第139話 大統領の正体。
大統領を看破しても、ただ大統領の情報しか視えない。
どうやら人形ではないようだ。
なのにこの行動。
明らかにおかしい。
操られてる感じでもなさそうだし……。
大統領は周囲をキョロキョロ見回すだけで、一切口を開かない。
普通『何者だ!?』とか『私は大統領だぞ!!』とか言いそうなんだが、ただいつでも動けるように腰を落とし、周囲を警戒してる。
……ん?
この大統領、隙が少ないな。
何か武術でもやってるのか?
アマネによるとただの人らしいけど、そんな感じはない。
まあ、とりあえず暗殺させてもらおう。
俺は魔糸を大統領の首に巻き付け、一気に引いて首を落とす。
が、大統領の首が切れると同時に姿が霧のように四散し消滅すると、俺が隠れている影の上に姿を現し、周囲を見回すと俺が入ってる影を見て拳を振り下ろしてくる。
咄嗟に影から出て空中に飛び出し、空中で回転しながら大統領から10メートル程離れて着地。
まさか影の中に居る俺を攻撃してくるとは、何者だこの大統領?
「よく分かったな……っ!?」
大統領の姿が突然消えると俺の背後に移動し、いつの間にか右手に持っている短剣で斬り掛かって来る。
身体を逸らして避け、奴の顔面に左拳を打ち込むが左手で防ぎながらも吹っ飛んで行き、身体を捻って着地すると数メートル滑って止まり、すぐさま立ち上がるとどこから出したのか左手にも短剣を握り締め、腰を落として構えた。
「お前、何者だ?」
しかし奴は答える事無く地を蹴り、素早く距離を詰めてくると両手に持つ短剣で斬り掛かる。
奴の猛攻を全て避け続ける事数秒後、振り下ろされる右腕を弾き、続けて迫る左腕も弾き、両腕が開いた状態になると、深撃を発動させて吹っ飛ばないようにし、胸と腹に数百発の拳を叩き込み、最後は胸を殴って吹っ飛ばす。
何度か地面に叩き付けられながら数十メートル飛んで行き、止まるとピクリとも動かなくなる大統領。
死んだかな?
歩いて大統領に近付いて行くと、突然背後に気配が現れ、振り向く前に横っ腹を蹴られて吹っ飛ばされるが身体を捻って地面に手を突き、飛び上って着地して見るとそこには、大統領が立っていた。
倒れている大統領を見ると既に姿は無い。
移動した?
いや、倒れた大統領が居たのに背後に気配がしたな。
つまり……分身。
こいつ、忍者か。
それでこちらの問いかけに何も答えないのかな?
まさか大統領が忍者だとはねぇ。
「お前、忍者か」
その問い掛けに何の反応もせず、攻撃を仕掛けて来る大統領。
相当忍者として訓練を受けてるようだ。
ここまで何も反応を示さず、ただ俺を殺しに来る。
すると大統領は、右手で何やら印を結ぶと周囲に4つの火球を出現させると同時に地を蹴り、先程よりも速く迫ると火球を順番に放って来た。
俺は、両手に魔力を纏わせ、迫る火球を両手で弾きながら前に出る。
最後の火球を弾くと目の前に短剣の刃が迫り、ギリギリ屈んで避けながら踏み込み、右拳を胸に打ち込むと同時に流気で体内に魔力を流し、内部を破壊。
めり込んだ拳をそのまま振り抜くと弾丸のように吹っ飛んで行き、壁に叩き付ける。
次の瞬間、右後ろに気配が現れ、横っ腹に衝撃が走り、続けて左後ろに気配が現れては反対の横っ腹に衝撃を受けると目の前に忍者が現れ、頭を蹴られると忍者は姿を消す。
そこからは周囲に気配が現れては消えを繰り返し、攻撃を仕掛けて来る忍者。
右に弾かれては左へ弾かれるという地獄のサンドバック状態になるが、4発目からの攻撃は全てギリギリ防いでいる。
スドドドドドド……と続く猛攻の中、壁に叩きつけた大統領を見ると既に姿は消えており、周囲に現れる忍者のみ。
この攻撃はおそらく、分身を使った攻撃だ。
前で攻撃をしたら背後に分身を出し、攻撃というのを繰り返してるだけ。
だがこの戦法は、影忍以外出来ない。
分身は普通なら最高でも2体までしか出せないはず。
しかも解除すれば、数秒は分身を出せないのだ。
なのに続けて出せるのは、分身ではなく影分身を使ってるから。
まあ、影分身だけを教わってる可能性もあるけどね。
そこで違和感を覚える。
俺がよく知ってる感覚。
これはもしかして……。
とりあず、思わぬ良い訓練になったけど、そろそろ終わらせよう。
俺は全身から溜気を放ち、姿を現した忍者を弾き飛ばすと2体の分身が四散するように消滅し、本体が後方へ吹っ飛んだので縮地で背後に回り、背後から直刀を心臓に突き刺す。
マスクの下で血を吐き出す忍者。
すると次の瞬間、忍者は霧のように四散して姿を消した。
こいつも分身かとすぐさま空間感知、魔力感知、気配察知で周囲を探るが、何の反応も無い。
特殊空間に1人佇む俺。
……やっぱり大統領自体が分身だった?
戦闘中に感じた感覚。
あれは俺が、分身と戦闘訓練をしてる時に似ていた。
それに、いくら忍者だといっても気配が一定過ぎたのだ。
普通人間相手なら、どんなに訓練をした忍者でも気配は『動く』もの。
この『動く』というのは、同じ殺気でも強弱があるという意味である。
なのに大統領は、常に一定の気配だったので違和感を覚えたのだ。
まさか大統領自体が分身だったとはねぇ。
分身を別の所から操り、大統領のフリをしていたって事か。
「あっ」
あの寝室での行動。
感覚共有をしていなかったから人形のようにジッとしてたんだ。
そしてベッドに寝たのは、誰かが感覚共有をして横になった。
そこで俺が特殊空間に転移させたから、感覚共有が切れて分身のみになり、敵対する俺をただ殺すために動いてたって事だな。
いやぁ~、スッキリした。
ってかこれ、暗殺失敗じゃね?
そもそも分身なら暗殺出来ないじゃん。
元から大統領は分身だったのか?
それとも本当の大統領を始末して、分身と入れ替えた?
……これはアマネに相談だな。
もしかしたらアマネも気付いてなかったのかも?
感覚共有をしてた奴が、分身が消えた事でどう動くのか、大統領暗殺がバレる可能性がある。
という訳で今は夜だが、キジ丸に戻ってアマネと話した建物へ転移するが当然誰も居ない。
すぐさま念話でアマネに問いかける。
『アマネ、今あんたの家に居るんだけど、話せるか?』
するとすぐ返事が来た。
『分かりました、そちらへ向かいます』
念話を切るとすぐさま奥からアマネが姿を現す。
「どうしました?」
「暗殺依頼に関して報告がある」
アマネは頷き、上座に移動して床に座るので俺も対面に座るとアマネが口を開く。
「それで? 何かありましたか?」
「一応暗殺は完了した」
「一応?」
俺は頷き、大統領が分身だった事を伝える。
「大統領が?」
「そっちでも気付いてなかったのか?」
アマネは少し考えてから答えた。
「そうですね。いつから分身だったのか少し調べさせます」
「依頼は失敗?」
「いえ、分身だと見抜けなかったこちらのミスです。私が直接見ていれば見抜けたのですが、以前の世界ならここからでも分かったのですけどね」
管理AIだったからね。
ゲームなら何でも分かっただろうけど現実になったいま、分身と変装術を見ただけで見抜く事は出来ないだろう。
魔眼を持ってたら分かるかもしれないけど。
「じゃあ報酬は……」
「はい、もちろんお渡しします」
よし!!
「あっ、暗殺した者の死体を頂けますか?」
何かに使うのかな?
なんて思いながら3人の死体をインベントリから出し、横に並べるとすぐさま消える。
「アマネもインベントリを持ってんの?」
「ええ、この身体の元主が持っていたのでそれを使わせてもらってます」
元プレイヤーの死体ならインベントリも使えるのか。
まあ、職業スキルは、元管理AIのアマネなら何でも使ってそうだ。
「では、報酬を渡します」
おお!
どんな報酬だろう?
俺が確実に喜ぶ報酬だし、ずっと気になってたんだよねぇ。
「キジ丸の巻物を出して下さい」
「? はい」
俺は魂に収納してある巻物を取り出し、アマネに手渡す。
巻物を手に持ったアマネは目を瞑り、何かを呟くと巻物が物凄い光りを放ち、視界が真っ白になる。
数秒で光りが消えると巻物を手放し、俺の目の前に浮きながらクルクル回る巻物。
「報酬はそれです」
巻物を手に取って魂に収納すると次の瞬間、大量の情報が頭の中に流れ込んで来た。
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