第24話
「そう、この子達は普通の子だ…本当であれば犠牲になる必要など無い」
「なら何故、こんな非人道的な扱いを受けているのですか?」
睨めつけるように所長を見て訊く深町。所長は言った。
「普通過ぎるんだよ…この子達は」
「…は?」
どういう事だ?苛立つような視線を向ける深町へ所長が問い掛ける。
「阿頼耶識と我々が住む物理世界が反比例の関係にある…これは事実なんだ。だがおかしいとは思わんかね?阿頼耶識とは不確実性の集合…元を辿れば物理世界とは繋がっている筈だ。では現界とは何だ?何故、物理世界を崩壊させる?深町君…量子もつれと言う現象は知っているね?」
「…それは知っていますが…」
戸惑いながら深町は答えた。別名エンタングルメント。光の粒などの量子が、お互いどんなに遠く離れていても片方の量子が状態を変えると、もう片方の状態も同時に変化する現象だ。対になっている量子である事が条件だが遥か昔、量子力学により証明されており、これに情報を乗せ応用したのが量子コンピュータだ。
所長が続けた。
「この子達の中枢はファクルティアスと対なんだ」
飽くまで量子レベルの論理である筈だ…怪訝な表情で深町が確認する。
「中枢神経…という事ですか?」
「脳では無いがね…脳は所詮、後天的に生まれた臓器の1つに過ぎん。心臓から脳に向かい伸びる神経網こそが生物が微生物であった時代より保有し続ける真の中枢だ。エンタングルメントにおける量子は片方が縦揺れならばもう片方は横揺れという様に、お互いが1つであった頃を補完するが如く動く…彼女達の場合は心臓に位置する、ごく1部がファクルティアスと絶対的な量子もつれの関係にあり、ベクトルが決して重ならないんだ。つまりは真逆…この子達はファクルティアスから最も遠い存在という事になる」
対の量子は、元は1つで、同じ型は他に存在しない。カプセルへ目を向ける所長に深町が訊ねる。
「何故そんな事が分かったんですか?」
この子達とファクルティアスが持つ中枢神経の1部が、量子もつれの関係にあるなど…まさか。
ハッとする深町に所長は微笑し答えた。
「そう、重力演算により導き出したのだよ。この子達はゲートだ…ファクルティアスとは阿頼耶識を認識する事により、不確実性を確実性へ変換する存在。不確実性の集合である、阿頼耶識の侵食率は1般人以上に低く、リンクする事はほぼ不可能だ。そこで彼らは考えた…最も阿頼耶識へリンク出来るのは自らと反対の性質を持つ者ではないかと。人は年齢を重ねれば重ねるほど死という確実性が近付き、不確実性は遠のく…侵食率の低下により生命活動を保持したまま阿頼耶識にリンクする事が難しくなる。被検体は子供でなければならなかった」
まさか組織はこの子達を捜し出す為に、大掛かりな装置を開発してまで、人々から任意の記憶情報を収集していた?カプセルに眠る彼女達。災厄天…子供でなければならなかっただと?消滅し断片化した歴史など、どうでもいい。所長の言葉に痺れを切らした深町が詰め寄った。
「肝心な部分が見えてきません…どうしてこの子達が阿頼耶識へリンクする必要があるんですか?私は…‼︎」
興奮する深町へ所長は目を見開き言った。
「深町君…世界の、真の姿は、君が想像するものとは全く違う形をしているんだよ」
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