白乾児と呼ばれた男
ボン
第1話
2015年のGW。俺は子供の頃から好きだったスポーツバラエティ番組のオーディションに参加していた。
参加者がサバイバルアクション映画さながらに障害コースを突破する、リアリティが売りの番組で今回で30周年を迎え、商品の方も中々に豪華だった。
3000人を超す応募の中、書類審査に通ったのが300人。更にそこからオーディションでふるいにかけて、参加者100人までに絞ってゆくのだが、学生枠というものがあり、そこでは有名大学のブランドが些かものを言う。
午前に行われた一次審査は体力測定で、太鼓のリズムに合わせて100回の腕立て伏せを行うというシンプルな内容だが、あまりのペースののろさに参加者達はウンザリすると同時に体力を削られていき、80回を過ぎた辺りで多くの者が脱落し、結局同じ予選組で最後まで残っていたのは40人中、俺を含めた3人だけだった。
午後の2次審査はグループ面接で、まず芸能人や常連勢より始まり、次に遠方からの参加者を優先して行われる為、《俺たち東京組》は、一番最後に回されると事前にアナウンスがあったため、俺は主催者側に断った上で、他の参加者有志と共に屋外に設置された建築足場の様なセットの下見をした後に、持て余した時間で休み明けに提出予定のレポートの草案をまとめる。
俺のいるグループの面接は18時過ぎから始まった。7人が横1列に座って1人ずつ順に質疑応答が行われるが、1次審査で共に最後まで残っていたコケティッシュな女性と同じグループだった。小顔でボブの似合うパッチリとした目のルックスはグラビアアイドルに居そうなタイプだなと思う。
自他共に認める『女オタク』である俺としては彼女の事が気になっていたが、どうやら彼女は「寺里ユキ」と云うらしい。
ユキは高校時代グラビアアイドルとして活躍した後、現在はケーブルTVや特写ヒーローモノなどを中心に活動しているらしいが、関西人らしく話のやり取りがとても面白く、俺は小悪魔な上沼恵美子女史を連想した。
また彼女は、この手のオーディションの定番である空手の『息吹』ではなく、ヒクソン・グレイシーばりに腹筋を上下波うたせるヨガの呼吸法『ナウリ』を披露したときには審査員達からは感嘆の声が上がった。
その次は同じく1次予選で同室だった動画投稿者の男がしきりにMetube動画のメリットをアピールしていたが、俺の親父がこの動画サイトで一躍世界的に有名になった事もあって、俺もその運用には関心がある事から後からこの男の連絡先を聞く事にする。
そして最後に俺の番となった。ここでは俺の「パルクール」について聞かれたため、頷いた俺は仰向けに床に倒れた状態から反動も手も使わずにバックブリッジ起立することを3回繰り返した。背後に倒れるシーンを逆再生させた様な動きに審査員達からは再び歓声が上がった。
これは「ナウリ」と同様にヨガの高等技の一つで「車輪のポーズ」の上位互換であるニラルンバプルーナチャクラアーサといい、
俺はこのブリッジ起立を1分間に約20回連続して行う事が出来る。
プロデューサーらしき男性より「すごいね、リアルで『マトリックス』の弾除けシーン観れるとは、君はいったいどんな身体をしているの?」と聞かれた俺はポロシャツを脱ぎ、審査員の前でゆっくりと1回転して見せると再びどよめきが起きた。
バランスの良い骨格トレースする様に発達した見事な筋肉はボディビルやジムなどで人工的に作られたものとは明らかに質感が違うものだ。
特に首背面から肩、腰から張り出した広背筋は巨大なサソリが腕を振り上げる様を連想させる。
俺には先祖返りと言われる特性が幾つも備わっている。
外見的な特徴としては、人よりかなり尾てい骨が目立つ事や、親知らずが全て綺麗に生え揃っている事の他にも10歳の頃には既にバランス良く発達した逆三角形の体型をしていて、瞬発力やバランス感覚、持久力共に人並外れていた。
俺の身体を見た女性審査員などは文字通り涎を垂らしていた。プロデューサーと思われるナイスミドルの男性は「ハハハ、凄い身体だな。」
と顎を触りながら言った。
3日後に「シノビ」オーディションに合格とのメールが届いていた。また「シノビ」本番の収録は翌々週の土曜日との事だった。
実はオーディションの帰り際にスタッフから、貴方は合格ですと内定を耳打ちされていたのだが。
そして収録本番の土曜日、横浜市内のスタジオに組まれた巨大な屋外セットの中で今日は朝からスポーツバラエティ番組「シノビ」の収録をしている。
俺は途中の関門を無事にこなし、既にファイナルステージへと進んでいた。やがてブザーがなると、俺は手を挙げてスタートする。20メートルの助走から踏み切り、奥行き5メートル水深1.5メートルの池を越え対岸に渡るのだが、呼吸法によって足の裏から吸い上げ、背骨に沿って全身に循環させていた「気」を踏み切りのタイミングで足裏より勢いよく放出させた。
そのブーストとも云うべき強い推進力を瞬時に足裏より生じさせ、宙を舞い羽根の様に緩やかに対岸に着地した。おそらく8m近く飛距離が出ている筈だ。そしてそのままの勢いで今回初登場となる直経3mの縦回転ループに侵入し、忍者の様に一気に駆け抜ける。
大地の「氣」を足の裏から吸い上げ全身に循環させ、放出させたり、身に纏ったりする技能を自身では「ブースト」と呼んでいる。気を放出するのと感知するのとは勝手が違い、さすがに俺のボディコントロール技術を持ってしても習得に時間が掛かったが。
そしてファイナルステージのラストの10mのロープ登りを腕だけで登り切り、無事時間内に無事フィニッシュした。
ファイナルステージでは第二関門である縦回転忍者ループを途中で踏み外す者や見ただけで断念した者も多く、俺は今大会で最初の完全制覇者となった。賞品として現金200万円と副賞にスバルXV(GP7)が貰える事になったが、小洒落た車だが、俺にはベンツのゲレンデがあり、副賞を現金200万円に換えてもらう事にする。
そして寺里ユキは最後に2秒残してにギリギリのタイミングでクリアしたが、見ていた参加者全てが手に汗を握った。
いずれにせよ彼女の強いフィジカルは称賛に値する。
明け方近くに撮影が終了し、一旦解散したあと、俺とユキは賞金の振り込み等の手続きを済ませて帰路に着く。
明け方近くに撮影が終了し、一旦解散したあと、俺とユキは賞金の振り込み等の手続きを済ませて帰路に着く。結局ユキはスバルXV(GP7)を貰う事にしたようだ。東映スパイダーマンの愛車もGP7なんだな、あっちはオープンカーで500馬力だけど(笑)。饒舌に語るユキは、実生活でも特写オタクだったようだ。
彼女とはお互いの健闘を讃え合い、連絡先の交換をした後、良かったら送って行くと申し出た。
彼女はしばらく考えていたが、「かなり臭うと思うけど、大丈夫かな?」と言った。
俺は「ああ、俺も汗まみれさ。」と笑う。
俺とユキは始発バスを待つ参加者の羨望の視線を横目に駐車場まで歩く。駐車場には艶消しグレーにフィルムコーディングしたベンツGクラスが鎮座していた。
ユキは少々驚いたように目を開くとこちらを向く。
俺は「実は田舎者なんでね、厳つい車でハッタリを効かせているんだ。」と自虐的に笑う。
「さて実はいいものが有りまして。」と俺はルーフキャリアに設置されている温水シャワータンクのシャワーノズルを彼女に示した。
彼女は少し驚きながらも「えっ、もしかしてこれ使ってもいいの?」と聞いて来た。俺はうなずく。
俺が先に水着姿になり、タンクに付いたシャワーのレバーを捻り、温水シャワーを浴びて見せると、元グラドルの彼女も躊躇なく水着になった。
車の後方左右に分かれて2つあった26リッタータンクの温水をそれぞれ使い切る。
「ごめんね〜。私が半分使っちゃって。」「でも凄くサッパリ!したわ。」
「大丈夫だよ、スペアを持って来ていてよかった。」俺は笑った。
そして観音開きのでリアゲートに仕込んであったカーテンの陰で器用に着替え、車に乗り込んだユキは眺めの良さに驚く。
帰りの車ではすっかり打ち解け、お互いの事を色々話す。
彼女は兵庫出身で現在は目黒区のサレジオ教会の近所に住んでいるらしい。俺が誘わなけれは、電車とバスを乗り継いでで帰っていたと話す。
俺の方は現在、フェンシングをしている事などを話した。
彼女を送る途中、彼女が身に纏うオーラの色が濁った桃色になった事を確認した俺は彼女の膝に手を置くが、彼女は何も言わない。
環八沿いのラブホテルの手前でウインカーを出した。
部屋に入ると一緒に風呂に入って再度汗を流す。
彼女はフェラチオが上手い。久しぶりにするとの事だが、大学時代に付き合っていたミスターKOに仕込まれたのだそうだ。彼女はどちらかと言うと責める方が好きらしい。
俺は美しい女が俺のマグナムを咥える姿を見るのが大好きだが、そのめちゃくちゃ可愛いグラビアアイドルから上目遣いで奉仕を受けていたミスターKOくんに対して少なからず嫉妬を覚えた程だ。そのため、俺は青少年教育には良くないと思いながらも、運転しながら、ずっと彼女の胸を揉んでいた位だった。
碑文谷のマンションの前に彼女を降ろし、歩道上のユキと車の中からキスを交わすと車を発進させる。バックミラーをみると、ユキはいつまでも手を振っていた。
俺と一緒に狭い空間に一定時間以上居る女性が性的な興奮を覚えやすい事はこれまでの経験で判っていた。車内の様なタイトな空間の場合はなおさら、その効果は高い。
翌日、ヨットのキャビンで東映スパイダーマンのDVDを観ていたが、中々シュールで面白い。
スパイダーマンの家は渋谷区の松濤地区にある邸宅で、またガレージが昨日通ったサレジオ教会の裏手にあると言う設定からも、ヒーローはやはり金持ちだなと苦笑する。ただGP7はクモの形をイメージしたオープンカーだが、スバルXVの方が個人的には好みだ。
するとタイミングよくユキから『身体がバラバラになりそう』
とチャットメールが届いたので、俺は昨日のユキの可愛い痴態を思い浮かべながら『全く同感!』と返信を返す。
『半分はアナタのおかげですけど♡』
『ユキさんの魅力に逆らえなかった、ゴメン。』
『ウフフ、いいわよ♡。』『ところで来週末何してる?誘って貰えなかったけど。』
『フェンシングの試合に出る予定。』と回答したところ、
『観に行っても良いかな?』と聞いてきたので
『大歓迎、場所は駒沢体育館で時間は日曜日の10時スタート。』と返事を返す。
『了解、もう寝ます・・・。』
白乾児と呼ばれた男 ボン @bon340
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