第24話 初めてのダンジョン探索

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 第24話 初めてのダンジョン探索

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 アシュード・ダンジョンの前には、うちの兵士が立っている。


「ご苦労様です」

「坊ちゃん、お気をつけて」

「はい。ありがとうございます」

「ベン。しっかりと坊ちゃんの盾になるんだぞ!」

「なんだよ、俺はトーマの盾かよ」

「当たり前だ」


 兵士がバンッとベンの背中を叩いた。


「いってーな」

「しっかりやれよ」

「おう、いってくるぜ」


 俺たちは松明を持ってダンジョンの中に進んでいく。

 屋敷にこの旧坑道についての資料があったけ。それによれば、全長は四キロメートルほどで、途中に三カ所の分岐がある。

 だけど、ダンジョン化したことで、その資料とはまったく違った構造になっているらしい。

 つまり、あまり情報はないということだ。


「ベン。最初はロングラビットとスライムが出てくる。警戒して進むぞ」

「おう!」


 俺たちは松明の淡い灯りを頼りに、警戒しながら進んでいく。

 以前、俺がロングラビットに襲われた場所を通り過ぎると、以前はなかった分岐に出た。


「どちらに進んでも奥で合流する道だ。ベンはどっちにいきたい?」

「俺か、そうだな……なら、こっちだ」


 ベンは右の道を選んで進んだ。


「いたぞ」

「ロングラビットだ」

「俺に任せろ!」

「大丈夫か?」

「へっ。肉が向こうからやってきたんだ。食ってやるぜ」


 ベンはブレないな。


「危なくなったら援護する」

「そんなことにならねーぜ!」


 ベンはロングラビットの突進を盾で受けた。膝を使って衝撃を逃がしたいい防御だ。


「おりゃっ!」


 モーニングスターをロングラビットに叩きつけた。


「ピキィ……」


 骨が折れる嫌な音が聞こえ、モーニングスターのトゲトゲが腹部に刺ったロングラビットはたった一撃で沈黙した。


「強いな、ベン!」

「あったぼうよ!」


 力こぶを見せるベンの笑顔が眩しい。


「もしかして、モンスターと戦った経験があるのか?」

「ヘヘヘ。オヤジに何度か狩りに連れていってもらったことがあるぜ」


 それで冷静に対処していたのか。


「それじゃあ、俺もいいところを見せないとな」

「おう、見てやるぜ」


 その前にロングラビットの血抜きと内臓を取り出す。

 短剣で首を斬り落とす。ある程度血を抜いたら今度は腹を裂く。


「戦闘より後処理のほうが時間がかかるのな」

「ちげーねぇ。ハハハ」


 ロングラビットはベンが持ってきた大きな背嚢にしまう。


「これ、大きすぎないか?」

「たくさん狩るんだよ。そしたらたくさん食べられるだろ」


 ベンらしいと笑ってしまう。


 先に進んで次もロングラビットと遭遇した。

 俺は弓に矢をつがえ、弦を引く。

 ロングラビットも俺たちに気づいて、殺気だった真っ赤な目を向けてくる。


 ヒュンッ。


「ピキィィィッ」


 矢はロングラビットの後ろ足の付け根に刺さった。


「よし!」


 剣を抜いて走る。


「はぁぁぁっ!」


 ズシャッ。

 剣でロングラビットの首を斬り落とす。


「いい斬れ味だな」

「ベンのお父さんが造った剣だと知ってて言ってるだろ」

「ハハハ」


 ベンは笑ってロングラビットの後処理をする。






 ▽▽▽ Side ロブ・アシュード・ロックスフォール騎士爵 ▽▽▽


 両親は妻と同時に流行り病で亡くした。あの時は本当にガックリきたが、領民を放り出すわけにもいかず、なんとか立ち直った。


 そしたら、前ライトスター侯爵の子供を養子にという話があった。

 亡くなった妻とは仲は良かったが、子供はできなかった。

 再婚する気はなかったので、いつかは養子をとらないといけないと思っていたが、相手がライトスター侯爵というのが懸念材料だ。


 親父は二代前のライトスター侯爵に世話になったと言っていたが、前当主と現当主はお世辞にも人格者ではない。

 寄親といっても、二代前の侯爵が亡くなってからこの二十年ほどはあまり付き合いもない。

 時候の挨拶をする程度だ。


 相手は寄親だし、侯爵という高位の貴族だ。仮に断るにしても、まずは子供と話をしなければ始まらない。

 そのためライトスター侯爵家が治めるバルド領へと足を運んだ。


 ライトスター侯爵と面談すると、養子だけでなく妻も娶れと言いだした。

 途中で席を立つことができる相手ではない。仕方がなく、その妻候補の女性と会うことになった。どうやら、こちらのほうが本命だったようだ。


 その女性はライトスター侯爵の妾の一人だ。出自は貧民、要は奴隷だったと本人が明かした。

 ライトスター侯爵は奴隷ということを隠して俺に押しつけようとしたようだが、アリューシャ殿は正直にこれまでの過去を語った。


「すると、昔の記憶がないのですか?」

「はい。気づいたら、このライトスター侯爵家の奴隷でした。それ以前の記憶はないのです……」


 ライトスター侯爵は奴隷だったアリューシャ殿を犯し、そして子供が生まれた。


「ですから、断っていただいていいのです。私はどのようにでも生きていきます。ただ、もしロックスフォール様のご慈悲に縋ることができるのであれば、息子のトーマのことをお願いできないでしょうか」


 アリューシャ殿は床に頭を擦りつけ、息子のことを懇願するではないか。

 恐らく侯爵家で酷い扱いを受けているのだろう。あの侯爵の性格を思うと、それも納得してしまう。


 ライトスター侯爵家の中には、知り合いがいるから色々調べた。

 俺が想像したように、アリューシャ殿とトーマ君はあまりいい扱いを受けてないと分かった。


 アリューシャ殿と三度会う機会があり、俺は彼女を妻にすると決めた。

 彼女のトーマ君への想いは俺にも伝わってきたし、彼女自身は慎みのある女性だ。


 ちょっと前のことだが、こうして目を閉じると昨日のことのように思い出せる。


「さて、嫌なことを済まさないとな……」


 俺はため息を吐くと、デスクの上に四通の書状を並べて置いた。三通はバイエルライン公爵からのもの、一通はライトスター侯爵からのものだ。


 バイエルライン公爵からは、新年の挨拶に馬王を贈った時のお礼の書状と、その馬王をできるだけ多く購入したいという書状、そして購入した馬王がとても美味しいというお礼の書状だ。

 内容はとても丁寧で、当家に感謝しているという言葉が何度もあった。


 対してライトスター侯爵家の書状には、うちではダンジョンの管理などできないから権利を寄こせや、馬王をもっと売ってやるから専売権を寄こせというものだった。

 バイエルライン公爵とは正反対の俺を莫迦にした内容で、怒りを通り越して呆れるほどだ。

 何代も縁のあるライトスター侯爵家だが、さすがに看過できるものではない。


「そろそろ縁を切る頃合いか」


 仲のいいリッテンハイム男爵とも諮る必要があるな。

 さっそくリッテンハイム男爵に書状をしたためる。


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