第一回さいかわ葉月賞 特別賞について

第一回さいかわ葉月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。

主題、開催時の宣言通り、「犀川の独断と偏見と気まぐれ」の結果、下記を特別賞とさせていただきます。(敬称略)


中で光る/きみどり


 本作、「少女と僕との夏休みのひと時」というシチュエーションでいえばありがちなテーマながら、とても素晴らしい作品でした。

 レイちゃんとゲンくんの描写がとにかく秀逸で、読者はずっと彼らの目線で読めるんですね。大人の視点に戻ったり、無人称的な語りに引っ張られることなく、ただただレイちゃんとゲンくんの後ろで見守っているような感じで最後まで読み続けられるのは、ひとえに文章力があるからだと思います。普通は視点や表現がブレたりするものなのですが、レイちゃんの一挙手一投足に魅入られたかのように読み進めることができました。これは秀逸さを超えた卓越したものがあって称えたいところです。

 わたしが一番に推したいシーンはクマゼミ。わたしはセミとか昆虫類が苦手なのですが、クマゼミを見るシーンで、


つまんだクマゼミを二人でまじまじ観察した。黒光りする背中に、ガラスみたいな羽。それには葉脈のような黒い線が走っていて、付け根に向かうにつれて黄緑色になっている。


 ここがバチーンとイメージできたんですね。わたしが二人の後ろからクマゼミを覗き込んでいる視点です。

 名作というのは必ずどこかに脳が焼けるくらいに鮮烈にイメージできるシーンがあるものですが、本作にはこういった箇所はいくつもありました。書き手として非常に才能と技量のある方だと思います。その栄誉を称え、ここに特別賞を授与いたします。

 おめでとうございます。(犀川 よう)


#これは余談なのですが、実は「この作品の素晴らしさがわかるのはわたしだけだろう! ふふん!」なんて思ったりしていたのですが、多くの選者が投票しておりました。ぐぬぬ、さすが選者たち。しっかりとこの作品のすごさを見抜いておりました。

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