第39話 弟子との再会
「まさかご、ゴースト⁉ オウル先生の姿に化けてあたしをばかそうと⁉」
「いいや、俺は本物のオウルだ。オウル・アイボリーだ」
「そんなはずがない! オウル先生はとうの昔に死んじゃったんだ! おじさんがゴーストじゃないというのなら証明して! じゃないと、うーんと、噛みつくっ‼ がう‼」
鋭い牙を見せ、ガウガウしてくる。
俺は両手をあげて落ち着かせる。
「なにをすれば俺が本物のオウル・アイボリーって信じてくれる?」
「うーんと、それじゃあオウル先生なら知ってる、あたしがされて嬉しいことをして‼」
腕を組むクウォン。試練の間にて挑戦者を試す石像のごとく、堂々とした立ち姿だ。俺は襲る襲る亜麻色の頭髪に手を乗せた。
フワフワのお耳つまんだり、手のひらでつぶしてみたり、こねこねして、頭をわしゃわしゃ撫でくりまわす。クウォンは「くぅん」と声を漏らした。
「よーしよしよしよしよし」
「くぅん、くぅーん‼ うわああ、これは本物のオウル先生だぁぁぁ‼」
試練に合格したようだ。
このチョロさ。逆に心配になる。
「オウル先生、どうしてここにいるの⁉ 先生はブラックカースで怪物のごはんにされたのに‼」
涙をポロポロこぼすクウォン。
勢いよく抱き着いてくる。嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
俺はそっと手を添えて受け止めた。明るい亜麻色の髪が流れる背中を。
「うぅぅう、オウル先生の匂いだ、本物だ、そんあぁ、うぐぐ、うわぁあ~~‼」
「よしよし、泣くな泣くな。ありがとな、俺なんかのために泣いてくれて」
お出かけから家に帰ったら犬が飛んできて玄関で出迎えしてくれたみたいな気分だ。獣人は感情表現が激しい。
これは多くの場面でトラブルを起こしやすいが、でも、俺にとっては嬉しく楽しい日々の思い出だ。クウォンも例に洩れず激情型である。
「くんくんくんくん、うわぁああ何度嗅いでもオウル先生だぁあぁ────っ⁉」
「ちょ、ちょっと落ち着け、どうどう、クウォン、どうどうっ‼」
クウォンは俺の胸に狼の嗅覚を押し付けては、本人確認を繰りかえしてきた。
尻尾を激しく左右に振りまわし、耳をヒコーキみたいに引き絞り、全身でバタバタ暴れだす。両手は俺の背中にまわり、魔力に覚醒した怪力で背骨をへし折る勢いで締めてきていた。
「いだだだ⁉ うぁあ、おち、落ち着けええぇえ、クウォン、クウォン、よしよし、いい子だ、クウォンはいい子だ、感情をコントロールできるはずだ……ッ」
「くぅん、くぅーん、うぅ、我慢我慢……‼」
俺を締めあげる力が緩くなっていく。
ようやく彼女の膂力から解放された。
俺は深く呼吸をし腰をおさえた。
腰痛が5年ほどくらい進行したかもしれない。
「うわぁ、あたしはなんてことを‼ オウル先生、大丈夫⁉」
クウォンはまた勢いよく迫ってきた。
俺は慌てて「全然平気だ!」と言って制止した。
元気なことはいいことだ。
でも、時に怪我人がでることは忘れてはいけない。
「良かった、落ち着いてくれたか」
「オウル先生オウル先生オウル先生‼ どうしてどうしてどうしてレモール島に⁉」
あんまり落ち着いてなかった。
その場で足踏みを繰り返している。
「商売の一環だな。この島に特別な羊がいるらしくて──」
「ブラックカース島に先生が残って、それでそれでそれで‼ 先生、どうやって生きてたの⁉」
足踏みだけにとどまらず、拳をぎゅっと握りしめて、身体の前で振りまわし始めた。俺が生きていることが気になって仕方がないようだ。
「運よく島での生活に適応できたんだ。慣れれば意外と大丈夫だった」
「でも、あの島には呪いがあって、船で往来できないって聞いたよ?」
「魔法の船が迎えにきてくれて俺を助けてくれたんだ」
「魔法の船?」
クウォンが愛らしく首をかしげる。
スッと傾く頭とフワフワのデカ耳。
その所作により、彼女の背後にひろがる視界が確保された。
向こうから駆けてくる存在が目に入る。
赤毛の耳と筆先みたいな尻尾を揺らし、その狐はクウォンに飛びついた。
狐と狼がもみくちゃ獣団子になってぶつかってくる。俺は宙側転して回避し、事故に巻きこまれないようにする。
「うわあ! 不意打ちとはなにやつぅぅ⁉」
「港で無双のクウォンが上陸したって聞いたから見にくれば……こら! オウル先生に無断にくっつくことはリバースカース号の掟によって禁じられているのよ! くっついちゃだめ‼」
ラトリスは毛束をブワァと逆立て、クウォンを威嚇し始めた。
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