04

「まずはこれが普段母さんが買ってきてくれている服だ」

「可愛いな、別に似合っていると思うけど」


 瑚子だって好みそうな内容だった。

 まず間違いなくここにいたら抱き着いているところだ、それだというのに刀根の顔は微妙そうなそれから変わっていない。

 親しい人から言われたのならともかく出会ったばかりの俺から言われても響かないということだろうか。


「涼二的に俺は格好いいんだろ? それなに真反対の服装だろこれは」

「そっちも新しいのも楽しめばいいんじゃないか?」

「わかったことは涼二も瑚子も似ているってことだな、その瑚子はいまここにいないけど」


 そりゃ血の繋がっている家族だからそうだ、少しぐらいは似ているところがあってくれないと困る、なにもないと周りから似ていないと言われたときに黙っておくことしかできなくなるからだ。


「でも、本人がこうして納得できていないんだ、だから付き合ってくれ」

「それにはちゃんと付き合うよ、いこう」


 なんか同級生でも妹と同じような感じがしてつい付き合いたくなる。

 あんまり食べていなかったら食べろと言いたくなるし、なんなら自分の分もあげたくなる存在だ。


「女子用は可愛いのが多いから選ぶなら男子用からだな」

「もったいないだろ、いいからあっちで選ぼうぜ」

「それなら涼二も隣にいてくれ」

「付いていくよ」


 まあ、一人で見ているよりは意識を向けられることもないだろう。

 しかしなんだ、なんで刀根はこんなに話しやすいのか。

 口調の問題だろうか? 俺という一人称に男子みたいな喋り方だから見た目は完全に女子でも友達みたいに……。

 い、いやいや、流石に気持ちが悪いからここいらでやめておこう。


「はは、色々言っていた割にスカートにばかり意識を向けているな」

「ズボンを履いているとよく男子に勘違いをされるんだ」

「ズボンを履いていたって一目で女子ってわかるけどな」

「まだスカートのときの俺しか見たことがないだろ、涼二だってどうせズボンを履いていたら俺だってわからないよ」


 マイナス思考だなあ、ここは妹と似ていないかもしれない。


「これかな、長い方が落ち着くからな」

「買うのか?」

「おう」

「じゃあ外にいっておくわ」


 買う気もないのに自動販売機の飲み物を見たり、張られている紙を見たりしていたら「お待たせ」と出てきてくれた。


「着替えてきたのか」


 上は買っていなかったのに完全にいまは私服状態だ。


「このまま解散は寂しいから須磨先輩の家にいこう」

「お? おう、じゃあいくか」


 二人盛り上がっている間はキャロルを愛でておけばいいだろう、一応連絡をしてみても問題はないみたいだったから移動する。


「お、可愛い服装だね」

「一応格好いい系を選んだつもりなんですが……」

「刀根さんは女の子だからなにを着たってそうなるよ」


 何故か勉には敬語の彼女と、出会ったばかりだろうと揺さぶっていく彼がいた。


「あれ、キャロルは?」

「いまは病院かな、病気とかが理由じゃないけど健康診断は大切だからね」

「そうか、人間だって同じだしな」


 そうか、ならどうするか。

 というか、刀根がいきたがって勉が受け入れたわけだから俺はいる必要がないのか?


「よいしょっと」

「俺はソファじゃないぞー」

「それより瑚子ちゃんはどうしたの? 『放課後になったらお兄達と服屋さんにいくんだ!』ってハイテンションだったのに」

「それがわからないんだ、刀根も同じらしい」


 放課後になったから二人でいってみたがいけなくなったとしか言ってくれなかった、刀根も一人ではなければ問題なかったのか気を付けろよぐらいで済ませていたから追加で聞くことはしなかった形になる。


「あ、これはまさか……いや、今回はただの妄想じゃないんだ、実は午前中に男の子と一緒にいる瑚子ちゃんを見ちゃってね」

「それ俺だろ」

「当たりーだけど放課後になる前になにか頼まれたのかもしれないね」


 なにか頼まれていたらそのことを言いそうだがな。

 まあ、妹相手に頑張ろうとする男子がいたとして、妹的に悪くないなら頑張れよと考えることしかしない。


「そういえば三人ぐらいの女子と一緒にいるところを見たぞ」

「雰囲気はどうだった?」

「別に悪くなかった、それどころか抱き着いていたぐらいだな」

「じゃあその子達と一緒にいるんだろうね」


 なんか嫌な予感がする。

 というのも、中学生のときにも同じような人数の女子からうざ絡みをされていたことがあるからだ。

 とはいえ、全員が全員同じようにやるわけではないからちゃんと見ていない状態で突っ込んだところで今度こそ離れられてしまうだけかもしれないという怖さがある。

 かといって、見るために階下にいくというのも……。


「あーあ、これは重症だなー」

「涼二がか? 変な顔をしているだけだぞ?」

「涼二はね、本人は認めないけど重度のシスコンさんなんだよ」

「いやでもわかるぞ、瑚子に男子が近づいていたら止めたくなるからな」

「まあ、お姉ちゃんが妹のことを大切にする方がまだいいのかもね」


 シスコンではないし、いま考えたように直接様子を見にいったりはしない。

 だからそこは安心してもらいたかった。




「どうだ?」

「昨日の女子達だな、やっぱり楽しそうだ」


 あ、これは刀根が言い出したことだから誤解をしないでほしい。


「よかった、じゃあ帰ろ――待て、深追いは危険だぞ?」

「最近は同性が相手でももやっとするんだよな」

「そこは難しい問題だな」


 同級生というだけで違うだろう。

 正直なところを吐いていい方に変わることもあるが今回のそれはぶつけても妹を困らせてしまうだけだ。


「あれ……? なんかこっちを見ていないか?」

「一応教室二つ分ぐらいは距離があるんだぞ? しかも柱の陰から見ているぐらいだから気づかれていないだろ」

「挨拶をして別れた、そのまま教室に――じゃなくてやっぱり俺らの方に来ているよな?」

「こっちにはトイレだってあるからな」


 うんまあ、隠れてみてもいつまで経っても妹が通り過ぎないからもう一度見てみたら目が合った。


「珍しい、ね?」

「悪い、最近は急に無理になることが多いからちゃんといるのか確かめたくて刀根に頼んで付き合ってもらったんだ」

「ああ、昨日はごめんね、先生に頼まれてお仕事を手伝っていたの」

「そうなのか」


 う、嘘臭すぎる……。


「それであの三人は?」

「この前から一緒にいるお友達だよ、今度遊ぶ約束をしておいた」

「ふーん、やっぱり先輩よりも瑚子は同級生の女子がいいんだな」

「え、綾乃さんどうしたの?」

「ふんっ、いくぞ涼二!」


 こういう別れ方はよくないから許可を貰ってから吐いておくことにした。

 そうしたら笑ってから「綾乃さんは可愛いね」とぶつける、刀根は両腕を組んだままもう一度「ふん」と返していた。


「心配しなくてもあの子達と綾乃さんは別だよ」

「差を作っているってことか? 瑚子は悪い子だな」

「えーどうすればいいのー」

「はは、冗談だよ。色々聞けてすっきりした、瑚子も涼二もありがとな」


 おーい、俺を置いていくなよ。

 慌てて追うのも違う気がしてもう一度妹に意識を向ける。


「綾乃さんに付き合っていたんだよね?」

「まあ……実際はそうなんだけど俺も気になっていたんだ。ほら、昔に似たようなことがあっただろ?」

「あの子達とは違うよ。それになにかがあってもお兄が助けてくれる、そうでしょ?」

「俺は瑚子の腕を掴んでその場から離れることぐらいしかできなかっただろ」

「それだけでも凄くありがたかったけどなあ」


 妹ということで俺のことを話すときにどうしても贔屓というかちゃんとした評価ではなくなってしまう。

 それこそ勉ならただ離れるだけではなくて効果的ななにかができたことだろう、刀根だって上手いことやるに違いない。


「勉君の真似がしたいわけじゃないけどさ、私もこの手に何度も助けられてきたわけだからね」

「握力とかも大したことがないし、ただ瑚子よりもでかい手というだけだろ」

「こうして触れていると安心できるけどね」

「残念ながら本人はわからないからな」


 安心できると言われてもな、それならいてくれているだけでパワーをくれる妹や勉の方がすごいとしか言いようがないが。


「あ、はは、予鈴が鳴ったね」

「頑張ろうぜ」

「うん、後でいくから相手をしてね」

「任せろ」


 教室に戻ってから少しして、なんとなく女子同士で盛り上がっている二人を見ていた。

 もちろん、その二人に対して興味があるわけではなくて妹のことを考えているだけ、あとは離れて寂しいとかそういうことでもない。

 誰か他の存在に興味を持っていても醜く嫉妬をしたとかでもなく……。


「うーん」


 なんだろうな、この言葉にしづらいなにかには困ってしまう。


「涼二ーご飯食べよー」

「おう」

「瑚子ちゃんも連れてきたからねー」

「はは、見ればわかるよ」


 誘いもせずに放置は可哀想だと思ったから刀根のところにいってみたら早くも突っ伏していた。

 触れることもせずに刀根と呼んでみるとすぐに起きてくれたものの、何故かなんだこいつみたいな顔をしていて気になった。


「って、涼二か」


 どうやら誰かわかっていなかったらしい。


「一緒に昼ご飯を食べようぜ」

「おう」


 ただ、こうしてあっさりと付いてきてしまうところはマイナス点かもしれなかった。

 俺がやばい奴だったらどうするのか。


「お兄、別に意地悪がしたくて綾乃さんを誘わなかったわけじゃないからね?」

「おう」

「俺は瑚子が相手をしてくれなくて拗ねているけどな」


 それか、まだ気にしていたのか。

 ぶつけても怒るどころか笑いかけてくるものだからすっきりしないのかもしれない。


「はは、綾乃さんはなんか妹みたい」

「「妹は瑚子だ」」「妹は瑚子ちゃんだね」

「そ、そうだけさ、なんか綾乃さんって妹的な可愛さがあるよね?」

「刀根は俺的に姉ちゃんだな」


「どうした涼二?」といつも気にかけてくれそうな感じ、少なくとも妹的には刀根が家族だった方がよかっただろうな。

 こればかりはどうしようもないから諦めるしかないが対象と家族をいつでも見比べられる環境だからこれから大変になりそうだった。


「僕からしてもそうだよ」

「兄貴とか弟とか言われなくてよかったわ」

「たまに可愛い男の子もいるけど刀根さんは可愛い女の子だから無理だよ」


 おいおい、全力を出すにはまだ早すぎるだろ。


「涼二、瑚子、須磨先輩っていつもこうなのか……?」


 そりゃ対象はこういう反応にもなる、ここで「ありがとうございますー俺は可愛いんですよー」なんて返す人間ではなくてよかった。


「んー私のときよりもすごいかも」

「え、まさか俺を……」

「んー刀根さんは魅力的だけどいまのところは涼二が優勢かな」

「「は?」」


 また勉はこんなことを言う。

 少なくとも全面に出すときは二人きりのときであってほしい。

 冗談でも本気でも真正面から受け止めて女子人には勝手に諦めてほしくはないからだ。


「え、綾乃さん男の子のお兄に負けちゃっているの?」

「うん、だってまだ一週間も経過していないから」

「「「ああ……そういう……」」」


 たとえこういう内容だったとしてもだ。


「うん? なにか他のなにかがあった?」

「「「いや、なんでもないです」」」


 わざとか、計算してか。

 それは本人ではないから一生わからないままだが試すようなことはやめてもらいたかった。




「正直に言うと私の方が綾乃さんに嫉妬しているけどね」

「お、どうしてだ?」

「だってお兄と前々からいたみたいに話しているから」


 俺に、ではないのか。


「これからもああいうことが増えるなら嫌だな、連れていかなければよかった」

「そこまでなのか?」

「綾乃さんには悪いけどそうなるね」


 と言われても刀根も困るだろう。

 ただ友達の兄といるだけなのに勘違いをされていたらやっていられない。

 まあ、距離感を見誤って既に三回ぐらい失敗しているわけだから今後のことを考えればそれが嫌になって来なくなるぐらいがいいのか。

 でも、俺はいられなくなってもいいが二人には仲良くしていてほしいという難しさがある。


「ちょっと付いてきて」

「あ、おい」


 嫌な予感がする、そしてこういうのはやはり当たるもので刀根本人にぶつけていた。


「兄貴を取ったりしないからそう警戒しないでくれよ」

「でも、不安になるんだよ」

「ん? ちょっと向こうで話さないか?」


 数分が経過した、よかった点は戻ってきたときに片方だけになっていたりしていなかったことだ。

 妹はそのまま俺の後ろまで移動してくっついてきた、別に怖い感じではないから今日は甘えたい日なのかもしれない。


「今日から俺は涼二と同じで兄貴だ。ほら、俺とか言っているから受け入れやすいだろ?」


 兄貴になったらしい。

 いつか仲を深めた際にいらないとか言われたら困るから頑張るか、なんてな。

 俺がどんな野郎だろうと家族というところは変わらないからその場合でも諦めてもらうしかない、排除だけはしないでほしい。


「綾乃は女の子だからお姉ちゃんだよ」

「女扱いをしてくれるのはありがたいけど兄貴だ、涼二もそのつもりでよろしく頼む」

「お、おう」


 どうした、冬の寒さで壊れてしまったのか?


「おいおい、本物の兄貴だからって油断していたら瑚子を取っちまうぞ? いいのか?」

「それで瑚子が幸せならな」


 抵抗しようとしていてださいが男子に取られるよりはまだなんとかなる気がする。

 男子なら家族であろうと近づきづらいが女子の、しかも相手が刀根だったら許可してくれるだろうしな。


「うわ……結局涼二も須磨先輩タイプかよ」

「俺と勉は似ていないだろ」

「やべえな」


 俺はやばいらしい。

 だが、その後にすぐ「二人で仲良くしないでね?」と本当にやばい人間が出てきたからこれでわかってくれるはずだった。

 ただ? 直前の話し合いで兄貴になってから余裕ができたのか「瑚子はそういうところも可愛いな」と大人の対応をしている刀根がいたのだった。

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