第15話 お買い物
「どこに行きたい? シルヴィア」
学園都市アステラ。王立学園と研究や開発で協力しあう学術機関も集まるこの都市には、学生向けの店も多い。
バロン王子は帽子付きのウィッグをかぽっとかぶった。地味な帽子からミカン色の長い髪がはみ出ている。長髪王子に大変身だ。
印象は変わるものの、イケメンだよな……。
オレに対して関心を持つやつはいねーだろうし、ここからは女らしくしなくていいか。元々のシルヴィアがご令嬢らしくしすぎだったからな。キャラが変わっていないように見せかけるのが大変だ。
「……行く場所、決めてないんですか」
「いや、考えたよ。でも、君の好みの場所でないと楽しんでもらえないしさ」
てっきり王子様らしく完璧なスケジュールを用意しているかと思ったな。
「でも、君の行きたい場所ならどこだって連れていけるよ。あまり興味はないかもしれないが、いい宝石店もドレスの仕立て屋も知っている。レストランなら、珍しい食材を扱っている店とか魚介類がとくに美味しい店とか、君が食べたいと言えばどんな場所でも案内できるよ。見たい舞台があるならすぐにでもプラチナチケットを手配しよう。好みさえ教えてくれれば、上映中の公演は全て調べてある。それから景色を楽しみたいなら――」
「ま、待って。今、行きたい場所を考えます」
「ああ」
下調べがとんでもないな……大丈夫か。ちゃんと睡眠はとったのか。もしかして、オレってめちゃくちゃ愛されているんじゃ???
なんでだ!?
「うーん……」
「候補でもあげようか、シルヴィア」
それだけ調べたってことは、行きたい場所くらいバロン王子もいくつかはあるはずだよな。
「あなたの行きたいところがいいです」
「え」
そんな、せっかく調べたのにって顔をされても……。一応、ウィッグもかぶっているし「バロン様」とは呼ばないでおこう。
「あなたの行きたいところが知りたいの」
ああ……ちょっと可愛く言ってみただけで今度はめちゃくちゃ嬉しそうに……。なんだか哀れになってきたな。
「シルヴィア、なんで突然そんな憐れんだ瞳で僕を見るんだ」
オレも感情が外に出すぎているな。
「下調べのせいで、睡眠がまともにとれていなかったらどうしようかと」
「優しいな、シルヴィアは。僕こそ君の行きたい場所が知りたいんだ。教えてくれ。どんな要求にも応えよう。どんな場所にだって連れて行こう」
……富士山とか言いたくなるな。
さて、どうするか。ドレスなんて買ってもしょうがねーし。宝石は……なぜか前世よりは興味を持つけど、初デートでそんなもの要求したくねーし。まだお腹はすいてないし、欲しいもの欲しいもの……。
あ、似た色のノートが多くて分かりにくいから、もう少し違う色のノートが欲しいとは思っていた。
「文房具店で……」
なんでそんなに微妙な顔をするんだ、王子。
「ノートを……」
消耗品をデートで買うのかって顔をしすぎだろ。これならどうかな。
「あなたとお揃いで……」
あ、いきなり顔が輝いた!
「買いたいかなーと」
「そうだな! 買おう! たくさん買おう! あ、支払いは任せておけ。部屋の家具だってお揃いにできるぞ!」
そりゃ、王子だからな。
「家具は備え付けで十分です」
「どうする、全てをお揃いにするか」
「い、いや……今までのもあるので」
「全てロダンに渡せばいいさ。よし、まずは文房具屋に行こう」
ロダンをゴミ捨て場にするのか。
ん? そういえば……。
「ロダン様は今日はどちらに?」
「適当にそのへんで、僕たちの護衛をしていると思うぞ。見つかるようなヘマはしない」
「……なるほど」
ずっとオレたちのデートに付き合わされるのか。
「まさか、三人デートがよかったなんて言わないよな」
「そんなわけが……。可哀想だなと。一緒に付き合う女の子の護衛とかいないんですか」
「……仕事だからな。ロダンは女の子と付き合う気はないと思うぞ。だから心配しなくてもいい」
そうか。人間との混血でも長生きしているっぽいことは言ってたしな。
あいつはこのゲームの攻略対象者だ。由真がバロン王子以外のメインキャラは神シナリオとか言ってたし、そっちの設定の関係で泣けるエンドだったのかもな。攻略対象ということは、実はゲイでしたということもないだろーし。
「独り身で、一日中デートをストーキングするんですか……今は同じ生徒なのに、大変ですね」
「あ、ああ……『マウント取りですか。いいご身分ですね』と言いたくてどこかでウズウズしている気はするな」
そうか!
オレは今、王子様の恋人でしかもデート中で「相手もいなくて可哀想そうね。おーっほっほっほ」みたいな奴になっていたのか!
これは……今までの意趣返しをすべき時だな。驚いた時の声を女らしくする特訓のために、何回かに一回はあの部屋に入った時に色んな驚かせ方をしてくるアイツに仕返しできるチャンスだということだな!
「ふふっ、せっかくだしマウントをとり続けることにするわ。行きましょう!」
びたっとバロン王子にくっつく。
うーん、この驚いた顔が好きだなぁ。それに、やっぱりいい筋肉してるよなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます