第13話 夜の食堂

 とうとう夕食の時間か……。


 今日はあのあと、バロン王子と一緒に五月末の定期テストに向けて勉強をした。王子は頭がいいから、ほとんどオレのフォローだ。いつもすることといえば雑談か勉強だ。課題を手伝ってもらうことも多い。


 その前にそろそろいいかと言って、あの等身大の鏡にかけられていた布を外したので「いつもは布をかぶせているんですか」と聞いたら、あれはマジックアイテムだと教えてもらった。その気になればロダンが覗き見れるらしい。ま、王子を護衛なしでほっとくわけにはいかないか。ロダン不在の時にも、猫が不穏な気配がないか探ってくれているらしく……「僕といる限り完全なプライベートはないけど慣れてね」と言われてしまった。


 まぁ、卒業してしまえば貴族も似たようなものだ。そこは仕方ねーな。


 明日は学園外でデートをする約束をした。何をどうしたらいいんだと思いながらも、その前にコレだ。食堂という関門を通らなくてはならない。


 王子に一緒に食べるかと聞かれたものの、断った。嫌なことは先に済ませよう。


「シルヴィアさん、待っていたわよ!」


 ですよねー……。

 女性というものを最近、理解しつつある。


「朝食のあと、抱きしめられていたわよね!」


 んふふふふとめちゃくちゃいい笑顔のいつもの友人が二人……。


「あれからどうなったのよ〜っ」

「待ち合わせして、会っていたのよね?」


 どうして女は根掘り葉掘り聞こうとするんだ!


「え、ええ。そうね」

「進展、したのかしらぁ〜?」


 もー!


「た、多少は……」

「きゃぁ〜!」


 なんでそんなに嬉しそうなんだよ!

 あー、また顔が赤くなってきた!


 でも、これでどうにか、バロン王子が好きな女にまったく手を出せない説は否定できたよな。自分の尻拭いは自分でやんなきゃな。


「で、どこまで?」

「――う。その、多少は……」

「教えなさいよ〜、幸せのお裾分けをしてもらわないと。これでも心配していたのよ?」

「うう……」


 どんどん二人が強気になっていくぞ! オレがこーゆーの、苦手だともう分かっているだろうに!


「早く教えてくれないと、あらぬ想像をしちゃうわよぉ〜。だってほら、ものすごく色気たっぷりの黒い水着だったらしいじゃない?」


 あー、もうそんな細かい情報まで!

 仕方ねーな。エロエロな噂が広がらないようにしないと。


「こ、これで最後だから! これ以上教えないから!」

「ええ、ええ。それでいいわよ」


 そんな瞳を輝かせるなよ!


「ほっ、ほっぺにちゅーしてもらったの!」

「……へ?」

「……え?」

「あ、あと一回だけまた、ぎゅっとしてもらったの! も、もう言わない! 明日からは何も言わないわ!」

「えっと……それだけ?」


 なんだよ!

 これ以上してたら、ピーな世界に突入するだろ! ここは学園だぞ? そうだ、バロン王子がオレに手を出さない件について否定するにはオレのせいにすればいいじゃないか!


「それだけって……だ、だってそれ以上は心臓がもたないしっ、ま、まだ無理……っ。これ以上は私が無理なのよ!」


 は!

 確かにオレ、まさに女の子かもしれねー!


 しかし、他にいい言い訳が思いつかない。

 

「心臓が爆発しちゃうから、えっと、それ以上はバロン様に待ってもらっているというか……っ、その」

「そ、そう。つまり女の子として見てほしくて頑張ったけど、いざそう見られたら寸止めしたということね」


 最低だ、オレー!


「そ、そうなるかしらね……。で、でもバロン様はそれでいいって言ってくれて、私の心の準備ができるまで待ってるって……っ」


 そのままだ!

 なぜか本当のことをいつの間にか話しちまっている! なぜだ!


「シルヴィア」


 うわ!

 バロン王子がなぜか隣に!


「悪いな、君たち。今日だけはシルヴィアを借りるよ。僕たちはゆっくりと仲を深めていきたいんだ。あまりいじめないでやってくれ」


 うわ。二人の顔色が青く……っ。 

 

「す、すみませんでした、バロン様」

「いや、いつもシルヴィアと仲よくしてくれてありがとう。見かねたわけじゃないよ。あまりにシルヴィアが可愛くて、一緒にご飯を食べたくなってしまっただけだ。今すぐに隣に座りたいと思ってしまったんだよ。これからもシルヴィアを頼む」

「は、はい!」

「私たち、お二人を応援していますね!」

「ああ、ありがとう。行こうか、シルヴィア」

「ええ……」


 居た堪れない……!!!


 バロン王子がオレの定食のトレイを持ち、もう片方はオレの手を握る。


 なんか、視線がおかしくね?

 食堂の全員がこっちを見てるんじゃね?


 長テーブルではなく、四人がけテーブルに一人でロダンが座っている。オレらがそこの椅子に座ると、すぐにロダンが呪文を唱えた。


「このテーブル席だけ音を遮断させました。もう気を抜いていいですよ。姿は見えているので、そこはご注意を」

「ああ、ありがとう」


 しゃ……遮断させたのか? なぜ?


「シルヴィア、たぶんだけど……ここの食堂の連中のほとんどが君の言葉を聞いていたと思うよ」

「え」

「さすがに遠くの席の奴らは無理だっただろうが……魔法の届く範囲の生徒のほとんどが使っていただろうな」

「な、なんでわざわざ……」

「人の恋愛話を聞きたいのが学生というものさ」


 そんなー……。

 確かにめっちゃ見られてる! とんでもなく見られてるー!!!


「ここで落ち着いて食べなよ。もう冷えてしまっているな。温めてあげるよ」


 あ。魔法で王子がひょいっと温めてしまった。冷えていた方が、喉に流し込むようにさっさと食べられたんだけど……。


「ほら、食べなよ」

「ええ」

「あーあ。本当に可愛いなぁ、シルヴィアは。萌え死ぬかと思った……」


 もしかしてこいつ、毎回どっかでオレたちの会話を聞いてたんじゃね? 素知らぬフリのロダンも、何を考えているんだろうな……。


 とりあえず、だ。

 さっさと食べ終わってここから逃げよう。


 あー、くそ!

 めちゃくちゃフーフーしないと食べられないじゃねーかよ!


 

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