心の声が聞こえる花嫁は竜の王太子の片腕です ~子ドラゴンの手当をしたら溺愛されました~

西しまこ

1.きれいな女の子を拾いました

第1話 白銀のドラゴンとの想い出①

 緑の草原がどこまでも広がっている。


 遠くに森が見える。濃い緑の向こうには何があるんだろう?

 翼の音がしたので空を見上げたら、蒼穹をグリーン・ドラゴンが飛んで行くのが見えた。ドラゴンが飛んで行く先には何があるんだろう?

 ざあっという風の音がして、髪がさらわれる。

 肩より少し長い、まっすぐの黒髪が風に流れて、ユズの顔の前に靡いた。


 ――遠くに行きたい。

 例えば、この風が行く手のずっと向こうに。

 それはいつも、ユズの中にあった願いだった。


「ユズー! そっち、ビワの収穫、終わった?」

 ミフネの声がして、ユズは声のした方を振り返った。ミフネが大きな籠を背負って、ユズに手を振っていた。二つ年上のミフネとユズは、家が近く、きょうだいみたいにして育った。小さいころは背丈もそんなに変わらなかったのに、ミフネはいつの間にか、村で一、二を争うほど背が高くなった。その上、がっしりした身体つきになり、顔つきも男っぽくなった。


 いいなあ。

 ユズはミフネを見るたびに、そっと思う。

 いいなあ。ミフネみたいだったら、きっと、あたし、冒険に出ていた。


「ユズ、村に戻ろう」

 ミフネはユズのそばにきて、笑顔で言った。

「うん」

 ユズは手にした籠を持ち直し、ミフネと並んで村へ向かった。


 頭上にはドラゴンが何頭も飛び交っていた。

 空を行くドラゴンを見て、ユズはふと昔を思い出す。

 ――あのときのドラゴンの子は元気かしら?


 珍しい、白銀のきれいなドラゴンだった。角と瞳は蒼くて、とてもかわいかった。

 九年前の八歳のころ、ユズは子どものドラゴンと数日いっしょに過ごした。

 それは誰にも言っていない、ユズだけの秘密で、大切な思い出だった。

 ヒカリ、と名付けた――

 ユズはドラゴンを見るたびにいつも、こっそりとヒカリを探した。白銀の美しいドラゴンを。

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