第10話

「深町警視監、お疲れ様です!」

地下ドックに到着すると2人の若き自衛隊員が敬礼で迎えた。第9新都心へ入館出来る入口は現在、此処だけで、まるでスペースドックの様だった。

「ご苦労!」

車から降りた美雪は、そう言うと敬礼を真似て見せた。

「美雪、こんな時にフザケないの」

注意するレイナ。こんな所にユッコのママがいるの…?車が機器に固定されレーンの先へ運ばれる。深町は降りた先の通路へ3人を誘導した。

「ママのところまで少し距離がある…歩きながら話そう」

暗い通路へ4人の歩く音が響く。

「すごーい、何か宇宙船みたい」

青白い光に薄暗く照らされる通路を見渡す美雪。俯いたまま歩くユッコへ心配そうに目を向けるレイナ。

「…君達はGMをどう理解している?」

深町が話し始めた。

「任意の記憶情報を重力波により統括する機関…としか学校では教わっていませんわ」

「…そうだろう。人々が任意に提供した記憶情報をビッグデータとして管理しているんだ。だが考えても見たまえ…記憶とは断片的なものなのか?」

レイナの答えに疑問を投げかける深町。

「ビッグデータという統計は、あらゆる正確な推測を可能にするものだ…断片的に提供された記憶情報はビッグデータの正確な推測により前後を補完される。個人のほぼ全てのデータは読み取られてしまう…想像がつかないかも知れないが、数千兆〜数京にも及ぶデータの羅列により身長から体重、よりセンシティブな内容まで正確に読み取れるものなんだ」

「でも私、好きな食べ物とか良く行くお店とか、その程度の情報しか提供してないけど、それだけで、どこまで判るの?」

美雪が訊いた。

「…蓄積された君の年代が生物学的に保有する体質や栄養学的な傾向、行動範囲やパターン、社会的統計と分析などにより、BWHに至るまで、ほぼ正確に予測するよ」

「えーーーっ!」

「美雪、声大きい!」

大声を張り上げる美雪に耳を塞ぐレイナ。

「おじさんウソよ、そんなのっ」

「美雪!…でもご冗談よね?おじさま」

美雪を窘めつつも笑顔で尋ねるレイナ。顔に不安と書いてある。

「遺伝学的な人類の、直接の祖先はたった8人と言われているんだ…そうして集められた膨大なデータは重力波により管理される。何故、重力なんだ?重力とは何だね?美雪君」

「重力っていうのはぁ…地球とか惑星にあるものよね?だから星が丸くても私達、落っこちないのよ!」

得意気に答える美雪。深町から笑みがこぼれる。

「まあ、そうだ。だが重力というのは星だけでは無い、この世に存在する全てのものが持っているんだよ。ただ天体ほどの大きさが無いと感じる事も出来ない位、重力とは弱いんだ」

「全てって…私達も?」

美雪が訊ねる。

「もちろん…そしてそれは引力とも言う。この世の全ての存在はそこに在るだけで空間を歪ませる。その歪みこそ重力、引力なんだ。存在が持つ最弱の力…それは最も抵抗の弱い方向へ流れる。導かれるようにね。類は友を呼ぶってよく言うだろ?人としての弱さ…それが共通している者同士が結び付き、惹かれ合うんだ。12歳には、まだ早いかな?」

「うーん…解るような解らないようなってカンジですわ。それとGMの重力制御って何か関係あるのかしら?個人的にはユッコママの事の方が気になるわねぇ」

首を傾げるレイナ。右から左へ抜けている調子の美雪。押し黙って俯いたままのユッコが呟いた。

「もう、着くね…」

インドのムガル建築を機械で表現したような、物々しい巨大扉に着くと深町は言った。

「出来る事なら見せたくないが…驚くなというのが無理かも知れない」

深町がサイドパネルに眼球を近付けると、グリーンの光が何度か明滅し、扉中央にある螺旋状の鍵が同じ様に明滅しながら地面へ収納されると、地鳴りのような重低音と共に扉が開いた。

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