「わたしとかえるとカニと」(2023.8)

「逆境」をテーマに書いた作品ですが、この物語のどこを「逆境」と捉えるかは読者に託しているところであって、たとえば二人を取り巻くクィア性に対する世間の反応なのか。変容によって訪れる自身、他者の反応なのか。しゃべれない・通じない・分からない。どこを切り取っても逆境になるからこそ、話のどこかにそれを見つけてもらえたらいいなと。「嫌」だと思う箇所は人によって異なると思うんです。許可なく茹でる嘉手さん、にかちゃんのお母さん、チューの効力に酔いしれるわたし、わたしのせいにするお父さん、かえるになったにかちゃん、カニになったお母さん、クラスメイト。嫌だ、気持ち悪いって思ったら正解で、それが読み手が正直に思った感想であり、彼らに向けるであろう本心だから。逆境にあってもなお、あくまで人間であることを要求され、みんなの言う「ふつう」がとっくの昔に変容していることにも気づくことさえなく、白い目を向けるだけの人だってたくさんいるから。タイトルの本歌取りのようになってしまうので敢えて「みんな違ってみんないい」という言葉を本文から排除しましたが、みんな違ってしまったら誰も本当のことは見えなくなるよ、という半ばアンチテーゼのようなものとして逆境を書きました。+百合自主企画の締め切り当日になんとか間に合わせました。夏休みに読んでもらいたい作品です。


 『中身だけが変わっていて、外面だけで人か人じゃないかを判断するってものすごく一面的で偏っているではないか、という一石を投じたかった。』と「托卵(2022.12)」で書いているのですが、今作では逆に「外見だけが変わって中身が同じ」という形で書いてみました。また、違う味を出せたんじゃないかなと思います。


 斜線堂有紀先生からコメントを頂きました。ありがとうございました。

『どんな姿になってもあなたが好き、あなただから好き、をマジックリアリズム展開にて表す物語です。冒頭の掴みや子供らしい語りなどは面白かったのですが、工夫を凝らしたのにもかかわらず終わり方があっさりし過ぎていることや、変身というモチーフから結論が予想出来てしまうことが難点です。(斜線堂有紀)』


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