私たちは、Zなサメの世界で恋をする

ハル

プロローグ

 DVDの表パッケージに描かれていた中年男性が、砂浜を歩いている。


「ついに我が宿願の叶うときが来た!」


 男性が高々と三角フラスコを掲げ、口をつけたとき、海からサメが飛んできた。次のカットでは男性の首は消えて血が噴き出し、フラスコは転がって中の液体は砂浜にこぼれていた。


 サメは紙を丸めるような音を立ててフラスコを食べ、ヒレで這って海に戻っていく。タイトルが表示され、オープニングロールとオープニングテーマが流れはじめた。


 その時点でもう、鈴鹿すずか倫子りんこは混乱するのを通り越して呆然としていた。


 色味も明暗も素人臭く、中年男性役の俳優は、英語ネイティブではない倫子にも一目瞭然な大根役者。


 サメは小学生が粘土で作ったようなデザインで、血が噴き出すCGは、初期のプレステやセガのゲーム以下のクオリティ。


 タイトルロールのフォントには味も素っ気もなく、オープニングテーマは単調かつ単旋律。


 だいたい、いったいどうしてサメが飛ぶのか。這うのか。


 事の起こりは二週間前――。

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