第35話 最愛のお父様と再会できたけど……


 山賊団の拠点へと続く街道を歩いていると、200メートル程先に何やら戦っている集団が見えた。

 その人たちを見た瞬間。

 私とシャルルは、動けなくなった。

 ルナ様も、目を見開いてその人たちを見ている。


 「……お、とう、様?」


 間違いない、お父様だ。

 生前と変わらない……ううん、当たり前だよね、生きてるんだから。

 そう、お父様が、生きている。

 何とも言えない不思議な感情が私を覆う。

 でも……


 「あれはタカヒロとサクラか。戦っているのは?」

 「フランお母様!、それに、姫神子様?」

 「という事は、あの4人は英雄ファルク様達?」


 すごく若いフランお母様が、英雄様と一緒にお父様と戦っているなんて。

 そういえばそんな話も聞いたけど、その時は英雄様と一騎打ちだったはず。

 

 お父様一人で4人と戦っている……

 旗色は、どうも悪そうなんだけど、どうしよう……


 「む、どうもタカヒロは苦戦しているようだな。サクラを庇いつつ、4人の強者を相手に、か……」


 お父様は単純な力だけで応戦しているみたいだ。

 そうよね、まだ魔力の解放も、精霊様の認識もできていないんだから。


 「ディーナ、どうしよう、どうしたらいい?」

 「手を出すわけにはいかない、んだろうけど……」

 「……」


 ルナ様も、何も言わない。

 いえ、言えない、のかも知れない。


 と、そう逡巡していると、お父様に4人が一斉に仕掛けてきた。

 斜め背後から英雄様とフランお母様、正面から姫神子様ともう一人、姫神子様は魔法を放つみたいだ。

 お父様の後ろにはサクラお母様が居る。避ける事は、たぶんできない……


 迷うよりも先に、体が動いていた。

 私は英雄様、シャルルはフランお母様、正面の二人にはルナ様。

 英雄様の剣をヴァイパーで受け止め、フランお母様の剣をイーグルで止める。

 姫神子様から放たれた強大な魔法は、ルナ様が同じものを放って対消滅させた。


 「剣を、剣を引いて下さい、英雄様……」

 「フランお、様、止まって、下さい……」


 突然現れた私達に驚愕するお父様と英雄様達。

 人間最強であろう英雄様達の剣を難なく止めた私達に、とても驚いているみたい。


 「くッ、あ、あなた達は!」

 「お願いです! 引いて下さい!」


 英雄様達は、直ぐに引いて再び態勢を取り直した。


 「き、君たちは……」


 ああ、お父様の…声だ……

 お父様の、懐かしい声が、背後から聞こえた。

 でも、

 振り向けない。

 振り向いたら……


 「すまない、助かったよ……」

 「タカヒロ様!」


 きっと、サクラお母様が駆け寄ってきたんだろう。

 どうしよう、もう、私、泣いている。

 動けない。

 シャルルも同じみたいだ。

 振り向けない。

 だけど!


 「「 !! 」」


 振り向き、お父様を見る。

 その瞬間。

 私とシャルルは、お父様に抱きついて、声の限りに大泣きしてしまった。

 結局、こうなってしまった。


 「ちょ?君たち?」

 「え?え?」


 困惑するお父様とサクラお母様。

 英雄様達も、戦意を削がれたようで立ち尽くしてこちらを窺っている。

 ルナ様は傍らで、表現できない表情でお父様を見ていた。




 ―――――



 「どう?落ち着いたか?」

 「は、はい、ごべんなさい、うう。」

 「突然、ずびばぜんでじだ……」


 まだ涙も鼻水も流したままだけど、とりあえず落ち着けた。

 愛しい、なによりも愛しいお父様に逢えて、その胸で泣けたのはすごく安心できたし、懐かしかった。

 サクラお母様がハンカチで私達の涙を拭いてくれているのも、何かとても嬉しい。


 「あ、あの、これはどういう?」

 「ああ、俺もちょっと解らないんだけど……ひとまず戦いは中断、だな。」

 「え、ええ、わかりました。」


 英雄様達も困惑しているんだろうな。

 まぁ、そりゃそうよね。

 突然乱入して戦いを止めて、それで号泣してるんだから。


 「グスッ。あ、あの、英雄様、フランお…様、剣を引いてくださってありがとうございました。」

 「な?なぜ私の名を?」

 「あ、そ、それは……英雄様のお仲間は有名なので……」

 

 「それは良いとして、君たちは何故?」

 「おと……タカヒロ様、私は貴方を探していたんです。」

 「俺を?」

 「はい、貴方に、お願いがあるのです。」

 「英雄様とそのお仲間の方も、話を聞いてほしいんです。」


 そこへ、リサお母様を伴なってルナ様がやってきた。


 「神狼様!」

 「え?でっかい狼?」


 サクラお母様は知っているみたいだけど、お父様は初めて見る、んだよね、きっと。

 そして、ルナ様を見たお父様は


 「あ、貴女は?……何者、なんですか……」

 「私の名はルナ。かつてはブルーと名乗っていた。貴様とは関係ない者だが敵ではない。」

 「ルナ……」

 「あ、あの!この方は私達の保護者です。」

 「そ、そうなのか。あ、いや、わかったよ。で、お願いって?」

 「はい、あの、この狼様に、か、噛みつかれて欲しいんです……」


 「「 ええー!? 」」


 あ、やっぱりそうなるよね、この言い方だと。


 「ごめんなさい、あの、きちんと順を追って説明します。」

 「あ、ああ……」

 「タカヒロ様は、この世界へ来られたんですけどまだ存在が確立されていない、そうです。」

 「え? なぜ俺がこの世界へ来たって知っているんだ?」

 「詳細は省かせてください。」

 「あ、ああ、わかった。」

 「タカヒロ様には、精霊様が宿っています。それはまだ自覚できていないんですよね。」

 「俺に精霊?そういや、カスミがそんな事を言っていたな……」

 「カスミおか、カスミ様も、まだ実体化できていないはずです。」


 すると、お父様が所持していたデバイスから声が聞こえた。


 『実体化って、アタシは生き返らせてもらうハズだったんだけど、騙されたみたいでまだこのままよ?』

 「それも含めて、今からする事は必要不可欠なんです。ですから」

 「この狼に噛まれろと?」

 「あ、あの、軽く甘噛みする程度、と思いますので、大丈夫かと……」

 「あの、リサ様、そうです、よね?」


 と、リサお母様を見ると、お父様をじーっと見つめて微動だにしていない。

 声をかけられて


 (え?あ、ああ、そうよ。うん。)


 何か、考え事をしていたのかな。

 あるいは、もしかして……


 「その、狼様に噛まれる事で貴方に魔力が伴い、いえ、魔力はすでにあるので、それを認識できるようになります。」

 「魔力、だって?」

 「はい。」

 「そんなもんが、俺に?」

 「にわかには信じられないでしょうけど、それを証明する為にも、リサ様に噛んでもらう必要があるんです。」

 「うーん、まぁ、喰いちぎられないってんなら別に良いんだけど、ちょっと怖いよなぁ。」

 

 そりゃそうよねぇ。

 おっきな狼に噛まれろ、といわれて『オッケー!』って即答する人なんていないでしょうし。


 「オッケー! わかった!じゃぁ、噛まれてみる!」

 「「 …… 」」


 「タカヒロ様、大丈夫なのですか?」

 「ああ、サクラ、大丈夫だと思う。というかこの狼、なんかキレイでカワイイし、それにメチャクチャ尻尾振ってるしな。」


 リサ様は千切れんばかりに尻尾を振っていた。


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