第15話 初体験でした
私は今日事務所の前に集合という連絡が田中さんからきたので、待っているところである。なんか喉の調子整えてと言われたけれどもしかしてあれだろうか?この間言われていたあれか?
「おはようございます由夜さん。本日はデビュー曲の収録となります。レコーディング場所への送迎は弊社の社員に……と思っていたのですが、どうしてもと聞かない方がおられましてお願いすることにしました」
「え?」
「やだなあ、吾輩だってカラーズの社員さ。さて、早速だけど車までついてきてくれるかい?」
そう言いながら田中さんの後ろから出てきたのは身長の高いスタイルのいい女性で髪も長く艶やかで高く結んでいる。
そして聞き覚えのある声と喋り方は……
「まっ……」
「おっと、その名はここでは呼ばないでくれないかな?」
女性が私の口をパッと手で塞いでウィンクをした。とてもさまになっているのでうっかりときめくところだったや。
そうして私は案内された車に乗った。そこにはすでに一人乗っていたのである。
黒の肩が出た服を着て、色気をムンムン感じさせるようなお姉さんが。
「おっ、その子が例の?」
「そう、やみだよ」
「その声と喋り方……やっぱりマオ先輩ですね?そしてそちらはミツ先輩ですね?」
私は二人に言った。
初めて会うから顔とか知らなくて確証はないけれど、そうだって思ったんだ。
特にスタイルのいい女性とかマオ先輩にしか思えない。
「せーかいだよ。そっちの美女はマオ先輩こと
「よろしく。そちらのお姉さんはミツこと
「よろしくお願いします。私は
「よしっ、自己紹介もすんだし、美桜さん!レッツゴー‼︎」
「焦らさないでくれないかな?」
そう言いつつも車を走らせた。
なんだろう、これがユートピアなのかなってつい思っちゃったよ。
前で二人が喋ってるのを見てるんだよ?リアルにマオミツを浴びているようなものだよ?興奮しないわけがなくないかな?後部座席に座らせてもらえて良かったなあって思うよね?
それに私は低燃費だから百合だなって感じたらすぐにテンションが上がっちゃうんだよなあ。
「さて、頑張ろうか」
「レコーディング……初だから緊張する」
「おっ、初体験だね〜いつものやみっちでいいんだよ。失敗してもお姉さんたちが、主にマオ先輩がカバーしてくれるからさ」
ミツ先輩が背中を撫でてくれたので少しだけ緊張がとれる。いつもの私でいい、いつもの我でいいんだ。
そう思いながらマオ先輩たちが一人ずつレコーディングをしていくところを見守り順番を待った。
艶やかで伸びるマオ先輩の歌声、それを支えるミツ先輩。これを聴いた後だと気負ってしまうけれど、我がスパイシーの一員ならどうすればいいかだって分かっている。自分の役割を全うするまでだ。
やっと、自分の番が来た。
ここからは我の時間だ。初体験、楽しまなきゃ損である!
「〜♪」
気持ちいい。もっともっと歌っていたい。セリフのような歌詞だからこそ気持ちを込めるんだ。聴いてくれる人に届くように。
画面を挟むからって届けられるものは必ずあるんだから。
「はー、終わった……」
「やみっち最高だよ!この曲めちゃくちゃいい曲になったね」
「ああ。この三人でユニットを組むことに決めた吾輩の目は間違っていなかったようだ」
「えへへ、ありがとうございます」
二人に褒められるとなんだか照れちゃうなあ。先輩に褒められるとそうなるのは当然かもしれないし気にしないけれど。
「この曲、いっぱい聴いてもらえるといいですね」
「そうだね」
「きっと沢山聴いてもらえるさ」
私たちは沢山の人に届くようにと願ってレコーディングを終えた。
こうして私のレコーディングという初体験は幕を閉じたのだった。
『今宵、館で』
月の下で出会った我らは追われる身
姿・形変えて惑わせ逃げるのだ
見つかった(見つかった)その時は(その時は)
反撃の時さ
思考を阻む魅了
その間に血を吸われて倒れちゃって
最後には元の場所に帰れなくなるよ
仕方がないからついてごらん?
君を連れて行こう秘密の場所
楽しくって二度と出たくなくなる
(自業自得だろう?)
我々はいつだって罠を仕掛けて獲物を狙っている
今宵の獲物は君さ
さあ、パーティーを始めようじゃないか
今宵この館で
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