05

 十二月になった。

 依然として俺は刀根といられているがその場合はあんまり妹が来なくなったから少し気になっているところだった。

 で、結局は動かずにいた俺のところに来た勉に付き合った結果が、


「これだね」

「まだ埋めていたのか」


 これだ。

 前回と違って公園ではなく敷地内だからなにも問題はないがなんでそんなに埋めたがるのかと気になり始める。

 勉は犬なのだろうか? キャロルがいつの間にか人の姿になってしまったのかもしれない。


「友達から貰った手紙を埋めてあるんだよ」

「ちゃんと手元に残しておいてやれよ……」


 それより手紙のやり取りなんかもするのか、俺は同性とか異性とか関係なくしたことがない。


「やっぱりそうだ、当時は気が付かなかったけどこれはヒントだったんだね」

「なんのだ?」

「僕の評価についてかな」

「寒いから中に入ろうぜ」


 あのときとは違ってキャロルもいるからある程度は任せつつも撫でたりしたかった。

 ただ? 最近は座っていると足の上に座ろうとしてくるから不思議だったりもする。


「涼二はこういうのないの?」

「ないな――あ、おい、キャロル重いぞ」

「それなら僕と交換日記でもしようよ」

「仲のいい男女かよ、俺らは男同士だろ」

「男同士でしたらいけないなんてルールはないでしょ?」


 それはそうだがたかだか手作り弁当ぐらいで恥ずかしがっていた俺ができるわけがないだろう。


「ほら、ここにもう買ってあるんだよ」

「瑚子に渡しておいてやる――駄目か、じゃあ先に勉が書いてくれよ」

「うん、涼二には色々と言いたいことがあるからね」


 直接言えばいいとぶつけるのは野暮か。

 勝手にぶつかってくるぐらいだから撫でる必要もない状態で待っていると「はい、ちゃんと返事を書いてね」ともう渡してきた。

 持って帰って後から確認をするとなると恥ずかしくなって無理になりそうだったからばっと開いてささっと書いておいた。

 野郎同士でこんなことをするなんてなあ。


「なるほど、涼二は自分のことよりも僕や瑚子ちゃん達のことを多く書くんだね」

「勉に対する態度とか、表情の変化とか本人達がいるところでは出しづらい内容こととかもあるからな」

「でも、この『瑚子が見つめていた』というのは違うと思う、睨まれていたが正しいんじゃないかな」

「たまに怖くなるけど睨んでばかりの人間じゃないぞ」

「最近の瑚子ちゃんは露骨なんだよね」


 とはいえ、最低でも三人でよく集まっているからそんなことをしていたら俺でもわかると思うが。


「瑚子ちゃんはよく涼二の後ろに立っているからね、見えなくてもおかしくはないよね」

「そういえばあれってなんでだ? たまになら甘えたくなる日もあるで片付けられるけど最近は多すぎる」

「涼二の言うように甘えたいからでもあるし、僕らが接触しようとした際にいつでも腕とか手を掴んで逃げられるからだろうね。つまり警戒されているんだよ、だからそれが少し寂しいかな」

「俺なんか頑張らなくたって暇人なのにな」

「涼二のそういう態度からも影響を受けているかな」


 なら俺が妹に対して積極的になれば、なんてするわけがない。

 勉や刀根、それにあの三人の女子と関われているのだからその内の誰かに対して甘えればいいのだ。


「だからね? 瑚子ちゃんとは別でこういうことをした方がいいと思う、表に出せてはいないだけで色々と知ってもらいたいことがあると思うんだ」

「なるほどな、帰ったら言ってみるか、俺だって瑚子にストレスを溜めてほしくないからな」


 紙だけは大量にあるから勉みたいに拘らなくても問題も出てこない。

 いまはアプリなんかもあるからそれを利用するのも悪くはなさそうだ。


「うん、それがいいよ。よし、じゃあこれも持って帰ってね」

「え、こういうのは一日一ターンだろ?」

「複数回やり取りをしてはならないなんてルールはないよ」

「はは、それやめろよ、どうしようもなくなるだろ」


 家に帰ってみてもいませんでしたーなんてことにはならなかったから今日もソファで休んでいる妹にぶつけてみた。


「先にお兄と勉君のやり取りを見せて?」

「はい」

「み、見せてくれるんだ」

「まあ、これ自体はアレだけど恥ずかしいことは書いていないからな」


 勉は本人も言っていた通り色々と書いてくれていたが俺は今日は天気がよかったなとか授業の内容が難しかったななどとしか書いていないから見られても問題はない。


「ありがと。これをやるならノートかなんかを買ってこないとね、早速いまからいこう」

「数ページだけ余っている古いノートじゃ駄目なのか?」

「駄目だよ、だっていっぱい書きたいことがあるもん」

「じゃあいくか」


 新品で奇麗な物ならなんでもいいのかごく普通のノートを買って早速書き込んでいた。

 あっさりと渡してきたくせに「お、お部屋で読んでね」と言われたので仕方がなく部屋まで移動して確認をする、妹の方は刀根のことばかりだった。

 この前も吐いていたように気になるらしい、あとはそれでも意地悪がしたいわけではないという内容だ。


「結局瑚子は刀根のことが好きなのか? 嫌いなのか?」


 一階に戻って確認をする。

 もうこうやって直接なにかを言い合えるのならノートを買った意味なんかないがまあ途中で終わっても授業なんかには使えるからと片付けつつだ。


「嫌いじゃないよ、そうじゃなかったら一緒にいないよね? だけど譲れないこともあるってだけだよ」

「んで、自惚れでもなんでもなく俺が関係しているんだよな?」

「そうだよ、お兄を取られるみたいでもやもやするの」


 一つしか違わなくてずっと側で見てきて誰にも取られないと他の誰よりもわかっているはずなのになにを不安になっているのか。

 開き直り、自慢できることではないとわかっているが俺なんてそれぐらいの人間だ、なんならこの先だって変わらないと断言してしまってもいいぐらいなのに。

 魅力的な後輩、同級生、先輩はいてもあくまで俺とは関係のないところで同じように魅力的な相手に対してだけ頑張っているというのにな。


「でも、俺は刀根と仲良くしてほしいんだよな」

「言うことを聞いてもいいけどその場合はお兄にもなにかしてもらわないと嫌だ」

「なら土日は必ず付き合う、だから平日はさ」

「まあ、私が先にお友達になったんだからそれぐらいはね」


 それこそ刀根も兄として見てしまえばいいのではないだろうか。


「はい」

「瑚子も一気に畳みかけてくるのか」


 やっぱりこういうのは相手が書き込んだのを持って帰って、うーんうーんと悩んだ末に書き込んだやつを翌日に見てもらうのが普通ではないだろうか。


「さっきのやつはまず伝えてたかったやつで次は私とお兄に関することだよ」

「んー俺達は似ていると言われるときもあるし、似ていないと言われるときもあるな」

「あっ、ここで読むのはなしだよ」

「いやこれぐらいなら問題もないだろ」


 もう答えを言ってしまったのに同じことを書き込む羽目になった。

 まあ、字を書く練習だと思えばそう悪くもないのだろうか。

 こんな変なことを繰り返している間に母が帰ってきてご飯を作り始めた。

 妹はいつものようにソファに寝転がりつつもスマホを弄ってばかりいる。


「ネットサーフィンでもしているのか?」

「ううん、綾乃さんとやり取りをしているんだ、学校では自分のせいでいられていないからこうして相手をしてもらっているの。面白いのはね、送ったら一瞬で返ってくることだよ、ただ甘えてばかりもいられないよね」

「連絡先は交換したけどまだ一度もアプリで会話はしていないな」


 送られてこないうえに頼まれもしないからそのままになってしまっている、これが本とか物理的に存在している状態なら間違いなく埃まみれになっていることだろう。

 ただ、消すほどではないからいつかはやり取りができればいいぐらいか。


「あ、そのことも気にしているみたいだよ、というか基本的にお兄とか勉君の話ばかりだからね」

「みんながみんなを気にしていて面白いな」

「勉君に興味を持つのはいいことだね」


 細かいところはスルーをして手伝うために母のところにいく。


「よかった、見えていないのかと思ったよ」

「見えているけど母さんはすぐに断ってくるからな、少し時間を置いてからにしたんだ」

「それならお味噌汁を注いでくれる?」

「任せろ」


 しかしなんだ、いつも大きい芋が入っている。

 給食ならたまに出てくる豚汁ぐらいにしか入っていなかったからたまに気になるときがある。


「母さんの母さんも芋を入れていたのか?」

「うん? ああ、そうだね――もしかして嫌だったりする?」

「嫌じゃないよ、だって昔からずっとこれだからな」


 キュウリとかよりはいいか。

 キュウリは切って醤油とかマヨネーズとかをかけて食べるのがいい、七味なんかも足すともっといい。


「それならよかった、ただ無理強いはしたくないから苦手な物があったりしたらちゃんと言ってね」

「それなら夜ご飯を食べているときに母さんがじっと見てくるのが苦手だな」


 妹も真似をして乗っかってくるから落ち着かない時間になる。

 別に一人で食べたいとかそういうのはないがじっと見られるのはちょっとな。

 いま以上に酷くなるようなら壁に向かって食べることになってそれも微妙だからそうしなくて済むようにしてもらいたい。


「うっ、いやいやいやっ、それぐらいの時間しか涼二や瑚子を見られないんだから仕方がないでしょ?」

「そのときの顔がさ、なんか子どもを見るときみたいな……」

「お、お母さんだからっ」


 うんと小さくてちゃんと見ていないと口の周りを汚すような赤ちゃんとかでもないのだ。

 食べることに集中するかよく育ってくれた娘と楽しくお喋りをすればいい。


「じゃあ俺がじっと見ていたらどう思う?」

「んーやっぱりまだお母さんが大好きなのね~って幸せな気持ちになると思うけど」


 母には勝てないようになっているのかもしれない。

 ポジティブ思考だからなんでもかんでもいい方に捉えてきて追いつけない。

 進んで困らせたいわけではないからここらでやめておいた。

 ちなみに、ご飯を食べている間はちっとも変わっていなかった。




「意地悪をしたいわけじゃないって言ってくれているけど相変わらず付き合ってはくれないよな、俺は兄貴だって顔を合わせる度に言っているのに届いていないらしい」

「魅力的だからだろうな、だからこそわかっていても同じことを繰り返してしまうんだ」

「俺の魅力ってなんだ?」

「スラっとしていて出なきゃいけないところも出ていて高身長で格好いいところだな」


 絶対にないが彼女に本気でアピールをされたらすぐに負ける、ある意味兄としても負けることになる。


「え、俺は家族から何回も『胸がないね』って言われているんだけど」

「そうか? 普通にあると思うけど」


「私達に比べたら胸がないね」と言いたいだけのはずだ。

 

「あのさあ、女の子の体のことについて真顔でどんどん答えていくのはどうなの?」

「じゃあちゃんと腹がへこんでいてすごい、肉体管理はやらなきゃいけないことだけど滅茶苦茶大変だからな」

「やっぱり男の子はおっぱいが大きい方がいいんだ」

「別にみんながみんなそうじゃないだろ」


 よし、作戦ではなかったが刀根がいるときでも離れたりはせずに参加してくれた。

 はっとなって逃げられても困るから腕を掴んでおくと「お兄は大胆」と変な発言をしてくれた。

 それでもすぐに怖い顔になって「さっきの発言は許さないけどね」と。


「一応言っておくと俺は須磨先輩よりも涼二の方が好きだぞ」

「それは瑚子の兄だからか」

「え、何回も付き合ってくれるからだけど」

「そんな程度で好きになっていたら刀根の中には好きな人間がいっぱいいるってことだよな」

「俺が好きなのは両親と瑚子と涼二だ」


 勉と過ごしているから大胆な発言病が移ってしまったらしい。

 これを治すためには距離を作らせるしかないが言うことを聞いてくれるとも思えない、また勉も彼女のことを放っておかないからより悪化していくだけだろう。

 こうなれば俺が離れることでしか、


「おっと、逃げるのはなしだぞ?」


 まあ、母にだってあっさり負けるのに友達に対して勝てるわけがないか。


「勘違いしないでくれよ瑚子、別に瑚子の兄貴を取ろうとしているわけじゃないからな?」

「なるほど、仕返しってことだね?」

「まあ、拗ねていたのは前にも言っていたように本当のことだ、あと最近は涼二に対しても似たような感情がある。だって瑚子は百パーセント甘えているのに俺にはしてくれないんだぞ? いくら昔から時間を重ねてきているとはいっても気になるだろ」

「だったら来なよ」

「「いや……瑚子が避けているからだろ」」


 俺だってこれに関しては言いたくなる、いや言っていた。


「これからは避けないから一緒にいたいなら来なよ」

「ちゃ、ちゃんと守れよ?」

「守るよ、綾乃のことは好きだからね」


 よし、これで片方しかいなくて気にしなければならない日々は終わったみたいだ。

 これからは一切気にせずに相手のところへ連れていくことができる。


「あのさ、兄妹で簡単に好き好き言いすぎだろ」

「さっき好きだと言っていたのは綾乃だよ?」

「う゛っ、い、いやでもっ、いい加減な考えからじゃないぞ」

「ふーん、じゃあやっぱり綾乃はライバルなんだね」


 おいおい、せっかく解決したところなのだからまた同じところに戻そうとするのはやめてもらいたい。

 もう兄のことなんか一切気にせずに二人で仲良くしてくれよ、二人が楽しそうならそれでいいからよ。


「ライバルってなんのだ?」

「はぁ、そこでわからないふりは意地悪だよ」

「え、いやだって瑚子は涼二のことをそういう意味で好きじゃないだろ?」

「そろそろ帰らないとね、三人でゆっくりお喋りをしながら帰ろう」


 はっきり違うと言ってやればいいのに。

 だが無駄に振られることになって俺が気にすることをわかっているからここでは答えることを避けたことはわかる。

 だから結局はありがたい気持ちでいっぱいだった。

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