第25話 三人の妃候補たち②

 丸いテーブルに紅茶が置かれ、「さ、どうぞ」とユズが言った。


「……わたくしたちは妃になるために育てられたのです」

 エフィムが紅茶に口もつけずに言った。ユズが黙っていると、続けて口を開く。

「わたくしたちには家柄も能力もあるわ。あなたには何があるの?」

「あたしは――」

 と、言いかけて、ユズは、そのとき急に心に飛び込んで来たエフィムの心の声を聞いて、「……あなた、お母様の恨みで生きているの?」と言い直した。


「なっ!」

 エフィムは真っ赤になってユズを睨みつけた。

 キアラはくっくと笑い、アルトは「エフィムの母親は妃になり損ねているのよねえ」と言い、くすりとした。

 本当だ。

 ここでは、心の声を読んでも、そのことで気味悪がられたりしない。

 ユズは奇妙に安心した。


「ねえ、エフィム。あなた、キアラが好きなの?」ユズが訊くと、「キアラ様、と言いなさい! 無礼な!」とエフィムが赤い顔のまま怒ったように言った。そして「名を呼ぶ許可は出しているよ」とキアラが面白そうに言った。

「うん、でね。エフィム、あなたはキアラが好きなの?」

 ユズはもう一度訊いた。

「――好きとか嫌いとかではないのです。妃というものは。王をお支えし、そして子を産む――そう、白銀の強い子を産むのが仕事です」

「つまらないわね。子を産むだけなんて」

「はあ⁉ 何を言うのです!」

「あたしはね、もっと遠くに――誰も見たことのない、高みを見るために、ここに来たのよ。誰も見たことがない風景を見たいの」

 ユズがそう言って胸を張った瞬間、キアラが噴き出した。


「ぷはっ! ははははっ! さすが僕のユズ!」

 そうして、椅子から立ち上がり、座っているユズを後ろから抱き締めると、「かっこいいね、ユズ。そうでなくちゃ!」と言って、ユズの頭を撫でた。それから、三人の妃候補たちに強い視線を送ると、言った。

「ユズをいじめるのは赦さないよ。君たちでもね」

 ドラゴンの王の覇気が三人の妃候補たちを圧倒し、それ以上口を開く者はいなかった。そして、三人の妃候補たちはそのまま無言で退出して行った。


 皆立ち去り二人きりになり、キアラは言った。

「でもね、ユズ。僕は今すぐにでも、子どもが出来ることをしたいんだよ」

「きゃん!」

「でも、結婚式が終わるまで我慢するよ。――きっとね」

 キアラはユズの首筋をぺろりと舐めた。

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