優しい記憶
柊 奏汰
優しい記憶
祖母の家は街から少し離れた森の中にあった。私の家から歩いて15分ほどの距離にあるその家は、壁一面がアイビーの蔦に覆われていて、そこに住む人達の歴史を感じさせる。私にとっては、その姿が秘密基地のように魅力的だった。
祖母は毎年、七夕に手作りのおはぎを作る。どうして七夕におはぎなんだろうと思って尋ねると、亡くなった祖父の大好物だったのだそうだ。
「七夕は織姫様と彦星様が会える日でしょう。私のところにも、あの人が帰ってきてくれるんじゃないかなって思ってね」
そう言って笑って出してくれたおはぎの優しい甘さと、一緒に飲んだ濃い目のお茶の味は忘れられない。優しい、優しい、小暑の記憶。
今、私は、祖母が残してくれたこのアイビーに覆われた家で孫を待っている。七夕には、祖母から教わった手作りのおはぎを仏壇の祖父母に供える。孫娘の明里は少し遠くに住んでいるけれど、私が作るおはぎが大好きで、毎年楽しみにうちにやってきてくれる。
「おばあちゃん、こんにちはー!」
玄関先から聞こえた声に、はあいと返事をして玄関に向かう。愛する孫にとっても、この家で過ごす時間が優しいひとときになってくれるといいな、と願いながら。
優しい記憶 柊 奏汰 @kanata-h370
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