向こう的には罰ゲームが進行してるように見せかけて、本当に付き合っちゃうの。そして二週間経ってもお互いにネタバラシはせずにずーっと私達が付き合ってたら罰ゲームをやらせた側は不安になったり焦ったりすると思う。どう? 二人だけ秘密って事で面白そうじゃない?」

「たしかにそうですね」

「それに、私だって鏡花君の事が好きだったしね」

「え、そうだったんですか……?」

「うん。一年生の中でも特に部活動には真剣に取り組んでるし、結構気遣いも出来るからね。そんなの好きにならないわけがないよ」



 夕貴さんの微笑みを見ながら顔を赤くしていると、夕貴さんは僕の唇につけていた指を離すと、それに口づけをした。



「えっ……」

「ふふ、これで間接キスだね。本当はしっかりとキスをしたいけど、それは二週間後のお楽しみ。みんなが見てる前でしちゃおう」

「は、はい……」

「さて、それじゃあ一緒に帰ろうか。これで恋人同士だしね」

「は、はい!」



 僕は嬉しさを感じながら答えた。災い転じて福となす、という言葉が世の中にはある。身に振りかかった災難をうまく利用して、幸せの種になるように工夫する事ではあるけど、この場合は罰ゲーム転じて恋となす、となるのだろう。そんな事を考えた後、僕は世界一好きな恋人で秘密を共有する共犯者と一緒に帰路に着いた。

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罰ゲーム転じて恋となす 九戸政景 @2012712

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