(10)蒼雷の終焉龍、クレイドラクロア
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管理局本部の建物内では、
ただし、その優劣は歴然。最大の切り札であるイーヴェルラプターの大群をほとんど倒されてしまったアキツミに、もはや成す
「クソッタレ!! なんなんだあの女はァ!」
柱の裏に身を潜めながら悪態をつくアキツミ。
しかし、
───ヒュウウウン!!
「ぐ、はァッ!?」
アキツミ目掛けて飛んできた無数の銃弾が、彼の身体に触れて爆発した。
どっしりとした
「ウチの
ぬいぐるみのストラップがぶら下がった二丁の拳銃をグルグル回しながら、トウカが倒れ伏すアキツミに近づく。
「ウチが契約してんのは、『マグナメガロドン』って神獣ね。 "
トウカは、右手に構えていた銃を天井に向け、おもむろにバンッ!と発砲した。
ひっ!? と身を抱えるアキツミだったが、天井を貫いたはずの銃弾は、まだ爆発しない。違和感を覚えて顔を上げるアキツミに、トウカは言う。
「こーやって契約者が飛び道具を撃つと、射出された物には意志が宿り、術者が自在に操れる。
よーするに、ウチが撃った拳銃の弾は、ウチの思い通りに軌道を変えて、何かに当たるまでギュインギュイン動かせるってワケ。
こんな風に……ねっ!」
まさに今、トウカの言葉が終わるタイミングで、先程放たれた弾丸がアキツミの額めがけて頭上から飛んできた。
「ごはァッ……!!」
まるで時間を測ったかのように到達した弾は、ギリギリで回避したアキツミの背後の壁に突き刺さる。その瞬間、弾は爆発して、アキツミの身体をまたしても吹き飛ばした。
「よし、確保。
……うん、これで大丈夫だね。 トウカちゃんもありがと~!」
爆風に飛ばされたアキツミは、そのままアケヒの足元へと転がっていった。アケヒは、アキツミが気絶していることを確認すると、腰から手錠を取り出してアキツミの両手を後ろ手に拘束した。
「おっつ~♪ とりまこれで一段落っしょ?」
「だね。 後は、シュウ君たちが上手くやってくれてれば良いんだけど……」
しかし、事態はそれで収束しなかった。
バゴォン!! という爆破音とともに、外壁が破壊される。それと同時に、外から投げ込まれた筒状の何かが、物凄い勢いでスモークを噴き上げ始めた。
「きゃっ!? ちょ、何コレ!?」
「まさか、
催眠や催涙ガスの類いを警戒し、アケヒは素早くその場を離れた。勿論、拘束したアキツミの身柄は手離さない。
しかし、今回に限ってはそれが裏目に出る。
「───エネルギー切れの
「っ!?」
アケヒの背後に立っていた女。その気配を察知するのが、一瞬遅れてしまった。
「う、ぐっ……」
「アケヒ様!? ねぇ、アケヒ様大丈夫!? 今どこ!?
返事してって!! ねぇ!!」
声を荒らげるトウカだったが、時既に遅し。
煙に紛れた三人の構成員たちは、同僚の身柄と、
✳✳✳
「お前が……クレイドラクロア、なのか……」
そこで、シュウマは巨大な龍と対峙していた。
全長はおよそ二十メートルほど。全身が白とも銀ともとれるような色の鱗で覆われており、施設の照明によってギラギラと輝いている。今は閉じているが、背中から生える翼もまた、白銀の輝きを纏っている。その
ビル七、八階分ほどの高さからシュウマを見下ろすその顔は、全体が針のような突起に覆われ、青色の瞳がその奥からギラリと覗く。グルルル……と喉が鳴る度に地響きのような空気の震えが伝わり、黄土色の牙が口元から現れ出た。
まさに、神獣という名がふさわしい存在。見る者全てを惹き付ける神々しさと荒々しさを兼ね備えた神の龍。
クレイドラクロアは、ただそこに鎮座するだけで、その迫力をシュウマへと焼き付けたのだった。
「クレイドラクロアがもたらす
それは、あらゆるエネルギーの
クレイドラクロアから目が離せなくなっていたシュウマの後ろで、副会長のミヤビが説明を始める。
「クレイドラクロアは元来、
初めて明らかになるクレイドラクロアの……もとい、アケヒの
「クレイドラクロアの
……シュウマさんは、”絶縁体”という言葉をご存知ですか?」
「は? いやまぁ、はい……中学の理科で習うヤツですよね……? 電気を通さない、みたいな……」
「えぇ。 原子核と電子の結合が強く、自由電子が限りなく少ない物質は、電子の流れが発生しません。 故に、電気を通さない物質となります」
高校の理科の授業を思い出しながら、シュウマは頷く。
「クレイドラクロアの
例えば……と、ミヤビは人差し指を立てて、
「人間や幻獣の動きを止めたり、物体が落下する際の重力を止めたり、空気の振動を止めたり、痛覚が中枢神経に向かうのを止めたり……」
ミヤビが言ったその言葉で、シュウマはハッとした。
彼が、ゲートを抜ける時に負傷した右腕。最初のうちは、叫びたくなるぐらいの激痛が走っていた。しかし、今その痛みは無くなり、シュウマは怪我をしていたことさえ忘れていた。
『───私の
アケヒがシュウマの腕を見た時、彼女はふとそんな言葉を口にしていた。つまり、アケヒはシュウマが知らない内に、彼の腕の痛みを
クレイドラクロアの
「更には、太陽光の入射や熱エネルギーの放出を止めたり、酸素が他元素と融合するのを止めたり」
「……は?」
「血液の流れを止めたり、地球の自転および公転運動を止めたり」
「いや、ちょっと」
「端的な例ですと、地球上の生命活動を全て止めたり、銀河系のエネルギーを全てを止めたりすることも出来ます」
「いやもう世界終焉シナリオじゃねえか!!!」
「───えぇ。 ですから我々は、クレイドラクロアを『黙示録の神獣』……即ち、世界を滅ぼす神獣として分類し、厳重に管理しているのです」
「っ……!」
シュウマの目が見開かれる。アケヒや
「コーファライゾ学園国に存在する神獣クラスの中で、『世界を滅ぼす力を有する』と判断された神獣は五体存在します。 我々はそれを、『黙示録の神獣』と呼称しています。
クレイドラクロアは、
「世界を……」
「勿論、先ほど挙げた例はあくまで理論上のものです。 クレイドラクロアが実際にそこまで力を行使した記録はありませんし、
「発揮してたら大問題ですよ……」
横からボソッとミヅキのツッコミが入るが、ミヤビは気にする様子もなく話を続けた。
「裁切シュウマさん。 貴方に、この強大な力を受け止める覚悟はありますか?」
「っ…………俺は……」
再び、クレイドラクロアを見上げるシュウマ。
眼前に
「……まぁ、すぐには決められないでしょう。 この件は、一旦持ち帰っていただいて構いません。 気のすむまで、じっくり考えて下さい。
その上で、我々
と、ミヤビが中途半端な所で言葉を切った。
どうしたのだろう? と、シュウマとミヅキが共にミヤビの顔を覗き込む。ミヤビは何故か、静かに目を閉じて俯いていた。まるで、急に立ちながら眠ったかのような格好で彼女はフリーズする。
そして数秒後。
「……私としたことが。 油断していたようですね」
ふぅ、と息を吐きながら左手を掲げるミヤビ。直後、左手から魔方陣が現れる。ミヤビは、先ほどとはまるで別人の鋭く大きな声で魔方陣に向かって言った。
「───
繰り返す!
役員は直ちに現場へ急行せよ!」
───その途端、施設内は赤色の光と、けたたましいアラート音に飲み込まれた。
つづく
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