第14話 家族みんなで話し合うのは大事だと思う


 「恥ずかしながら、帰ってきました……」


 お母様達全員が揃っている部屋へと入って、まずそう言った。

 すると


 「あー、その台詞は私の、だよねー。」

 「うふふ、あの時の、ですね。」


 カスミお母様がそんな事を言って、サクラお母様が納得していた。

 とっても恥ずかしくバツが悪いとは思うけれど、仕方がない。

 一旦ここへ引き上げる以外、選択肢はなかったんだから。


 「全くもう、絶対ダメだと言ったのに、ねぇ。」

 「ごめんなさい、ネモフィラお母様……」

 「まぁ、あなた達らしいですけどね。だから念を押しておいたんだけどね、うふふ。」

 「とはいえ、無事で良かったわね、ディーナ、シャルル。」

 「お母様……」

 「ま、結果論だが、お前たちの実力のほどは理解できただろう?それだけでも無茶した甲斐はあったんじゃないか?」

 「アルチナもシャヴィも、二人の無事な姿を見れて一安心じゃろう、な?」

 「サダコ、それは言わぬが華だぞ?」

 「ひとまず、あなた達は休んでいなさい。怪我の治療は済んだのでしょう?」

 「……はい。」

 

 そう言われて、私とシャルルは自室へと向かった。

 

 正直な所、顔を合わせた瞬間に怒られると思っていた。

 だって、ネモフィラお母様の言いつけを聞かず、危険な目にあった上に怪我までしたんだし。

 けど。

 お母様達は呆れた様子を保ちつつも、安堵した表情で迎えてくれた。

 

 自室に入った私とシャルルは、疲れもあっていつの間にか寝てしまった。



 ―――――


 

 「ふぅ、とりあえず無事、で安心しました。ネモフィラ、本当にごめんなさいね。」

 「うふふ、良いのですよアルチナ様。こうなる気はしていましたし、ね。」

 「まぁ、それでも、だよ。ネモフィラには迷惑しか掛けていないしな。すまなかったよ。」

 「それで、なのですけど……」

 「サクラ、どうしたんじゃ?」

 「結局あの子たちに頼らざるを得ない私達が、あの子たちに何をしてあげるべきなのでしょうか。」

 「本来であれば、私達が何とかするべき、なんだけど、現実的に何にもできないものね。」

 「ローズの言う通り。私達にできる事は、あの子達を守り助けるだけ。」

 「とはいえ、じゃ。それも限りはあるのぅ。直接付いていくわけにもいかんしの。」

 「そう、ですわね……」


 母親としては、ディーナに辛い想いをさせるのは避けたいし、して欲しくはない。

 でも、サクラ様が言うように、今はあの子達に頼らざるを得ないのも事実。

 あの子たちを守り助ける、というフラン様の言葉は、サダコ様が言うように簡単なようで難しい。

 しかし、できる事は必ず何かあるはず。

 せめて、あの子達が本当の自分を理解する、つまりは覚醒するまでの間は。


 「ま、ぶっちゃけだな、お前らが心配するほど、あいつらもヤワじゃないぜ?」

 「ウリエル様、それは?」

 「確かに今はその力を出せていない。でもな、モンスターと対峙した時には力を発揮する一歩手前までは来てたぜ?」

 「そうなのですか?」

 「まぁ、結局は出せていないがな、その状態でもファントムは呼応したし、怪我はしたもののある程度モンスターの攻撃は見切ってたしな。」

 「ウリエルが二人に加勢したのは事実だが、それに順応したというのは、力の発現の手ごたえはある、という事だ。」

 「ルナ、アンタがそう感じたってことは、確実に力を引き出せるって事?」

 「カスミ、お前が以前に言っていた“覚醒”っていうのも、充分可能だろう。ただし。」

 「ただし?」

 「そのきっかけはあの二人自身でしか得られないし、成しえないだろう。」

 「きっかけ、か……」

 「まー、いずれにしても、だ。お前らはあいつらが何時でも帰ってこれる場所を維持しておくことだな。あいつらの直接的な守りは、アタイとルナで充分だ。」

 「気苦労はかけるだろうが、安心していてくれ。あの二人は何があっても私が守る。」

 「ウリエル様、ルナ様……」



 ―――――



 いけない、寝てた。

 シャルルも寝息を立てている。

 もう夜中、だよね。

 窓の外はすでに暗闇の世界だ。


 体を起こしで、大きなあくびと伸びをして、頭をはっきりとさせる。

 照明を点けて、部屋を明るくする。

 よだれを垂らして寝ているシャルルの顔を見た途端に、少しホッとした。

 いつものシャルルだ。

 

 と、ドアをノックされ、入ってきたのはトキワお兄様だ。


 「よっ。目が覚めたか?」

 「トキワお兄様。」

 「ありゃ、シャルルはまだオネムか。」

 「ううーん、あれ?トキワお兄様……」

 「あはは、おはよう、シャルル。」

 「おはようごじゃいましゅ……ふあぁ」

 「さ、お腹も空いてるだろう?もう夕食の時間は過ぎてるからな。」

 「はい、作ってきましたよ、食べなさい。」

 「ヒバリお姉様、ありがとう。」

 「うわあ、美味しそう……」

 「うふふ、私が作ったんだから、美味しいはずですよ、きっと。」

 「ま、ヒバリの料理は父さん直伝だからなぁ。」

 「ありがとう、いただきます!」


 ヒバリお姉様の料理は本当に美味しい。

 なにしろお父様から直に料理を教わったんだって。

 ちなみにお父様の料理は皆大好きだった。

 基本、館の料理人さんが食事を作ってくれるので滅多にお父様自身で作らないんだけど、3か月に1回程度はお父様が作って皆に振舞っていた。

 中でも“かれーらいす”が一番人気だった。

 その“かれーらいす”が今目の前にある。

 お父様のあの美味しさを再現できるのは、この地上でただ一人、ヒバリお姉様だけだ。


 「食べながらでいい、聞いてくれ二人とも。」

 「モグモグ、ふぁい。」

 「明日、今残っている兄弟姉妹で集まって、今後の事を話し合う。」

 「ん?」

 「実はな、お前たちが旅立ってすぐに、他の皆も、その、お前たち二人だけに辛い役目を負わせるのは忍びないって、な。」

 「そんなこと……」

 「トキワも私も、ね、あなた達二人だけに負担はかけたくない、というのが正直な所なの。」

 「でも、実際動けるのは私とシャルルだけ、じゃないの?」

 「まぁ、そうなんだけどな。でも、俺も含めて事の重大さをようやく理解できた、ってところだ。」

 「だけど……」

 「ま、お前たちの想いも含めて、もう一度今後の事を見直そうってこったな。」

 「うふふ、何もあなた達が行く事に反対しだした、ってことじゃないわ。だからそんなに構える事もないわよ。」

 「とはいえ一人、私が行く!って言って吠えてるヤツもいるけどな。」

 「あー、何となく誰かはわかりますけど……」


 まぁ、家族で話し合うのは大事だもんね。

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