第113話 異世界の覚醒者。
ガチャっとドアを開け車を降りると、レバックが一瞬こちらを確認してから言う。
「なぜ降りるんだ? 大人しく車に乗っててくれ、すぐ追い払う」
「いや、あいつは退くつもりは無いようだ」
「……俺達を殺すつもりだと?」
俺はレバックの横を通り過ぎながら答える。
「いや、殺す気はまったく無いようだがな」
「分かるのか?」
「うむ、気配で分かる。ここは拙者に任せろ」
「だから、攻撃を当てたら戦争になっちまうんだって」
「あっちはそんな事を気にしてない。まあ、安心しろ。少し遊ぶだけだ」
「遊ぶって……殺されるぞ?」
「問題無い」
男から10メートル程の距離まで行くと立ち止まり、周囲の様子を伺いながら問いかけた。
「何の用で襲撃したのか知らんが、殺す気は無いようだな? どうだ? 少し遊ぶか?」
すると男は表情を変えずただ黙ったまま。
うむ……。
「拙者に勝てたら身体を好きにして良いぞ?」
そう言って笑うと男は、ニヤっと笑みを浮かべる。
言葉が通じてないのかと思ったが、どうやら通じてるようだ。
「おぬしら、ただの盗賊か?」
男はムッとした表情に変わる。
「まあ良いか……」
次の瞬間、周囲に隠れていた男達がその場で気を失い、祠の上に隠れていた男は気を失って落下。
目の前の男が振り返り、仲間が突然倒れた事に驚き、すぐさま俺の方を見る。
「とりあえず、おぬし以外は眠ってもらった。さあ、始めようか? 拙者に勝てたら好きにして良いんだぞ? あぁ、安心しろ、お前に怪我はさせないからな」
男は驚いた表情をしていたが俺の言葉に、怒りの形相を浮かべた。
「話せないのか? まあ良い。ほれ、いつでも良いから来い」
「…………殺す」
そう呟き走り出す男。
途中で地を蹴り、軽く5メートル程跳び上がると蹴りを放って来たので、身体を逸らして避けると着地した奴の回し蹴りが頭部に迫り、屈んで避けると続けて左拳が顔面に迫る。
首を傾げて避けると更に連続で交互の拳を打ち込んで来るので全て躱し、奴の動きを観察。
動きはまあ悪くない。
しかし、こいつは多少だが魔力を使ってる事が判明。
魔力感知で攻撃にちゃんと魔力が流れてるのが分かる。
かと言って、プレイヤー程の強さは無いんだよね。
レベル的には下忍程度かな?
だが、なぜ魔力を使えてる?
まあ、俺と同じようなやり方で核を壊した奴が居るのかそれとも、独自に感覚だけで解放したのか……気になる。
そこで奴が放つ右拳を避けず、左手でバシッ! と受け止め掴みと奴は、拳を引こうとするが動かない事に一瞬目を見開き驚く。
「おぬしに魔力の使い方を教えたのは誰だ?」
「っ!?」
「答える気は無いと……その程度では、拙者に勝てんぞ。出直して来い」
そう言って手を離すと奴は、後方に跳んで距離を空け、腰を落として構えたまま動かない。
「おぬしまで気絶させたら誰があやつらを連れて帰る? ……もっと強くなったら相手をしてやる。だから帰れ」
苦虫を噛み潰したような表情をし、動かない男。
「……さっさと帰れ!!」
少しだけマナの威圧を放つと男は、目を見開き口を開けて固まり、腰が抜けたのかその場に座り込む。
ちょっと威圧が強すぎたかな?
俺は体内に印を書いて回復術を周囲に放ち、気絶させた者達を起こす。
「ほれ、さっさと連れて帰れ、帰らないなら……消えてもらうぞ?」
鞘に入ったままの刀に威圧を流し、男の目の前の地面に刀気を当て、一筋の斬り込みを入れる。
「死体すら残さんからな? そうすれば、おぬし達がここに居たという証拠はどこにも無い……どうする?」
「……お前、何者?」
「拙者はシズキ、侍だ」
「……必ず殺す」
すると男は、俺を警戒しながら距離を空けて仲間の方へ回り、気絶から復活したが上手く動けない仲間を抱え上げ、ジッと俺を見ながら跳び上がり、森の中へ姿を消した。
数秒動かず空間感知、魔力感知、気配察知で様子を伺っていると、奴らが離れて行くのを確認。
どうやらちゃんと去ったようだな。
振り返り2人に告げる。
「行ったぞ。では街へ向かおう」
そう言いながらレバックの横を通り過ぎ、後部座席に乗り込む。
その間2人は、茫然と俺を視線で追い、乗り込んで少しすると2人も乗り、エンジンを掛ける前にレバックが口を開く。
「なあシズキさん」
「ん?」
「あんた何者なんだ?」
「先程奴にも言ったが、侍のシズキだ」
「魔力がどうとか言ってたが、シズキさん覚醒者なのか?」
「覚醒者?」
ゲームの時は、ユニークスキルを取得してマナを扱える者を覚醒者と、一部では呼んでいた。
こっちでも取得出来るのかな?
「あぁ、南方では覚醒者とは言わないのか?」
「魔力が使える人の事を覚醒者と呼ぶんすよ」
ほう、魔力が使えたら覚醒者ね。
って事は……。
「魔力を使えなかった人が使えるようになる?」
「ああ、特殊な訓練をした者が扱えるようになるらしい」
「言ってた道場の師範とかは、全員使えるっすよ」
魔力を使うためには、核を解さないといけないが師範達は、その解し方を知ってるのか。
まあおそらく、長い修練を積んで解放するんだろうけど。
どんな方法でやってるのか知りたいな。
「先程の奴らは? あやつも魔力を使っていたから覚醒者になるのか?」
「奴らは『神の民』と呼ばれており、この山の向こう側にずっと昔から住んでいる部族だ。詳細は分かってないが、全員が覚醒者らしい」
神の民ってゲームにも居たよな?
ネクリムという種族が。
あいつらはネクリム?
いや、ネクリムならマナを扱えるはず。
また別の種族か。
あいつらは……まだ山の中を移動中か。
なぜ分かるのかって?
男の影に影分身を潜ませてあるのだ。
あんな怪しい奴らをそのまま返す訳が無い。
「とりあえず街へ向かってくれるか?」
「そうだな」
「また戻って来るかもしれないっすもんね」
レバックがエンジンを掛け、祠の中にゆっくり入っていくとそこは、直径10メートル程の円形の広場になっており、天井はドーム状になっている。
その中心より少し横の位置に、腰くらいまである何の素材で出来てるのか分からない細長い台があり、その横に車を停めるとレバックがカードを取り出し、台の上に当てると地面の魔法陣が光り出し、すぐ光が消えた。
そこで気付く。
後ろにあった出入り口が前に変わっている事に。
今の一瞬で転移したようだ。
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