奇襲作戦
ただでさえ上位の妖魔である鬼だが、その中にもさらに細かい位が存在する。
鬼の強さの指標は、額に生えた角だ。角の本数が多い程力が強く、角がねじれている程妖術に長ける。角は最大で三本、ねじれは個体による。久遠村を支配している斑雷という鬼は一本角のねじれだという。
一本角と言っても、その強さは並大抵の妖魔の比ではない。そもそも鬼自体が数が少ない妖魔なので、虎和でもこれまでに倒した最も強い鬼は、二本角のねじれ無しである。よって今回の勝負、油断はできない。
「では虎和さん、御茶之介さん、今回の作戦を説明します」
翌朝、竹永が虎和たちに作戦の説明を始めた。
「昨日お話した通り、今日は儀式の日……月一回で斑雷に生贄と供物を捧げる日です。お二人には今日生贄になるはずだった田中丸という男に成り代わってもらい、斑雷に奇襲をかけていただきたい」
「ちょっと待ってください。ここまで徹底して村を支配できる鬼だ、そんな成り代わりなんて単純な方法で騙せるんですか?」
「斑雷は人間が大好物なんです。生贄が捧げられる儀式の日はいつも上機嫌だ。だから案外行けるかもしれません」
この村長、さては結構能天気だな……? と虎和は思った。
「でも、それなら大丈夫です。僕の異能なら、その田中丸さんに成り代わるのも容易いでしょう」
名乗りを上げたのは御茶之介だった。その手には筆と札を持っている。
「あんたの異能……?」
「そう。僕の漢字は『飾』だ。この札に性質や特徴を書き込んで相手に張り付ければ、そこに書かれた通りに相手を『修飾』する事ができる。だから札に『田中丸そっくりに見える』と書けば、札が張り付いている間は田中丸そっくりに見えるようになるわけだ」
御茶之介の異能は、直接的な戦闘能力は無い。だがその圧倒的な汎用性の高さで、彼はこれまで数々の危機(取材)を生き延びてきたのだ。
「成程、面白い異能だな。でもこれなら、確かに不意打ちが期待できそうだ」
「僕の異能で田中丸に化けた虎和が前に出て斑雷に奇襲して、僕が後方から援護する。この作戦で良さそうだね」
やはり小説を書いているだけあって、御茶之介は作戦を立てるのが得意なのだろうか。異能も支援向きだし、この戦いが終わったら御茶之介を妖魔狩りに誘うのもアリかもしれないと虎和は考えた。
「儀式が行われるのは夜です。それまでお二人はゆっくり休んでいてください」
竹永はそう言うと、斑雷に捧げる供物の準備を始めた。
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夜。静かな農村に、重い足音が響き渡った。
「今日は待ちに待った生贄の日だ……。この村の作物は確かに美味いが、やはり人間の血肉に勝るものは無いからな。今宵は人肉を掻っ捌いて宴にでもするとしよう」
七尺(約ニメートル)はある巨躯。体色は黒と黄色の斑模様で、話通りのねじれた一本角。彼がこの久遠村を支配する鬼、斑雷だ。
普段は村の奥に建てられた大きな家に籠っており、ほとんどの場合儀式の時しか外に現れない。
「竹永よ、今宵も生きの良い生贄を用意したんだろうな」
「はい、勿論でございます……。田中丸、行きなさい」
村長の竹永を先頭にして、村民たちが一堂に集まっている。その中から姿を現したのは、がっしりとした体格の禿げた男だった。
「ほう、お前が今宵の生贄か。さぁ、この短刀で首を切るのだ」
斑雷は生贄が抵抗する事が無いように、自分で首を切らせてから持ち帰る。その為に生贄に短刀を渡すのだ。
短刀では斑雷には抗う事はできない。……そう、普通なら。
「……首を斬られるのはお前の方だな」
生贄の男———田中丸は渡された短刀で自分の指を切った。そこから溢れ出した血が集まり固まって、刀となった。
そして次の瞬間には、血の刀が斑雷の目の前まで迫っていた。
「何ッ……!?」
「チッ、今のを避けるなんて……流石は鬼だな」
田中丸は背中に張り付けていた札を取る。みるみるうちにその姿は赤毛の侍———虎和へと変わっていった。
「よし、鬼退治だ」
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