トーマ ~騎士爵家の養子になった転生者~

なんじゃもんじゃ/大野半兵衛

プロローグ

第1話 これ死んだな

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 第1話 これ死んだな

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 修学旅行のバスの中の生徒は、いくつかのグループに別れる。

 バカ騒ぎするグループ、寝るグループ、音楽鑑賞や読書など静かに過ごすグループ、そしてただボーッとしているグループ。


 俺、石動闘魔いするぎとうまは、四番目のボーッとしているグループだ。

 初めて訪れる場所だから、景色を眺めているのはそれなりに楽しい。


 緑豊かな渓谷を走っていると、バスが揺れた。左右に大きく蛇行しているようだ。


「な、何っ!?」

「おい、運転手! もっと静かに運転しろよ!」


 その声は運転手に聞こえてなかった。

 俺が見たのは、ハンドルに顔を埋めるように力なく項垂れている運転手なのだ。あれは意識を失っているようだ。

 そう認識した瞬間、バスはガードレールを突き破った。


「「「キャーッ」」」

「「「ウオォォォォォォォッ」」」


 浮遊感を感じ、クラスメイトたちの絶叫を聞いた。

 崖の下は石がゴロゴロとした河原だ。

 地面が迫ってくる。


「あー、これ死んだな」


 そう感じた瞬間、俺はここで死ぬのかと目を閉じた。

 そして激しい衝撃が体を貫いた。




 なんかすごく寒い。

 目を開けると、そこは地獄絵図が広がっていた。

 バスは先頭部から逆立ち状態になっており、へしゃけていた。

 そこにクラスメイトたちが折り重なり、血を流していた。

 俺はシートベルトをしていたが、皆はしていなかったようで酷い有り様だ。


 だが、シートベルトをしていても、死ぬ。


「カハッ」


 俺は血を吐いた。

 なんということだろうか。俺の腹に金属の棒が刺さっているんだ。

 前の席を貫いて、俺まで貫いている。串刺しだ。


「これ、マジで死んだな」


 痛みは感じない。

 だけど、北極にいるように寒い。


 このままでは、確実に死ぬ。

 救助が先か、死ぬのが先かの問題になる。

 仮に救助されて、こんな棒が腹を貫いているんだ。救助後に死ぬ可能性もあり得るだろう。


「ああ、短い人生だったな」


 もっとも、やっと死ぬことができるというべきか。


 俺は両親から暴力を受けていた。

 中学二年の時にそれが原因で入院したのが切欠で、病院から通報があって俺は児童養護施設に引き取られることになった。

 あれから両親とは会っていない。どうなったのかも知らない。


 児童養護施設から通った中学では、『親ナシ』とバカにされた。それは高校に入っても同じだ。

 クラスメイトたちはことあるごとに俺を『親ナシ』と言う。


 そんなことは両親から受けた暴力に比べれば大したことではない。高校を卒業するまでの我慢だと思っていたが、ここで死ぬことになるとはな……。

 人生ってのは、本当に数奇なものだよ。


 そんなことを思っていると、視界が白くなっていく。

 もう死ぬのかと思った。

 同時に苦しみが俺を襲った。かつてない苦しみだ。身をよじるほどの苦しみだが、身じろぎひとつできなかった。

 死ぬ間際になっても、俺は苦痛から逃れられないのかと嫌になる。


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