第13話

「諦めないさ…」

深町はユッコ達の背中を見送り呟いた。

『おい、オッサン!唐突に切るんじゃねえよ』

システムから直接、声が聞こえた。

「どうやってアクセスしたんだ⁉︎」

驚く深町を気にする素振りもなく声の主は続けた。

「ウチの天才ハッカーをナメて貰っちゃ困る。今回の災厄天についてだがな、俺達が第3副都心のやつを無理くり止めたせいで奴らが動き出しやがった」

「…ヴォールモント1族か」

深町が呟いた。重力の多角的な反響により記憶を数値化するシステム、PGE-System開発における研究資金を名門大学へ出資した企業グループの筆頭株主…QCCの実質的オーナー1族だが謎も多い。

「奴ら、日本支部を犠牲にしてRAKILLに全てを押し付けるつもりだ。GM9の運営権をヨーロッパ支部に移管してな…軌道修正ってやつだ。ロンドン、アントワープ、ニューヨークの被害は想定より遥かに少なかった…それなのに規模の総和は計算上で増大してやがる」

それを聞いた深町の顔が険しくなる。

「なんだと…⁉︎」

「どデカいのが来る…この日本にな。どうしても消したい何かがあるのか、それとも…ぐわっ!」

相手のシステム音に雑音が入る。

「お、おいっ」

深町が心配そうに声を上げる。雑音と共に通信が回復すると、映像が流れた。

「メインディッシュが始まりやがった…こいつはトンでもねえな」

目の前にはRAKILLが乗る車の、窓から見える光景が映し出されていた。地上から放射されるドス黒い2重螺旋を描く渦が、周囲の光を屈折させながら、歪んだ天を貫き、巻き込む範囲を急速に拡大させてゆく…街、雲、空。全てが歪み、上昇するドス黒い2重螺旋と共に歪んだ天へ呑み込まれてゆく。

「あれはどこだ⁉︎」

モニター上に映る不良少年の声に、隣でPCを叩く金髪で青い眼の小太りした青年は答えた。

「神奈川にある第6新都心…GM8からだ」

第9新都心以外からもやるつもりなのか…深町がモニターへ釘付けになっている目を見開いた。金髪の青年がPCを睨みながら続ける。

「黒い渦の直径は約5km。他のGMエリアからも同じパターンを検知…全エリアからやる気だ」

「馬鹿な…想定の9倍…!?いや、GM9は素子制御を最大にしている…それ以上」

「…20倍近い」

深町の戸惑う声に、金髪の青年が呟く…日本を沈める気か。奴らは我々を何だと思っている?…GM9を移管。私からもあっさり沙由里を奪い…優子…‼︎

深町は思わずシステムに拳を強く振り下ろし打ちつけると、SAYURIへ目を向けた。GMになったお前をエゴで残した私は、人類を危険に晒した挙句に今、優子を失おうとしている。変わり果てた沙由里…俺は今まで何をして来た?全てを知った後も、お前を止める事は出来なかった…

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