第10話 理不尽

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 第10話 理不尽

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 最後に俺が赤毛女神の前に立つ。

 俺以外の全員が加護をさずかり、ステータスが見られるようになっている。


 金髪女神がランクに異様に反応している。

 おそらく、ステータスの各項目の中でランクが一番重要なんだと思う。

 できれば『B』ランクくらいがもらえると嬉しい。


「あなたで最後ね……ん?」


 赤毛女神が俺の左手の甲を触ったら、戸惑った顔をした。

 嫌な予感がする。こういった時の予感はよく当たるんだ。そんな能力要らないのに……。


「おかしいわね。あなた、なんでここにいるの?」

「……あの、言っている意味が分かりません」


 俺が自分の意志でここにいるわけじゃないのに、そんなこと言われても困るんですけど。


「シャイリー、どうしたの?」

「それがこの子はリストにないのよ、ティライア」


 赤毛女神はシャイリーで、金髪女神がティライアという名のようだ。

 女神の名前を知ったからと言って、だからなんだと思うのだが、何か考えていないと不安でしょうがないんだ。

 俺はいつも不安に苛まれてきた。だから、いつも現実逃避をしてきた。


 ティライアの目の前にホログラムが浮かび上がる。

 それを見ていた、ティライアが目をカッと見っ開いた。


「……この子、まだ生きていたようね」


 今、なんか不穏な言葉を聞いたような?

 俺はまだ生きていたの?


「おかしいわ! 私が連れてきた子たちは、全員死んでいるはずよ!」


 ティライアが取り乱している。


「落ちつけよ、ティライア」

「落ちついていられるわけないじゃない、ドーラス!」


 イケメン神はドーラスというのか。

 いや、今はそれじゃなくて、なんでこんなに狼狽えているだよ?

 俺が生きていたら、何かマズいのだろうか? 元の世界に戻すだけじゃないのか?


「ファストクラウドの神と交渉したのは私なのよ! 死んだ者の魂だけってことで許可を得たのに、生きた者を連れてきたら何を言われるか! あー、もう!」


 なるほど、そういう経緯があるのか。それでティライアは慌てているわけだ。


「それよりも、こいつをどうするんだ?」

「どうするって……どうしよう?」

「今さら返すこともできないしね」


 返品不可みたいに言わないでほしい……。


「よし、廃棄するわ!」


 おい、ティライア!

 あんたが言うとシャレにならないんだから、そんなこと言わないくれ!


「そんなことして、ファストクラウドの神に知られたら言いわけできないわよ。素直に謝ったら?」


 シャイリー、あんた神かよ!


「俺も素直にファストクラウドの神に言ったほうがいいと思うが?」

「あんたらはいいわよ、頭を下げるのは私なのよ! ネチネチ厭味を言われるのよ。鬱陶しいったらありゃしないんだから!」


 何言ってんの、謝っちまいなよ、You!


「本気で廃棄するのか?」

「あたしは止めたほうがいいと思うなー」

「もう決めたのよ! こいつは廃棄よ!」

「え……」


 やっぱりその流れなのか。

 なんで俺はいつもこうなんだ。

 俺が一体何をしたというんだ。


「あんたのおかげで、私たちは危ない橋を渡ることになったじゃない! このクズ!」


 俺より、ティライアのほうがよほどクズな思考をしていると思う。


「ギャハハハ。クズだってよ! 廃棄だってよーっ!」


 石破拳がバカ笑いし、腹を押えている。

 他のクラスメイトもやっぱり俺を蔑んだ目で見ている。

 こいつらは自分がその立場になった時、どういう顔をするのかな。

 俺はいつも表情消し、不安や恐怖といった感情を表に出さないように押し殺してきた。

 それが生きていくための処世術だったんだ。

 お前たちは、そんな経験ないだろ? 気が狂いそうになるんだぜ。お前らも、その恐怖を経験してみろよ。


「そんな、おかしいです! まだ生きているなら、石動君を元の世界に戻してあげてください!」


 桂美麗さんだけが俺を擁護し、俺の前に立つ。

 その瞬間、ドーラスが動き、桂美麗さんの腹に槍の石突が当てられた。


「うっ……」


 桂美麗さんは意識を失い、その場に倒れてしまう。

 こいつら、なんてことをするんだ!


「お前ら最低だな。あんたらの都合で連れてきて、都合が悪いから廃棄するのか?」


 俺は神を僭称するクズたちに、生きていたのにここに連れてこられた。

 間違いを認め、地球に帰してくれればいいのに、どうせ死んだことにされるんだろ。だったら、心を殺して我慢する必要なんてないじゃないか。


「あん? 生意気ね、あんた」

「生意気? 生きていた俺をここに連れてきた間抜けが何を言っているんだ?」

「だ、誰が間抜けよ!?」


 俺はティライアを指差した。


「お前だよ、クズ。そしてお前だ、何が止めたほうがいいなーだ、結局止めないんだろ? だったら、お前もこのクズと同類だ。そして、お前! 俺を庇った桂さんを攻撃するとか、フザけるなよ! お前らのようなクズを見ていると、反吐が出るぜ!」


 俺は一気にまくし立てた。

 こんなものは心の中で思っていることの一パーセントも吐き出してない。

 だけど、これまで我慢して口を閉ざしていたことが癖になり、上手く言えない。


「よく言ったわ! 吐いた唾、呑むんじゃないわよ!」

「俺たちをクズと言うか。下賤な者が生意気な!」

「あたしまでクズって酷いわね。廃棄勇者君」

「「「覚悟しろ!」」」


 クズ神らから眩しい光りが発せられ、俺は一瞬でその存在を消し去られた。


「お前ら最低のクズだ! 神罰が下ればいいんだ!」

「アハハハ! 私たちが神なのよ! このクズが!」


 ティライアの言葉が最後となり、俺は意識を手放した。


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