家臣

「お二人とも、無事に事件を解決してくれたようで良かったです。ありがとうございます! ……ところで二人とも、大丈夫ですか?」


 保馬城にて。桜は自分の前に座る虎和と護千代の姿を見て驚愕していた。


「ま、まぁ俺は虎和に助けてもらえなかったら死んでましたからね……これくらいで済んだだけ良い方っすよ」


 護千代は全身至る所に包帯を巻いていた。大量の拳に広い範囲を殴られたのでこうなっている。どうして動けるのか不思議に思えてくるくらいの見た目である。


「俺は……自力で解毒しようとしたら、しくじりました」


 虎和は血液操作で毒だけを体外に排出しようと試みた。だが失敗して大量の血を失い、貧血になってしまったのだ。今にも死にそうな顔色で桜の前で正座している。


「と、とにかく二人とも生きてて良かったです。お二人に頼んでから、黒幕の妖魔の力の強大さに気付きました。なのでもしもお二人が死んでしまったらどうしようかと……!」


「大丈夫ですよ。結局は誰かがやらなくちゃならない事でしたから。今回の件で少しでも桜様の役に立てたなら、俺はそれで十分です」


 責任を感じる桜に、虎和が優しく言葉をかける。それを聞いた桜は涙を拭い、安堵した表情を浮かべる。


「それじゃあ、私の家臣になるのは煙ヶ羅を倒した虎和さんって事で!」


「いや、ちょっと待ってください。俺はあの戦い、護千代の助けが無ければ勝てませんでした。俺は『勝たせてもらった』んです。そんな俺がのうのうと家臣の座に就くなんて事は……」


 虎和は仁義に厚い男だった。

 だが、それを聞いた護千代が反発する。


「何言ってるんだ虎和! 二度も言わせんなよ、お前は桜様の家臣にふさわしい男だ。俺なんかよりも全然な! 俺はお前に気付かされたよ。俺はまだまだだってな。力も、頭脳も、心持ちも。だから俺は一から鍛え直す事にした! いつか堂々と桜様の家臣にふさわしい男だと言えるようになるまで! だから、お前はそれまで桜様の家臣でいなくちゃならないんだよ!」


「護千代……」


 護千代の思いと決意を聞いた虎和は、少しの間沈黙する。そして桜に向き直って、口を開く。


「分かりました。俺、桜様の家臣になります。俺にあなたの事を守らせてください」


「……はい! これからよろしくお願いします!」


 桜はその名の通り満開の桜のような笑みを浮かべて、虎和の手を握った。

 手に伝わる温もりを感じながら、虎和は絶対に桜を守り抜いてみせると誓った。

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