Re:魔法少女~偽りの異能少女は魔法少女として覚醒する~
ケロ王
第一章 魔法少女 IN ダンジョン
第一話 魔法少女と炎の魔犬①
私──
ダンジョンはある日、大地震と共に現れた人類にとっての脅威だった。その入り口からあふれ出した異形のモンスターたちは周囲の人たちに襲い掛かり、多くの犠牲を出した。しかし、その一方でダンジョンに対抗するための力である異能が発見され世界中に広まっていった。日本政府もダンジョン対策の一環として日本にある七つのダンジョンの入口に異能学園という異能の研究開発、およびダンジョン対策を目的とした施設を作った。
「私も、異能が使えれば良かったんだけどなぁ……。なんで、無能力者なんだろう……」
異能は、ある条件を満たした人間であれば、誰でも獲得できる力である。しかし、その力は多岐にわたる。そのため、私のように異能を発動させる条件が分からず、異能が無いもの──無能力者と呼ばれる人もいる。そのきっかけは誰にも分からないため、私のような無能力者であっても、異能学園に通うことはできる。無能力者でも運動が得意だったり、勉強が得意だったりする人はいて、そういう人は異能以外の部分で貢献しようと努力していた。
「私は……、運動も得意じゃないし、勉強も苦手だし……。何より運が悪いんだよね……」
武器を持って戦うのも、戦術を考えるのも人並み以下なので、ダンジョンでは苦労することが多い。それだけでなく、なぜか背後にモンスターが湧いて挟み撃ちにされることもあった。そのせいででダンジョン攻略実習でもパーティーを組んでくれる人は幼馴染の
「勘が良い美咲がいれば、危ないところを避けられるんだけどなぁ……せめて、もう少し時間があれば良かったんだけど……」
彼女のおかげで危ない目に遭わずに済んだことは数えきれないほどあった。しかし、今日は彼女が欠席していたため、時間内に攻略が間に合わなかった。それで、こうして補習の代わりにダンジョンを一人で攻略している訳で……。
「補習を受けても良いんだけど……、休日返上っていうのはさすがに……。よっと」
そんなことをぼやいていたら、偶然遭遇したホーンラビットが突進してきたので、その鋭い角を盾で受け止め、怯んだ瞬間に剣を振り下ろした。剣がホーンラビットの柔らかい腹部に深く突き刺さり、血が噴き出す。ホーンラビットは苦しそうに鳴き声を上げながら、地面に倒れ込んだ。
「今度はリトルボアか……。よしっ」
ホーンラビットを倒したと思ったら、離れたところで突進する準備をしているリトルボアが見えた。ホーンラビットを倒した余韻に浸るのもそこそこに、リトルボアが猛スピードで突進してくる。心臓の高鳴りを感じながら、その突進をギリギリで回避する。そして、背後から斬りつけると、リトルボアは血を吹き出しながら絶命した。
「ふぅ、危なかった……」
二体の素材を剥ぎ取ってから、再びダンジョンの奥へと進む。ここまで順調に進めたこともあって、気づかないうちに調子に乗ってしまう悪い癖が出ていたようだ。
「お、今度はブラックウルフかぁ。ちょっと強敵だけど、大丈夫大丈夫」
剣を構えて気配を抑えながら、ゆっくりと近づいていく。しかし、私は完全に失念していた。弱いだけでなく運が悪いということを。
「えっ?! うわああああ」
そのことを思い出したのは──突然、ブラックウルフが炎を吐いてきた後のことだった。私の右手は剣ごと手首から先が消し炭になって、ボロボロと崩れ落ちた。よく見ると、その口からちろちろと炎が吹き出ている。
「お、オルトロス……。なんでユニークモンスターが、こんな時に……」
ユニークモンスター。それは初見殺しともいえるモンスターだ。見た目は通常モンスターと区別が付かないことが多いにもかかわらず、その階層ではありえないほど強力な攻撃をしてくるため、遭遇することは稀だが、同時に助からなかった人も多かった。
「く、どうしたらいいんだ……」
盾を構えてオルトロスの炎を防ぎながら、全速力で後ろに下がる。しかしバックでの移動で速度が出るはずもなく、オルトロスは一定の距離を保ちながら追従していた。吐き出す炎がもたらす熱風が顔を焼き、汗が目にしみる。失った右手の痛みにより心臓が激しく鼓動し、呼吸が荒くなる。さらには防げなければ致命傷になる攻撃にさらされるストレスにより、徐々に集中力が削られていった。
「うわぁぁぁ、熱い、熱いよぉ」
そして、防ぎきれなかった炎により、今度は右足が消し炭となった。足を失ったことで、その場に尻餅をついてしまう。そんな状態では当然ながら足への攻撃を盾で防ぐことができず、次の瞬間には左足も消し炭になった。痛みと熱さに叫び声を上げ、転げまわりながら見下ろしてくるオルトロスを見ると、残忍な笑みを浮かべているように見えた。
「うぐぅぅぅ。助けて……。誰か、助けてよぉ……」
自分の死を予感して、目に涙を浮かべながら助けを呼ぶ。絶望感が胸を締め付け、心が折れそうになる。しかし、その声に応える者は誰もいなかった。孤独と恐怖が僕を包み込み、希望の光が遠ざかっていくように感じた。
「あっ、えっ?!」
しかし次の瞬間、オルトロスのいた場所に突如として光の柱が現れた。それは空間を押しのけるようにして、そのままオルトロスを反対方向に吹き飛ばした。
「きゃいぃぃぃん! がるるる!」
弾き飛ばされて悲鳴のような鳴き声を上げるのも束の間、今度は柱を敵と認識して炎を吐き出すも、全て柱に吸い込まれるように消えていく。しかし、突如として柱にヒビが入り砕け散った。跡形もなく砕け散った柱があった場所には、二の腕のように太い茎の先端に、それより一回り太い傘のついたモノがあった。それは、私の知っているモノよりも遥かに巨大だった。
「大きい……」
それを茫然と見つめていると、手足が生えてきてバタバタと動き出した。
「何だッピ? ワシを焼きキノコにするつもりかッピ?!」
現れた途端、口から炎をチロチロと出しているオルトロスに憤っていた。一方のオルトロスもそれを脅威に感じているらしく、頭を低くしながら唸っていた。それがくるりと振り返ると、その茎の部分には目と口があり、まるで顔のようだった。そして私の目の前にやってきて顔を近づけてきた。
「お前がワシを召喚したヤツだなッピ? 早く何とかするッピ」
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