第21話:突然のキス。
それは数秒の出来事だったが、沙都希にはとても長く感じた。
祐のくちびるが離れても沙都希の唇に祐の唇の柔らかい感触が残っていた。
「・・・・・」
突然の驚きと高揚に沙都希は気持ちが動転していた。
「キスしていいなんて言ってないし・・・」
「こんなの全然ロマンチックじゃないじゃん・・・強引だよ」
「え?まずかった?」
「ごめん・・・悪かった・・・ごめん沙都希」
そう言って祐は沙都希を優しく抱きしめようとした。
その手を払って沙都希は言った。
「謝っても遅いよ」
「キスしていいって聞いたら、イヤって言われそうだと思ったから・・・」
「私のこと、どんな女だと思ってるの?」
「沙都希ちゃん・・・怒った?・・・機嫌直して〜」
「そうだよな・・・束縛しないんだったよな・・・」
(キスがイヤってんじゃなくてさ、心の準備ってものがあるでしょ)
(そう言う強引なところ反省してほしいわ)
「無理強いして悪かった」
「ごめん・・・ちょっとフザけすぎた?」
「沙都希が可愛かったから、愛しくなってついやっちゃったんだよ・・・」
「うまいこと言って・・・」
「当分、恋人未満でいいからさ・・・だから許してよ、ね?」
「機嫌直して、帰ろ・・・な?」
祐は沙都希の顔を覗き込んで、ご機嫌をうかがった。
「まだ怒ってる?」
「起こってないよ・・・いきなりだったから、ちょっとびっくりしただけ」
いきなりの出来事だったけど、キスされたこと自体は嬉しかった。
沙都希は、なぜかとても素直な気持ちになってる自分に気づいた。
いままで沙都希の前を何人かの男が通り過ぎて行ったが、
以外にもその中で沙都希が真剣に恋をしたのはたった一度っきりなのだ。
一見、経験豊富に見えていて実は恋愛に関しては、沙都希は経験が
浅いと言えた。
「あ〜たばこくせっ・・・初キスって甘い味するんじゃなかったけ?」
「うそ」
沙都希は慌てたが、祐がまたからかってるって分かって言い返した。
「初キスって・・・どうせ初めてじゃないくせに・・・」
「いやいや沙都希とははじめてだって言ってるんだよ・・・」
「ふん・・・べつに・・・いいけど・・・」
(本当は嬉しかったし・・・・)
「ごめんな」
そう言って祐はもう一度、沙都希を引き寄せ抱きしめた。
人通りも途絶えた商店街をふたりして、また仲良く歩きはじめた。
商店街を過ぎると、街の雰囲気が変わる。
それは夜の街・・・派手なネオンがまぶしい。
星空に輝いているであろう星々はネオンの明りに飲み込まれてわずかしか見えない。
歩道を歩く、ふたりのほほを爽やかで優しい風がなでていく。
沙都希はこういう街の雰囲気が好きだった。
「沙都希・・・一杯飲んで帰るか?・・・」
祐には行きつけの飲み屋さんがあるらしい。
沙都希は祐に誘われるままに路地に入るとその居酒屋「
店があった。
店の朽ちた暖簾をくぐると、ちょうどいい具合にカウンター席がふたりぶん
空いていた。
祐と沙都希はその空いた席に座った。
かなり歴史のある店らしく常連さんらしき客で大いに賑わっていた。
つづく。
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