第31話 贈り物と返礼品(二)

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 第31話 贈り物と返礼品(二)

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 ▽▽▽ Side カール・アクセル・バイエルライン公爵 ▽▽▽


 新年の挨拶のために、寄子の貴族たちが続々と集まってくる。今年はライトスターの寄子だった者たちも新年を迎えた祝賀パーティーに参加する。ほとんどの者が妻子を連れてきておるが、新しく寄子になったロックスフォール騎士爵は、家族を連れてきていない。

 昨年の秋に子が生まれたと聞いておる。よって妻と赤子は無理だと思われるが、養子に迎えた子は連れてきてもいいところだが、それもない。その理由にどうも神殿が絡んでいるようだ。

 王都の郊外にある総本山に潜ませてある我が手の者が調べたところ、どうもその子が神の遣いの可能性が高いとのことだ。ロックスフォール騎士爵のアシュード領に、総本山から数人の神官が派遣されるらしい。

「あの家は話題に事欠かぬな」

 馬王なる美味い酒を造ったと思ったら、今度は子供が神の遣いだ。その子はライトスターの子種だと聞いている。ライトスターは神の遣いの子を外に出したわけだ。このことを知ったら、何か言ってくることは想像に難くない。

「御屋形様、ロックスフォール騎士爵家よりの贈り物にございますが……」

 各家からの贈り物は毎年ある。当家は寄親として、それ以上のものをお返しするのだ。だから、しっかりと贈り物のリストが作られる。

 そのリストを作っていた執事のセバスが困った表情をしている。セバスが言い淀むとは珍しい。何があったのというのだ?

 セバスからリストを受け取り、内容を確認する。最初はモンスターの希少な部位か、あの家は武で名を轟かせておるからな。次は名産のチーズか。最近はライトスターの領地を介さずに手に入るようになった。おかげで美味いチーズをつまみに馬王を飲める。チーズと馬王の相性は最高だ。

 最後は……むむむ、これは……。

「この最高級馬王とはなんだ? 特級酒ではないのか?」

「こちらにございます」

 控えていた見習執事から桐箱を受け取ると、そこからセバスが取り出したのは……。

「なっ!?」

 それは緑色のガラスボトルだった。ガラスは大量生産ができず、さらに板に成形するだけでも大変なものだ。しかもムラのない美しい深い緑色のガラスなのだ。

「それが最高級馬王だと?」

「はい。わたくし、御屋形様のもとで長くこの仕事をさせていただいておりますが、このようなものを見たのは初めてにございます」

「私も見たことがないわ。おそらく、王でも同じであろうな。しかし、困ったな」

「はい。どのようなお返しをすればよろしいか、難しいところにございます」

 セバスは私の心情をすぐに理解したわ。これだけのガラスボトルは、おそらく世界中を探しても簡単には見つからぬであろう。場合によっては、世界でただ一つの宝物とも言える。

 そもそもガラスというものは、どれほどの名工が手掛けようと、色むらが多少はあり歪みもあるものだ。それなのに、このボトルにはそういったものが見られない。

 しかもラベルを飾るように模様まで入っているではないか。このような意匠があるガラスなど見たことがない。どこでこれほどのものを手に入れたのだ!?

「はぁ……宝物庫を開き、家宝を贈るしかあるまい」

「よろしいのですか」

「よろしいも何も、そのガラスボトルに見合うものがそう簡単に手に入ると思うか?」

「いえ、思えません」

「しかし、よくもそのような貴重なものを贈ってきたわ。これでは何が何でもロックスフォール騎士爵家を守らねばならぬな」

 セバスは返事も頷きもしない。それでよい。執事が関わる範疇でないものに、反応してはならぬのだ。

「あとはアポーの最高級品も返礼に加えておいてくれ」

 我がアクセル領の名産の一つであるアポーは、こういった返礼に必ず入れる。ただし、最高級品は滅多に入れぬ。だが、今回は入れざるを得ないだろう。

「それからアレクサンデルを呼んでくれ」

「承知いたしました」

 セバスたちが下がると、デスクの上に置いてあるガラスボトルをマジマジと見つめる。なんと美しいガラスなのだ。惚れ惚れするわ。


 アレクサンデルもガラスボトルを見て驚いておるわ。そのボトルの価値が分からぬのであれば、我が後継者としてあまりにもお粗末だったところだ。

「父上。これがロックスフォール騎士爵家から贈られたものなのですか?」

「そうだ。お前ならそれに対する返礼をどうする」

「……はてさて、同等のものと言われてもすぐには思いつきませんな。公爵家としてはこれ以上のものを返礼せぬば家名が廃ります。まずは宝物庫の中のものをと愚考します」

 うむ。私と同じ考えであるな。よしよし。

「返礼品の使者として、アレクサンデルがアシュード領へ向かえ。その目でかの地をしかと見てくるのだ」

「承知いたしました」

 アレクサンデルは基本的に王都の屋敷に詰めており、私の代理をしておる。毎年この時期は帰ってきて、寄子らと顔つなぎをするのだ。

 本来であれば、すぐに王都に帰るのだが、今回はアシュード領へと向かってもらうことにした。アシュード領のロックスフォール騎士爵はアレクサンデルと同年代だ。これから長くつき合っていくことになるだろう。


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