第105話 嵐の前の静けさ

 ベルとリードによる警戒監視は続いているんだけど。

 ロマリア連邦の周囲にはモンスター出現の気配は無かった。

 各地の討伐メンバーからの情報でも、現在まで出現は確認されていない、という。

 あのトンネル騒動以来およそ7日程、それまでのモンスター出現が嘘のように止まっている。


 「ディーナ、やっぱり居なさそう?」

 「うん、ロマリア領内では確認できていない、かなぁ。一旦あの子達は引き揚げさせるよ。」

 「あのトンネル付近も、殆ど動きは無いようだな。」

 「ま、既にみんな配置についてんだ。対処については問題ねぇだろうよ。」


 とはいえ、これはちょっと気になる現象のような気がする。

 あのスタンピードが、まるで最後の灯のようなものなら、この異様な静けさは何となくだけど納得はできる。

 でも

 あのトンネル内の、恐らくはコアなんだろうけど、そこも同じように沈黙しているっていうのも不気味よね。

 ただ、トンネルに関してはそこで発生するモンスターは表に出ない、と思う。

 だって、ルナ様もウリエル様も、あんなモンスターは見たことがないって言ってたし、私達も初めて見るタイプだったし。

 何か、モンスターというか、コアサイドでも何かあるんじゃないのかな?


 「その懸念は拭いきれないな。トンネルはともかく、あれだけ綻びのあった南米のコアからの出現もない、というのは明らかに異常だ。」

 「それによ、あんだけの暴走で都合300体以上のモンスターが一気に出たんだろ?って事は今再放出に向けての準備って線もありえるだろ。」

 「あー、今日本海の底にあるコアを見てるんじゃがな、活動はほぼ止まっておるようじゃな。ま、封印はかなり草臥れてきているがな。」

 「は?ジジイ、そんな事もできんのか?」

 「まぁな。これでもワシは高位の悪魔じゃ。この位はちょちょいのチョイよ。」

 「……なんかよ、その言い回し古くせぇよな……」

 「ほっとけ!」

 「まぁ、各国の民にしてみれば、今の状態は安心できる状態と言えるが……」

 「そうですね、でも、根本的には何も変化していないはずですし。」

 「数年前の状態に戻っただけ、とも言えますね……」


 モンスター出現による被害が顕著になったのは、ここ2、3年ほどの事だ。

 少しずつ出現頻度が多くなって、去年の暮頃には各国で被害が続出したんだ。

 もし、モンスター形成に必要な人間の負の面が薄れている、というなら、それはそれでいい傾向ではあると思う。

 でも、私達家族の誰もが言うように、人間の悪意と言うのは決してなくならない、と思う。

 それが実際どういう事なのかは、私はあっちの世界で嫌と言うほど見て感じてきたからわかる。

 シャルルも同じだ。

 もとよりルナ様とウリエル様、もしかするとルシファー様とアズライール様も、そこはしっかりと把握しているはずよね。


 逐次入ってくる情報からは、やはり世界各国でのモンスターの動きは沈静化しているみたいだ。

 比較的出現が多かったロマリア連邦内でも、今の所出現の報告はないらしい。

 カルメン東側のコアからも、瘴気は感じるもののモンスターは出てきていないとの事だ。

 肝心のトンネル付近の状況というと、さっきまでベルとリードに警戒監視をしてもらっていたけど動きはない。

 ただ、トンネル内からは異様な感じがしていた、という不安要素はあったけど。


 「とにかく、だ。私達はあのトンネルに突入してトンネル内を検める事が優先事項だ。」

 「そうじゃな、外の事は他のメンバーに任せておけば安心じゃろう。」

 「ところでよ、アズラとあのガキどもは?」

 「ああ、今は鍛錬しておるんじゃろ。アズラもあいつらを鍛えたいって言っておったしな。」

 「それ、ちょっと見たい、かな。」

 「そうだね。というか、参加してみたい気がする。」


 という事で。

 家から少し離れた原っぱで、アズライール様とタカ、ヒロの二人が手合いをしている。

 手にしているのは樫の木の棒なんだけど、やっぱり普通の剣だと危ないんだろうな。

 二人を相手しているアズライール様は、やはりルナ様やウリエル様同様に強そうだ。

 でも

 タカとヒロの二人も、相当な強さみたいだね。


 「では、再び行きます。よく見て次の行動を判断しなさい。」

 「わかった!」

 「つか、アズラさんやっぱ速えぇなぁ……」


 アズライール様が二人の間に突進した、と思ったら……

 え?

 アズライール様が、分身!?

 二人になったアズライール様は、速攻でタカとヒロに襲い掛かる。

 とても速い。

 覚醒前の私達だったら目で追えないだろう速さだ。でも。


 アズライール様の攻撃を難なく受け止め、さらには反撃する二人。

 こっちも速いし、一見それぞれに動いているみたいだけど、お互いの死角をフォローし合っているような動き。

 二人の連携もきちんとしているみたいだ。


 「あの子達、凄いね……」

 「やっぱり私達より強いんじゃないかな……」

 「あれ、ただの木の棒だけどよ、アイツらが持つとそこいらの剣より強力な武器になってんじゃね?」

 「ふむ、流石は勇者の子孫、だな……」


 そんな様子をしばらく見ていた所で、ルシファー様が一つ提案じゃ、と言い出した。


 「私達が二人と手合わせを、ですか?」

 「うむ、お互いの実力を把握するのも、行動を共にする上で必要じゃろう?」

 「そうですね。というか、手合わせしてみたいです。」

 「だね。あんな動きを見せられたら私もうずうずしてくる……」

 「お前ら、何時の間にそんな戦闘狂になったんだ?」

 「まぁ、分かる気はするが、な。」


 という事で、私達とタカ、ヒロとの手合わせが始まった。

 手頃な木の棒が無かったので、私達は無手、タカとヒロはそのまま木の棒を武器に、だ。

 そうして始まった試合、なんだけど……


 「なんだよ姉ちゃん達、少しは手加減しろよ!」

 「投げ技は反則だろ!?」

 「え?いやいや、そんなに強くは蹴ってないよ?」

 「反則ったって、そういう術なんだもん。」

 「ちくしょう、もう手加減しねぇかんな!」

 「掴まれたらまた投げられる、か、じゃあ!」


 二人とも本当に強い。

 木の棒はもはや単なる木の棒じゃなく、闘気を纏って鋼よりも硬くなっているし、それで叩かれるととっても痛かった。

 強いのは強いし、お互いの連携も凄い、んだけど……


 「ぐへぇ……」

 「あ、ごめん!まともに入っちゃった!?」

 「だ、だから少しは手加減を……」

 

 強さ故なのかな、自分の身の防御は少し甘かった。

 もっとも、私もシャルルもそれは同じなんだけど、ね。


 「まぁ、そこまで、じゃな。」

 「ディーナとシャルルも、相当強くなっていたんですね。ここまでとは思いませんでしたよ?」

 「いや、こいつらまだ覚醒状態にないからな。」

 「そ、そうなのか?」

 「ああ、今はその境目を無くす訓練をしているからな。パッと見では状態を把握できないようにしているんだよ。」

 「もっとも、それがモンスターにどんだけ有効かはまだ分かんねぇんだけどな。」

 「さらに進化し続けている、か……」


 「もー、姉ちゃん達強すぎるだろうよ!」

 「俺、少し落ち込むなぁ。」

 「何をぬかしとるんじゃ。お前らも本気を出してないじゃろうが。」

 「えー、だってさー……」

 「なぁ。」


 どういう事なんだろう?

 確かに攻撃は腕と足に集中していたようだし、剣筋も迷いがあったみたいだけど。


 「意外とこの子達もジェントルメンなんだな。」

 「ああ、ジジイに育てられた割にはな。」

 「ル、ルナ様?」

 「ウリエル様、それはどういう……」

 「あー、そりゃ後でアイツらに聞くといいぜ。」

 「そうだな。というか、聞いていいかどうかはわからんが、な。」

 「「 ?? 」」


 こうして、夕飯まで4人一緒に鍛錬を続けたんだ。


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