魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらうことにした。

人気者

第1話 俺は、かつての俺が軽蔑していた人間に成り下がる。

酒場のカウンターの席で、酒を飲んでは机に突っ伏してはぼーっとしていた。

 

 

俺は二十歳で、魔王が勇者様に倒されてから二年が経ったが、冒険者稼業をして日々の生活を送っている。

 

 

世界が魔族たちに支配される心配はもうしなくても暮らしていけるが、それでも魔物は今でもそこら中で活発に活動している。

 

金は、魔物を討伐してギルドに報告して報酬をもらうか、よくわからん迷宮に入って宝を探し当てるかすれば、当分は生活に困らないぐらいには金は入ってくる。

 

その分、命がけではあるが。

 

じゃあ何故、俺は命がけである冒険者をしているかと言えば、

十八歳の時に家を追い出されたからだ。

 

十六歳で魔法学校を中退して、二年間だらだらと家に引きこもっていたら、とうとう両親からいい加減にしろと言われ家から閉め出されてしまった。

 

 

これで最後だと言わんばかりに無理矢理に幾許かの金が入った袋を持たされ、突如として宿を失い路頭に迷った。

 

それまでたいしてろくな人生経験がない俺をいきなり雇ってくれる場所なんてある訳もない。

 

それじゃあこの先どうやってお金を手に入れて生活すればいいかなんて考えたら、取れる選択肢なんてのは限られて、真っ先に冒険者になるのが手っ取り早く稼げる手段として挙がったのだ。

 

登録は只で行えて、ギルドからの依頼を達成したり、魔物を討伐してすぐに金が手に入る冒険者という職業。

 

だが、冒険者なんてかっこいい呼び方だが、実際には危険が伴う肉体労働みたいなもんだ。

仲間とは言えないかもしれないが、偶に話しかけられたりする同業者は、たった二年の内で何人かは死んでいった。

 

俺も奇跡的に生きてはいるが、このままだとそう遠くない内に、つまらないへまをして、あの世へ行ってしまうだろうという悲観的な予想がずっと頭の片隅に残っている。

 

店内では同じように人が酒を飲み食事をして騒いでいる。

 

飲みすぎたせいなのか、聞こえてくる笑い声が、やけに頭に響いてくる。

今日はもう帰った方が良いか。

 

机にいくらか適当に金を置いて席を立つ。

 

「なんだ、食ってかないのか?」

 

酒場の店主が視線は拭いているグラスにそのままで、俺に声を掛けてきた。

いつもは口数が少なくて余り話たことはないから、意外だった。

 

「………珍しいな、あんたが俺に話しかけてくるなんて。」

 

「そうだな。まぁ、折角のめでたい日何でな。いつも利用してくれる客に声の一つぐらいかけたくなるもんさ」

 

「祝いの日?何かあったか?今日って何日だっけ………」

 

頭の中で日付を思い出して、ふと気がつく。

 

そうか、そういえば今日だった。

 

「あぁ、だからやけに町中やけに騒がしいとおもったら………そういうことか。」

 

俺が納得した方な仕草をみせれば、店主は呆れた様にため息を吐く。

 

「おいおい、人類の悲願が達成された日だぜ?うっかり忘れる奴がいるなんてマジかよ。」

 

「いるよここに。……他に用がないなら帰るよ。」

 

「まぁ待て、ほら、これ持ってけ。」

 

店主は何かを俺に向けて放り投げた。

 

反射的に受け取って見ればそれは果物らしい。

 

「何も食わねえならせめて、それでも腹に入れとけよ」

俺は店主に礼を言って、今度こそ店を出た。

 

酔っぱらったまま、ふらつきながら何とか道を歩いて宿に向かう。

 

魔王が勇者に討たれてから、今日でちょうど二年。

町全体がその日を祝っている。

 

歩くたびに、人とすれ違う。

 

それぞれがみんな幸せそうな顔をして、笑顔を浮かべている。

唐突に、自分がこの場にいるのが間違いな気がして、いたたまれなくなった。

責められている気さえしてくる。

確かに考えてみれば、幸せそうにしている人間の中に、不幸せそうにしている人間がいるのは間違いだろう。

 

光が当たる道から逃げるように、俺は光が当たらない路地裏に入る。

 

今までの俺の人生、俺は何一つとして他人の記憶に残らない、つまらない生活を送ってきた。

誰かに褒められる事も、誰から期待されることも、誰から好かれることも。

至って普通で、誰からの特別にもなれないようなクソみたいな人生。

 

振り返ってみて、俺はこう考える。

 

せめて、このまま死んでいくくらいなら。

 

一度くらい女を抱きたい。

それで、そいつの記憶に残るように、

自分を刻みたい。

 

いっそ今から誰かそのあたりにいる町娘を攫って犯すか?

このまま何も残せずに普通の人間として過ごしていくくらいなら、最低な悪人として生きていた方がまだましな気さえする。

 

………いや、流石にどうかしているか。

 

そうだ、光から遠ざかる暗い道に、下を向いてくだらない考えをしながら歩くから、こうやって目の前の物にも気付かずに足をぶつける。

 

軽い衝撃が足元にきて、目線を少し前に向けると、目端には人の素足が映った。

俺がぶつかったのはどうやら座り込んでいる人間だったみたいだ。

「…と、悪い。」

とっさに俺は謝る。

 

というより、何でこんなところに人がいるんだ。

 

こんなところにいるってことはゴロつきか、家無しの貧困者か、あるいは、

 

「………ぁ」

 

そいつは、かすれたような声で何かを呟いたようだがよく聞き取れない。

こちらに視線を向けるのを感じた。

 

俺も今一度視線を正して、目の前の人物をみる。

 

よく見れば女で、顔は綺麗はくらい整っている。主観的だが、美人と可愛いの中間ぐらいの顔立ちだろうか。

 

 

歳は見た感じ16か17歳くらいだろう。黒いドレスのようなものを着ている。

 

靴はどこへやったのか、裸足の様だった。

 

恰好や場所、無防備な恰好、綺麗な顔立ちも相まって状況そのものが不自然に感じた。

まるで王宮から家出して迷子になったような感じだ。

 

でもそれ以上に特徴的で印象的なのは、髪色と目の色だ。

銀髪に、赤い瞳の少女。

 

俺はこれに見覚えがあった。

正確には、情報としてある人物が記憶としてあった。

 

「…………魔女。」

 

魔王が作り出したと言われる最凶の魔法使い。

 

魔王はこの世から消え去ったが、それでも、他の奴らはそれぞれ散り散りになって今も行方を暮らしている。

 

そして、魔女は全部で7人いて、それぞれが強力な魔法を使えるらしい。

 

もしも目の前にいるこいつがその魔女なら、どうしてこんな路地裏で身を潜めてこんな場所にいるのかが、疑問だ。

 

だが誰かに見つかれば、どうなるのかは、想像にたやすい。

町中の冒険者が根絶やしにしようとこの女を始末しようとするだろう。

 

それに、こうも弱り切っている態度を見せているが、実際は俺なんかいともたやすく、何時でも好きなタイミングで俺を殺すかもしれない。それだけの力を持っているはずだ。

だから俺は今のうちにさっさとこの場を離れて何も見なかったことにすればいい。

 

……いや、待てよ。

 

確かにリスクはあるが、これは俺がさっき考えたバカな計画にも可能性が出てくるな。

 

それにとりあえず目の前にいる女は俺が魔女の可能性に気づいても殺す気は今のところないみたいだ。

 

慎重に、なるべく感情を出さずに目の前の座っている女に声をかけてみることにする。

 

「……こんなところで、何してるんだ?」

 

女は俺を見つめたまま静止したままだ。

これじゃわからないな。

ただでさえ俺は人とコミュニケーションが苦手な上に、ここ数年間はそれにさらに人と関わる機会が少なくなったおかげで俺の苦手度にも拍車をかかることになり、絶望的なコミュ障になった。

 

と、しばらくして女は目線を下にずらした。

 

どうやらまだ俺が手に持っていた果物に気がつき、興味が向いたみたいだ。

 

タイミングよく女の腹からくぅ、と小さな音が鳴った。

ああ、なるほど、腹をすかしているのか。

 

「……これ、いるか?」

 

もう一度その女は顔を上げて、俺をみる。

驚いたような表情をして、しばらくした後に小さくうなづいてみせた。

 

恐る恐る、手元にある果物をその女の前に差し出すと、女は恐る恐る受けとる。

 

じっと、その果物を眺めては、小さい口で一口だけ齧ってみせる。それからまた一口ずつ、むしゃむしゃと食べていく。

 

俺の予想通り、こいつには敵意が感じられないな。

なら、行けるか。

 

どっかの街娘を攫って犯すよりはずっといいだろう。

それでも俺が相手の立場を利用する最低な人間なのは間違い無いだろうが。

 

今から俺はこの女にある提案をする。

一つ一つ順を追って。

 

「お前、もしかして帰る場所がないのか?」

 

女は縋るような目で俺をみる。

 

「………はい。」

 

初めて聞く女の声はとても透き通っていて、俺はますますこの女を気に入った。

 

「あまり深い事情は聞かないが、もし困っているなら俺の家に来てもいいぜ」

 

「……どうして、そこまでしてくれるの?」

 

「別にタダで泊めてやるとは言ってない、俺は聖人じゃないからな。当然見返りも要求する。」

 

「見返り?」

 

「ああ、お前を家に泊める代わりに………お前の身体を差し出せ。つまり……ヤらせろ。」

 

ここにお前を救うヒーローはいない。

いるのは、性欲に忠実な醜い野郎だけだ。

残念だったな。

 

女は、しばらく固まったまま静止していたが、やがて小さくうなづいて俺の誘いに乗った。

どんな顔をして誘いに乗ったのは、暗闇でよく見えなかったが、きっと軽蔑した表情を浮かべたはずだ。

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