第10話:美容室・反町。
沙都希は街に買い物に出て、たまたま通りかかった美容室のドアに
「美容師さん募集」の張り紙を見つけた。
店の名前は「美容室・
なんとなく心にひっかかるものがあった。
ひらめきとでも言うんだろうか・・・。
沙都希はその店のドアを開いた。
「いらっしゃい」
お客さんが座るソファから、そう言ったのは年の頃なら50才前後・・・
たぶんこのお店の店長さん。
「こんにちは・・・」
「私、
「あの・・・お店の前の美容師さん募集の張り紙を見たんですけど・・・」
「あ、お客さんじゃないのね」
「いいわよ、今お客さんいないから・・・こっち来て座って」
沙都希は言われるままに客用のソファに座った。
どうやらそのお店は、おばさんひとりで営んでる小さな美容室のようだった。
店長さんの名前は「
気さくなお母さんだった。
「前はどこかのお店にいたの?」
「はい銀座美容室です」
「え?銀座をやめてうちへ来るって言うの?」
「はい・・・」
「ま〜もったいないわね、あそこにいたんなら、あなた腕はいいでしょ」
「こんなこと言うとしかられるかもしれませんけど」
「毎日、めまぐるしくお仕事してるより、もっとゆっくり、落ち着いて
お仕事ができたらって思ったものですから・・・ 」
「あ、そうね、うちが銀座よりは暇だからね・・・」
「ごめんなさい」
「いいの、いいの・・・気にしないで」
「私も今は一人でやってるけど、息子が後を継いでくれそうだから、そのうち
店は息子に任そうと思ってるの・・・でも今は美容学校に通ってる最中だから、
ちゃんとお客さんが取れるようになるまで、それまで人手がいると思って
美容師を募集したの」
「私も歳だし・・・持病の腰もあまりよくなくてね・・・」
「あなた・・・伊藤さん、ほんとに来てくれるの?」
「こんな店だけど、来てくれるのなら大歓迎よ」
「張り紙を見てすぐにお店をお尋ねしたので紹介状とか履歴書とか持ってきて
ないんですけど・・・」
「そんなのはいらないわよ」
「だけど前のお店みたいには、お給料は出せないけどね」
「それでよかったら、いつからでもいいから来て」
「はい、それでいいです、よろしくお願いします」
「住み込みでいいなら二階の六畳と四畳半の部屋があいてるから、よかったら
そこ使って」
「どうせ使ってない部屋だから家賃はいらないからね・・・」
「台所とトイレとお風呂は一階・・・好きに使っていいよ」
「はい、ありがとうございます」
(ここでいい)
沙都希は心の中でそう思った。
寝泊まりができたら、どこでもよかった・・・これで家賃も浮いたし、
とりあえず、今は少しでも早く落ち着きたかった。
つづく。
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