第8話 練習
「では、練習をしましょうか。シルヴィア様」
「なんでお前が既にここにいるんだよ! それから、なんで練習すると知ってるんだよ!」
罠の部屋に来たら、当たり前のようにロダンが座っていて、くつろいでいた。
「すっかり男がサマになっていますね」
「さっきのが素です。ほっといてください」
ロダンも一緒にここで話すことが多いせいで、オレの口調はかなり適当になっている。
「で、なんで知ってるんですか。委員会が終わってから、ロダン様はすぐにいなくなってましたよね」
「人がいないところで天井裏に移動しただけですよ。バロン様の警護のためによく天井裏にいます。そこで会話を聞きました。駄目ですよ、シルヴィア様。言葉に気をつけないと。一度男言葉を使っていましたよね。どこに人がいるか分からないのですから」
天井裏にいるとか思わねーだろ!
あ、天井裏……そういえば、それも由真が言っていた気がする。
『ロダンは猫ちゃんだから、よく天井裏にいるの』
『理由になってねーだろ。ネズミとか探して食うのかよ』
『乙女ゲーの男性キャラがネズミ食べるわけないでしょ! このメーカーが出す執事とか従者とか護衛って、だいたい天井裏にいるんだよねー』
『天井裏好きの男を好む女がターゲット層か。ニッチすぎるな』
そんな会話をした覚えがある。
「天井裏のネズミを食べるためですか」
「食べません!」
うわ!
シャキンとナイフが首の横に!
「おいおいおい、仮にも王子の恋人に何するんだよ」
「恋人気分になってきたんですね。いい傾向です」
「いや……それは言葉のアヤで……」
スッとバロン王子が腕をあげると、ロダンがナイフを戻して執事らしく一歩下がって礼をした。
「はぁ……。シルヴィアは僕の恋人なんだから。二人でイチャイチャしないでくれるかな」
「あの……オレ、ナイフを突きつけられたんですけど」
「二人の世界で、ナイフでじゃれないでほしいな」
「じゃれてませんて」
「さて……と」
王子がソファに座ったのでオレも座る。真向かいにロダンだ。
「とりあえず、ロダン。リリアン嬢の姿になってからシルヴィアとじゃれてよ」
「……仕方ないですね」
え。どうなってるんだ。
ロダンが突然、リリアンの姿に……。
「幻覚ですよ。感知できるでしょう?」
ああ……確かに誰かが姿隠しの魔法を使った時と似た気配がする。前世では透明人間になれたらとエロ妄想をすることもあったが、実際にできたら犯罪し放題だからな。魔法世界のここでは、感知もまた簡単にできる。
しかし、違う姿そっくりに変えたり声まで同じにするのはかなり高度な魔法のはずだ。そのうえ、通常必要なはずの呪文詠唱までなかった。
さすが年の功というべきか……。
「ではいきますよ」
「え」
「シルヴィア様は前世では何歳だったんですかぁ?」
な!?
本物よりぶりっこに!?
「早く答えてください。それとも言えない事情が?」
「あ、えっと、じ、十六歳で」
「私と同じじゃないですか! それならお互いにタメ口にしましょうよ。転生仲間ですし!ね、バロン様のことが好きなの? 前世から? こっちでのきっかけは?」
「え、いや、えっと……」
「うんうん」
「ひ、秘密にさせてください……」
「え〜。気になるなぁ。あと、その口調はやめてほしいな。ねぇ、それならバロン様のどこが好きなの?」
「やってられるかー!」
爆発したら、二人が駄目だこりゃという顔でやれやれとこちらを見た。
「い、いや、こんな会話しないですよね、普通……」
「はぁ……。シルヴィア様、するんですよ。若い女性ってこんな話ばかりですよ。天井裏によくいる私が保証します」
「え……」
「では、続きからいきますね」
「もうイヤだ〜……。普通に設定から話し合いをさせてください……」
このあとは、「妹にこの物語を聞いただけ」という男であること以外は嘘をつかない方針に決めた。うっかり口調がおかしくなってしまったら「ガラ悪めの女の子だった」ということで通すと。バロン王子との出会いも、普通に罠の部屋に入って出会ったことにする。詳細もまたボロが出るといけないので秘密に徹することにした。
あとは、くだけた女っぽい話し方の練習だ。
なんだかな〜、二人にはオレの反応を見て遊ばれてる気がするんだよな〜。
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