第44話 スケアリーストーム!

 何事もなくジパングの港町オーアライに着いた。

 ここで一日停泊して、明日南米大陸へ向けて再出港だ。

 陸地に立つと、少し体が揺れているような感覚に襲われた。

 これはあれだ、船の揺れに慣れていたからだろうな。

 なんて言ったっけ、こういう現象。


 「さて、あなた達とはここでお別れ。でも、その前にジパングの食べ物をご馳走する。」

 「え!ジパングの食事!」

 「まさかまさか!」

 「く、食いつきがいい? というか、知ってる?」

 「は、はい!」

 「私、和食大好き!」

 「その名称を知っているとは、通だ。」


 フランお母様は、港からほど近い料亭へと案内してくれた。

 とっても高そうなんだけど、いいのかな……

 そんな心配を他所に、部屋に案内されて食事となった。


 和食。

 時々お父様が造ったり和食店に連れて行ってもらったりしてた。

 中でも、お刺身と天ぷらが大好きなんだ。

 出された料理は、やはりお刺身とお寿司、蕎麦、天ぷら、炊き込みご飯、お味噌汁だった。

 やっぱり本場はお魚が新鮮で美味しいなぁ。

 

 こうして満腹になった所で、フランお母様とは別れることになった。


 「フラン様、いろいろお世話になっちゃって、すみません。」

 「いい。というか、世話すべきと思っただけだから。」

 「それでも、です、ありがとうございました。」

 「本当に世話になった。ありがとう。」

 「それより、二人をよろしく。守ってあげて。」

 「ああ、当然だが、しかしなぜフランはそこまで?」

 「わからない。でも、放っとけない。」

 「そうか、ともかく、それも含めてありがとう。またな。」


 出航を待つ事なくフランお母様はどこかへと行ってしまった。

 なんというか、本当のフランお母様みたいな感じだったなぁ。

 会話は少しそっけない感じだったけど。


 一夜明け、出航の時間となった。

 私達は引き続きスウィートルームを使う事になったんだけど、なんだか申し訳なく思っちゃう。


 オーアライを出航して1週間程。

 船長さんが部屋に来た。

 何だろう、少し険しいというか、すぐれない表情だ。


 「あの、ディーナ様、シャルル様。」

 「はい、何でしょうか?」

 「少し、航行日程が延びそうなのですが……」

 「何かあったのですか?」

 「いえ、航路の先に低気圧があるらしく、迂回するか直行するかを今検討中なのです。」

 「それって……」

 「嵐ってことですか?」

 「嵐というか、タイフーンというか、とにかく非常に大きな低気圧のようです。ですので、どちらにしても少し遅れそうなのです。」

 「私達は大丈夫ですけれど、この船は大丈夫なのですか?」

 「船は心配いりません。余程の事がない限り沈んだりはしませんので安心してください。」

 「そ、そうですか。」

 「では、この後が分かり次第まだご連絡します。」


 つまり、大時化って事よね。

 幸いにも船酔いの心配はないけど、船が沈まないかだけは心配、だよね……

  

 「まあ、大丈夫だろう。沈むことはない、と思う。だが。」

 「ああ、規模によっちゃ船が壊れるな。そうなると難破だ。」

 「難破……」

 「幸いこの船は実質貨物船だ。難破しても数日くらいは食料とか持つだろ。」

 「ちょ、ちょっと不安……」


 それから2日程たった。

 波は徐々に高くなりうねりも大きくなってきた。

 船長さんによると、少し航路を変えて直撃は避けるらしいけど、避けきれるんだろうか。

 空はどんよりと曇っていて風も強い。

 既に時化という状態よね、これ。


 一応、乗客も含めて乗員全員に救命具の装着命令が出た。

 低気圧を抜けきるまで装着したままだ。

 というよりも、やはり一番怖いのは……


 「ディーナ、どうしよう……」

 「救命装備があれば浮いていられるけど……」

 「ん?なんだお前ら、泳げないのか?」

 「は、はい……」

 「泳いだこと、無いです……」

 「アチャー、そりゃ……」

 「うーん、まぁ、その時は何とかする。心配するな。」

 「何とかって?」

 「……何とか、だ。」

 「「 …… 」」


 そして、さらにその1日後。

 もう、とんでもない状況になった。

 暴風雨が襲い、波の高さは船のマストよりも高くなっている。

 これはちょっと、というかもう怖すぎる。

 船体も揺れて、なんていうレベルじゃない、数メートルを上下に移動しているんだ。

 操舵室では操舵士が奮闘しているんだろう、ここまで声が聞こえてくる。

 そこに、さらに悪い知らせが入ったみたい。


 「キャプテン! 左舷10時に別の船が!」

 「何!この状態で並走してるのか!」

 「あちらは中型の旅客船のようです!」

 「とにかく距離を取れ、取舵は最小限に!極力面舵を取りつつ波には正対するように踏ん張れ!」

 「アイアイサー!」


 私達の客室は丁度左舷側にある。

 窓の外を見ると、高い波の合間に別の船が見えた。

 というか、近すぎるような気がする。

 ちょっと、これって……


 そして乗組員が奮闘する事3時間程して。

 隣の船と衝突した。

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