第33話 お父様が帰ってきて……
■■■■■■■■■■
第33話 お父様が帰ってきて……
■■■■■■■■■■
酒工房を大掃除した二日後、お父様が帰ってきた。
「そんなことがあったのか。警備をつけなかったのは俺のミスだ。すまない、トーマ」
「いえ、そういったことは想定してませんでしたから、仕方がないです」
村人全員が顔見知りの小さな村で、あんなことが起こるとは思っていなかった。ある意味、平和ボケしていたのかもしれない。俺自身が反省している。
ジンさんが酒工房の周辺をうろついていた探索者風の三人の男を見ていたが、それも人口や探索者の増加のために気にしてなかった。その三人は賊が入った日に領内から姿を消した。おそらくこの三人が犯人だと思われるため、似顔絵を描いて探した。
「それで、兵士に賊の追跡をさせましたが、すでに領外に出たようで足取りは掴めておりません」
「それは仕方がない。こちらにできることは、その三人を手配犯として周辺の領地に似顔絵を配っておくくらいだな」
その三人がただの下っ端なら、酒麹を手に入れた主犯に殺されている可能性が高いとお父様は言う。
「今後は酒工房の警備を厳重にしよう」
「酒工房だけでなく、チーズのほうも気をつけたほうがいいと思います」
「どういうことだ? 酒麹を盗みにきただけではないのか?」
「これは誰にも言ってませんが、今回の賊は酒麹を盗み出した際に毒を仕込んでいきました」
「なっ!? それは本当なのか?」
「はい。デウロ様の加護のおかげで、分かりました」
「むう……毒か」
デウロ様の加護のおかげなのは嘘じゃないけど、すんなり信じすぎではないですか……。
それだけ俺を信じてくれているのだと思うけど、罪悪感が半端ないです。
いつかお父様とお母さんには、本当のことを言おう。今は俺の心の準備ができてないから……。
「工房内においてあった馬麦は全て処分しました。工房内や樽、器具も全て洗浄しました。毒はもう残っていません」
「よくやった。俺がいない間、トーマがしっかりやってくれて俺は嬉しいぞ」
「いえ、お父様がいない隙をつかれてしまいました。俺の不徳の致すところです」
「そんなことはない。俺がいても賊は入っただろう。毒を仕込んだことから考えて、馬王の生産を邪魔し、評判を落とそうとした者の差し金であろう」
俺とお父様はその後の酒工房だけでなく、領内の警備について話し合いを行った。
「領内の人口も増えたことだし、領軍を増員するか」
それがいい。数は力だ。
「それと酒工房の人も増やそう」
「理由を聞いてもいいですか?」
「バイエルライン公爵家に集まった貴族たちから、馬王が全然足りないと言われてな。それに今は南部で広がっているだけだが、そのうち国内の全てに行き渡ることだろう。今のうちに増産体制を整えておくべきだ」
「なるほど……増員は何人くらいを考えていますか?」
「最低でも今の五倍の生産量が欲しいから、十人くらいか」
先を見て対策するお父様は正しいと思う。それに、デウロ様の名を広げるためにも、国内どころか国外にも馬王を広げたい。そのための人員補充は望むところだ。
さて、お偉い様ご一行がやってきました。神殿の総本山から高位の神官がやってきたのです。
お父様とお母さん、俺、そしてこのアシュード領の神殿を預かっている神官のダイゴさんが出迎える。
代表は枢機卿のダルデール卿で、七十近い白髪のお婆ちゃんだった。杖をついているからヨボヨボに見えるんだけど、なんというか油断できない雰囲気がある人だった。
他に神殿騎士が二十人と、ダルデール卿の身の回りの世話をする女官が三人、御者などが数人というご一行様である。
「皆さん、ご機嫌よう。私はニルグニード教において枢機卿をしております、ミシェル・ダルデールと申します。以後、お見知りおきください」
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。このアシュード領を治めるロブ・アシュード・ロックスフォールと申します。爵位は騎士爵になります」
一応、立場としては貴族のほうが上だけど、ダルデール卿はこのクルディア王国の国教であるニルグニード教の超お偉い様なので、丁寧に迎えるのが礼儀なんだとか。
ダイゴさんとお母様も挨拶し、俺の番になる。
「ロブ・アシュード・ロックスフォールの息子のトーマです」
名乗りを上げると、右腕を胸の前に置き、腰を四十五度傾けて貴族の最敬礼をする。
「なんのお構いもできませんが、こちらへどうぞ」
お父様がダルデール卿を応接室に案内する。ついてくるのは女官が一人と神殿騎士が四人だ。
普段は広く感じる屋敷が、ダルデール卿ご一行様がいると、すごく狭く感じる。
こちらは俺とお父様、そしてダイゴさんが対応する。お母さんは夜の晩餐の準備の指揮を執ることになっている。村の女性たちにも手伝いを頼んで、必死で料理を作っているんだ。
お父様を挟む形で、俺とダルデール卿が向かい合って座る。
ダイゴさんは俺の後ろ、神殿騎士と女官はダルデール卿の後ろに控えた。
執事のジョンソンが出してくれたハーブティーを、お父様がダルデール卿に勧める。このハーブティーは、この辺りでしか採れないウミャーという薬草を使っている。疲れを癒す効果があるので、長旅をしてきた御老人には丁度いいと思う。
「あら、美味しいですわね、このお茶」
「この辺りでしか採れないウミャーという薬草のお茶です。お気に召されてよかったです」
どうやら最初の掴みはいいようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます